婚約者を妹に取られましたが、社交パーティーの評価で見返してやるつもりです
キョウキョウ
第1話 突然の婚約破棄
「ヴィクトリア、君との婚約を破棄する」
「はい? それは、どういう……」
とある王国の首都にて。名門貴族の公爵家であるブラックソーン家の屋敷に、侯爵令嬢のヴィクトリア・ローズウッドが呼び出された。そこで、唐突に婚約相手であるダミアンから婚約破棄を告げられた。
ヴィクトリアは困惑しながら、どういうことかと問いかける。何も聞いていない。どうしていきなり、婚約を破棄されるのか理解不能だった。
「これまでお前に任せてきたパーティーは大成功を収めてきた。毎回評価も高くて、得たものも多い」
「はぁ……」
ダミアンから、パーティーの準備の大半を任されていたヴィクトリア。普通は主催である彼が処理するべき仕事である。だが、パートナーに任せる男は多い。そして、ダミアンもヴィクトリアに全て任せていた。
任された準備は失敗していないはず。でも、いつも文句ばかり言われていたから、ダミアンが評価しているとは思わなかった。そんなに文句を言うのなら自分で準備すればいいのに。そう思うこともあったが、他の仕事が忙しいと言い訳をして彼は逃げてしまう。
面倒だし、出来るやつに任せておけばいい。それで評価を得られるのだから、楽なものだとダミアンは思っていた。
確かに次期当主候補の彼には、やるべきことがある。理解していたヴィクトリア。そうだとしても、文句を言われるのは不愉快だった。もちろん、そんなことで準備の手は抜かない。任された仕事は、ちゃんとする。
だから、ちょっとぐらい褒めてくれていいのに。ヴィクトリアは常に、そう思っていた。口や態度には出さなかったけれど。
ただ、今回のダミアンの評価は素直に受け取れない。いきなりの高評価に、むしろ違和感がある。今まで素直に褒めなかったのに、急にどうして。この後、悪いことを言う前置きにしか思えなかった。
そして、ヴィクトリアのその嫌な予想は当たっていた。
「それが本当に、自分の力だったなら評価しよう」
「どういうことですか?」
何が言いたいのか。ヴィクトリアは疑問の表情を浮かべた。
「お前は、功績を奪っただけだ。実際に準備を指揮した者は、別にいるのだろう? 言い逃れは出来ないぞ!」
ダミアンは傲慢な態度で言い放った。その目は冷たく、ヴィクトリアを見下すような印象を与えた。
視線を向けられているヴィクトリアも不満があった。なぜ自分が疑われているのか、別の誰かが準備を指揮した? 疑われている理由が理解できなかった。あれは、ちゃんと自分が準備と進行を指揮した。苦労して、ようやく成功させたのに。
不愉快だったヴィクトリアだけど、そんな感情を表には出さないよう冷静に対応を続ける。状況把握に務めた。
「功績を奪った? それは一体、どういう意味なのでしょうか」
「白を切るつもりか?」
「ですから、そんなこと私はしていませんよ。勘違いではありませんか?」
ヴィクトリアは訴えた。それは、何かの間違いだろう。誰かの功績を奪ったつもりなんて、一切ない。身に覚えのない罪で責められて、ヴィクトリアは事実を明らかにしようと対話を続ける。
だけど、ダミアンは話を聞かない。別の誰かから功績を奪い取ったのが事実だと、信じ切っているから。これまでの成功は、ヴィクトリアの力じゃない。騙されていたのだと憤慨している。そのことを隠していたことにも、彼は怒っていた。
ヴィクトリアは予想する。誰かがダミアンに嘘の情報を伝えて、自分を疑うように仕向けたのか。その犯人も、目星がついている。きっと、彼女の仕業だろうと。
ヴィクトリアが考えている最中に、ダミアンが口を開く。
「はぁ……。まだ言い逃れを続けるというのか」
「ですから、私は――」
「それなら、当事者を呼んで説明してもらわないとな。彼女を連れてこい」
ヴィクトリアの言葉を遮るように、ダミアンは執事に指示を出した。執事は一礼して部屋を出ていく。もはやヴィクトリアの言葉に耳を傾けようとしないダミアンに、彼女も沈黙を選んだ。
話に応じないダミアンを見て、ヴィクトリアも黙った。時間が過ぎていく。執事が連れて来る人物の到着を待った。
「例の女性を、お連れしました」
「お呼びでしょうか、ダミアン様」
「ああ、よく来てくれた」
やって来たのは、ヴィクトリアの妹イザベラだった。彼女はヴィクトリアを見るなり、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。その目は、姉を見下すように細められている。
「……やっぱり」
小さく呟くヴィクトリア。あなたが、ダミアンに疑いをもたせた犯人だったのね。堂々と、パーティーの真の功労者として現れたイザベラ。よほど自信があるのだろう。実際、ダミアンはイザベラを信頼したような目で見ている。
いつもこうだ! そう思うヴィクトリア。イザベラとの姉妹関係は昔から良好とは言えなかった。幼い頃から、イザベラはヴィクトリアの持ち物を奪ったり、嫌がらせを繰り返したりしてきた。
そんな妹の行動をヴィクトリアは注意することもあった。けれど、両親は下の子であるイザベラを溺愛し、彼女の言動を咎めることはなかった。そのため、イザベラは調子に乗り、ワガママも年々エスカレートしていった。
疲れ果てたヴィクトリアは、イザベラとの直接的な関わりを避けるようになった。それなのに、向こうから積極的に関わろうとしてくる。まさか、ここまでやるなんて思わなかった。
それで、彼女が説明するつもりなの? 私が功績を奪ったなんて、嘘の事実を? ヴィクトリアは、疑いの目を妹に向ける。今度は、どうするつもりなのか。
「よく来てくれた、イザベラ。君の姉上は、まだ白を切り通すつもりらしい」
「あら、お姉様ったら。いつまで嘘を付き通すつもりかしら?」
目の前で繰り広げられる理不尽な言葉に、ヴィクトリアは感情を抑えるのに必死だった。
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