婚約者を妹に取られましたが、社交パーティーの評価で見返してやるつもりです

第15話 円滑な運営と

　ハーウッド家の執事やメイドたちは、着実に成長していった。パーティーの準備から終わりまでの動きを、しっかりと学んでいった。ヴィクトリアが丁寧に教育して、スキルをレベルアップさせていったのだ。

　パーティーを開催するたびに経験値を積み、最初は多少の失敗もあったが、今ではスムーズに仕事をこなせるようになっていた。とても頼もしい人材に育っていた。その分の報酬もしっかりと支払われ、彼らのモチベーションも非常に高い。その結果、ハーウッド家主催のパーティーの評判も着実に高まっていった。

　ヴィクトリアはハーウッド家の一員として馴染んでいった。かつて社交嫌いとまで言われていたハーウッド家だが、その影も形も無くなっていた。その変化について、エドワードも喜んでいた。そして彼は、ヴィクトリアに何度も感謝を伝える。

「君の活躍は、やはり想像していた以上だよ。本当にありがとう」

「エドワード様の助力となれたのなら、私も嬉しいです」

「あぁ。とっても助かっている」

　その日のパーティーでは、ノースヘブン地方で収穫された野菜を使った郷土料理が提供された。

「本日は、ノースヘブン地方で収穫された野菜をたっぷりと使った郷土料理を用意しました。どうぞ、ご賞味ください」

　テーブルの上に配膳された料理の数々を、参加者たちが手を伸ばして口にする。

「いただいてみましょうか」

「うん。美味しいな」

「なかなかの味じゃないか。ノースヘブンというと、シルバーピーク山脈周囲の土地の産物かな？」

「えぇ、そうなんですよ」

　提供した料理は、大変な好評のようだった。土地や特産品にも興味を持ってくれたようで、充実した会話ができたとヴィクトリアは思う。話題への食いつきが素晴らしいので、続けて地方の商品をアピールしていく。

「ノースヘブンから商品を輸送するのは大変ですが、中央では入手が困難な、新鮮で美味しい野菜が沢山あるんですよ」

「ふむふむ」

「なるほど。その方面の調査が不足していたな」

「ちょっと、商隊を送ってみようかな」

　パーティーでの会話が、後に大きな商談に発展していくことは珍しくない。今回のお披露目は、非常に手応えがあった。ノースヘブン地方の特産品が注目を集めて、人気商品になってくれる可能性も高そうだった。

　ノースヘブン地方を統治しているレインフォード侯爵家は、ハーウッド家との関係も深い貴族だった。そのため、レインフォード侯爵家の商品が売れて繁盛すれば、巡り巡ってハーウッド家の発展にも繋がる。そういうことも考慮して、パーティーで提供する食事や娯楽などを決めたりすることも多い。

　貴族の関係は、とても大切にしておきたい。そういう気持ちを忘れないようにするヴィクトリア。今日のパーティーも、成功する予感がした。

「エドワード様、ご報告したいことが」

「どうした？」

　ヴィクトリアと一緒にいたエドワードに、一人の執事が近寄ってきて小声で何かを伝えた。

　ヴィクトリアにも聞こえていたけど、参加者たちとの対応に集中する。何か問題が起きたらしいが、そちらに意識は向けない。他の人達が興味を向けないように、別の話題で注意を引く。ちょうどいいタイミングで、音楽隊の準備が整っていたので演奏を始めてもらうように指示した。

「新しい催し物が始まりますよ」

「おや、楽しみですな」

「私は、毎回これが楽しみでね」

「とても文化的だな」

　彼らの注意が音楽隊へ向いている間に、ヴィクトリアはエドワードに近寄る。

「何か問題が？」

「ああ。でも、こちらで対応する。少し離れるよ」

「はい、お願いします」

　エドワードはそう言って会場から出ていった。けれど、十分ほどで戻ってきた。深刻な様子はなく、普通だった。ヴィクトリアは戻ってきた彼に近寄り、尋ねる。

「どうでしたか？」

「ああ。既に解決した。詳しい話は、終わってから話すよ」

「わかりました」

　ヴィクトリアは疑問に思いつつも一旦置いておいて、パーティーの運営に集中することにした。

　その後、パーティーは無事に終了した。ヴィクトリアとエドワードは、貴族たちが帰っていくのを見送った。

　一息ついたところで、エドワードから話を聞いたヴィクトリア。彼女は、元婚約者であるダミアンが会場に来て騒ぎを起こしたことを知った。彼が無理やり会場に侵入しようとしたところを、追い返されたことも。