吸血鬼ちゃんの日常
イナエ
第1話
深夜二時、棺の蓋を開け起き上がると、友人の蜘蛛のクモ助が天井から垂らした糸にぶら下がりながらこちらを見ていた。
「おはよう、吸血鬼ちゃん」
「おはよう、クモ助」
挨拶を済ませるとわたしは右の掌にクモ助を乗せた。
「今日は何をするの?」
「うーん、いつも通り読書かな。やらなきゃいけない事とかないからね」
「それはいけない」クモ助は大げさに驚いたような口調で言った。
「いくら不老不死だからって、メリハリのない生活をするのはよくないよ」そのとおりかもしれないような気がする。
「久々に出かけてみたら?何か良い出会いがあるかも」
「それはいい案だね。よし、じゃあ今日は公園でピクニックだ!」わたしは右手でガッツポーズをした。
「あっ!」
右手にはクモ助が乗っていたことを思い出したが、遅かった。手を開いてみると掌には真っ黒くつぶれたクモ助の死骸がこびりついていた。
「あ~あ」
死んでしまったものは仕方ない。切り替えていこう。さっそくピクニックの準備だ!
バッグに寄付してもらった血液パックと読みかけの本を詰め込み、コートを羽織って準備完了。
「いってきまーす」誰もいない城に響き渡るわたしの声の残響が消えた後、公園に向かって歩き始めた。出かけて五分も経たないうちに酔っ払いおじさん三人組に絡まれた。
「ねえちゃんかわいいねー、おじさんたちと遊ばない?」
「いえ、お酒臭い人の血はおいしくないので結構です」そのまま歩き去ろうとしたら、一人のおじさんがわたしの腕をつかんだ。
「そんなこと言わないで、おじさんの血を吸ってくれよ~」
「しょうがないなぁ」私はおじさんの首筋にかみついた。
「ヒエェ…!」それを見たおじさん二人はびっくりして逃げ出してしまった。まさか冗談だったのだろうか。数分吸い続けていると、なんだか頭がくらくらしてきて、血をすべて飲み干すころにはすっかり酔っぱらってしまった。
「これだからお酒臭い人の血は嫌なんだ」千鳥足になりながら公園へ向かって歩き始めた。
公園に到着すると、近くにあったベンチに座った。酔いを醒ますために持ってきた血液パックを飲んだ。
「本を持ってきたけど、酔いがひどくて読めそうにないな」
わたしは読書をあきらめて、公園の風景を眺めて時間をつぶすことにした。葉のついていない樹木、誰もいない砂場に、古びた遊具。一通り見まわすと、もう飽きてしまった。城に帰ろう。まったく、酔っ払いの血なんか飲むんじゃなかった。
わたしはゆっくりとベンチから立ち上がり家路についた。途中、おじさんが一人倒れていたような気がするけれど、たぶん気のせいだと思う。
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