第7話 カノン
まるで天より降り注ぐ稲妻のような斧槍の一撃を、私はひらりと飛び下がって、回避した。
その隙に、地面に這いつくばるグラムとマティアを背後に庇うように、カノンが降り立ち、私に向かって斧槍を構え直す。
その薄らと涙を浮かべた目は、完全に私に対する憤怒と憎悪で燃えていた。
(どう見ても、すでに弁明不可能です。本当にありがとうございました)
やっぱりため息しか出てこない私であった。
「よくも……よくも、カノンとマティアを……私の妹達を!!
イヴ様……貴女がそんな人だとは思わなかった……!」
「いや。まぁ……確かにそうも見えなくはないけど」
どうやら、カノン。詳細な事実確認もせずに、私を一方的に悪と断定し、こうして突っかかってくるあたり、わりと激情家であるらしい(後、脳筋であるらしい)。
「一応、聞くわ。弁明聞く気ある?」
「聞く耳ありません!」
即答かよ。もう私、この国嫌い。
「”悪魔が偽りを言う時、それは彼の本性から出た言葉”ですから!
聞く価値など、微塵もありません!」
「そうよね、でしょうね、わかってた。ああああ、もぉ~~っ!」
この国の連中、面倒臭すぎる。
私は頭を掻きむしるしかなかった。
「だ……駄目だよ、カノ姉……に、逃げて……そいつ……は……」
グラムがカノンに警告するが。
「大丈夫だよ……ノヴァ姉様達が、私達にそうしてくれていたように……グラムとマティアは、私が守る……絶対に……!」
聞かず、カノンは一歩前に出てきて、私と一世苛烈に相対する。
「罪深い私は、どうなってもいい!!
でも!! 妹達を傷つける者だけは、許さない!!」
”主は我らに問うた! 人よ、善きこととは何か!
主は、何を求めておられるのか!
それは――正義を行い、誠実を愛し、主と共に歩むことである!”」
ぐるん、とカノンは頭上で斧槍を一回転させるように、振りかざし――
「――
一気に私へ向かって突進を開始してくる。
振りかざす斧槍の刃先に圧倒的な法力が漲り――法力で形作られた巨大な刃が伸ばされる。
「――ッ!?」
斧槍のリーチを大きく超えて、法力の刃が縦横無尽に振るわれる。
私はそれを咄嗟に、体を捌き、身を屈め、飛び下がって、回避する。
「逃がしません!! ”御使はその鎌を地に投げ入れ、ぶどうを一房取り、怒れる神の酒船へと投げ込んだ”――【断罪の鎌】!」
間髪置かず、カノンが斧槍を振るう。
すると、極光で形成された巨大な光輪が無数に、カノンの頭上に出現する。
そして、それらが高速回転しながら、一気に私へと飛来してくる。
(見るからに、切れ味抜群って感じね……)
体捌きでかわしてもいい。
が、この術は恐らく遠隔的に弾道操作できるタイプの術だ。
経験でそう判断し、私は呪文を唱えた。
「《輝く壁よ・災禍の歩みを阻みて・我を護れ》」
黒魔【フォース・シールド】。
余裕の三節詠唱で、眼前にハニカム構造状の魔力障壁を展開。
飛来する光輪を受け止める。
魔力障壁に衝突し、硝子のように砕け散っていく光輪達。
私の読み通り、飛来する光輪の一つが、私の眼前に展開される魔力障壁を迂回するように、軌道を曲げて頭上から飛び越えるように迫ってくるが……
当然、私は頭上にも魔力障壁を展開しており、その光輪は呆気なく砕け散る。
「くっ、読み切られた……!?
で、ですが……”子よ、貴方の罪は赦されました”。【神癒】!」
私に初見で術を見切られたこと驚くカノンだったが、怯まず聖句を唱え、斧槍を祈るように掲げる。
すると、傍らで倒れ伏しているグラムとマティアの頭上に光の粒子が優しく降り注ぎ……その負傷がみるみるうちに癒やされていく。
(……回復法術もお手の物ってわけね)
私は、そんな様子を観察しながら物思う。
(なるほど……なかなかやるわね。
カノン……近接戦闘も、遠距離戦闘も高いレベルでこなす。おまけに回復法術もある……近接戦特化のグラム、遠距離戦特化のマティアと合わせて面白いチームだわ)
私が、この国での新しい部下達をそんな風に評価していると。
「くぅ……あ、ありがとう……カノ姉……」
「うぅ……」
回復したグラム、マティアが起き上がり、カノンの左右に並んだ。
「カノ姉……実は、あの人……火を……」
「……わかってる。でも、私は退けないよ。わかるでしょう?」
グラムの声を遮って、カノンが悲壮な覚悟を固めて強く言った。
……?
私が怖いのだろうか? 私を見るカノンの手が震えている。
そして――
「そう……だね……!
私達の《
「私達の最後の居場所にて、墓所……絶対に守らなきゃ……」
グラムとマティアがそんなカノンを守るように立ち、それぞれ武器を構えて、私を睨み付けてくる。……何? あの変な陣形。
だが、彼女ら三人の目は、自分達の信じる、自分達の大切な物を守るための尊い決意を灯されていて……
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……めんどくさ」
私は、クソデカため息を吐いていた。だって、それ以外にどうしろと?
まったく、狂信者とは性質が悪い。
まず聞く耳がないからである。言葉より先に剣が出るからである。
「……仕方ないわね。ちょっとだけ本気出すか」
私は、そう投げ槍に言い捨てて。
「私の新魔術……貴女達にお披露目してあげるわ」
両手をゆらりと動かして、だらりと下げるのであった――
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