第17話 繭
「アラタッ!アラタ起きて!!」
逼迫したマリッさの声で目が覚めた。
「どうした!」
ベッドから飛び起きるとマリッサがムトゥスを抱いて慌てている。
「ムトゥス様が、ムトゥス様が石になっちゃたぁ!!」
「石!?」
駆け寄り腕の中をみるとムトゥスは顔も皮膚も蠟人形のように柔軟性を失い固くなっている。
「なんだこれは!?どうして・・・」
「分からないの!今朝起きたら少し皮膚がおかしいなと思っているうちにどんどん固くなってきて!」
「魔族の成長過程で似たようなことはないのか?」
「ないわ、聞いた事ない」
その間にも硬度を増したムトゥスは肌は外殻化していく。
「ああっ、そんな!ムトゥス様!」
騒ぎを聞いた爺婆が部屋に駆け込んでくる。
「どうかしただか!?」
「ムトゥスがおかしいんだ!」
半泣きのマリッサに抱かれたムトゥスを覗き込んでも爺婆は驚かなかった。
「ありゃー、ムトゥス様、繭になっちまっただか」
「繭!?」
「なぁにも、今じゃなくてもよかろうに、もう少しあやしたかっだない」
「前にもあったのか」
「イーヴァン様もあんときゃ泣いておられたの、シン様と慌てて神殿から飛んでこられたわい」
「始めて見た時は、たまがったばってん、大丈夫じゃ、イーヴァン様が大ぎくなるための準備たい」
「孵化するということか」
「準備が終われば自分で殻を割って出てきなさる、前もそうじゃった」
半泣きだったマリッサも冷静さを取り戻す、神のごとき子だ、人の尺度では測れないと承知している。
「前んときゃ、二日目には卵みてぇに、丸くなっつごった」
「孵化するまではどのくらいだ」
「前んときゃ一週間くらいだったかの」
「いろいろ、びくりさせられる」
驚いた後の少しの安堵、不安は尽きないが当面の心配はなさそうだ。
「昨日の透明な蟻はなんだったんだ」
「あれは地底に住んどるイザナギアリっちゅうて、狂暴なやつじゃ」
「私にも見えなかったわ」
「外側の甲羅が鏡みたいなっとるで、周りの景色を映しちまうから外郭が見えんのじゃ」
「暗いところだと手の出しようがないな」
「それで赤い液体で色を付けて識別したのか」
「そうじゃ、わしらもめったに出会うことなんかないんじゃが、このところ急に増えて困っとる」
ジダン爺は朝食のパンに木苺のジャムを乗せて、発酵させたお茶と共に流し込む。
「魔族軍の逃亡者や、家畜の魔獣たちの相当数が樹海に逃げ込んだはず、姿を見なかったかしら?」
ムトゥスは今、マリッサの腕の中ではなく、厚く敷いた布団の上だ。
「見たよ、樹海の真ん中あたりで・・・みんなミイラになっとる」
「!?」
「イザナギアリは別名吸血蟻、血と体液まで根こそぎ吸い取っちまう」
「それじゃあ・・・全滅!?」
「蟻が増えた原因の一つかもしれん」
「普段は冥界の地底深くにいて、群れることはしないじゃが、ミイラを見ると一匹二匹に襲われたんとは違うなぁ」
「脅威だな」
「黒笹のある場所が危ない、近づかん方がええ」
「冥界神社付近は赤石が多いから、あんまし見かけん」
「最大の脅威はやはり、俺と同様の異世界人だ、この拳銃よりも更に協力な銃を装備している」
「追ってきとるんか?」
「可能性は大きい」
「ここまでくれば爺婆にも危害が及ぶかもしれん」
「盗賊の類じゃの」
「そんなら、今年は早めに夏小屋に引っ越すことにしようかの」
ジダン爺は夏になるともっぱら渓流魚を追って猟師となる、今いるのは越冬するための冬小屋だ、夏小屋は更に高地にある。
「マリッサ、お前もムトゥスを連れてそこへいけ」
「!!」
「これから先はユルゲンと・・・異世界の狙撃手同士の戦いだ」
「私が邪魔になると言うの!?」
マリッサの表情が一変する。
「そうだ・・・五百メートルを隔ての殺し合いだ、刀剣や弓矢の出番はないんだ」
「駄目よ、相手が一人とは限らない、それに人族の兵士がいる可能性だってあるわ」
ジダン爺が肩をすくめた。
「まったく同じ光景を前にも見たぞい」
「!?」
「シン様とイーヴァン様とそっくりじゃ」
「ムトゥス様ならわてらが預かるばい、心配せんでよか」
「しかし・・・」
「アラタさん、女は弱いかもしれんけど強いもんじゃ」
「好きな男に置いていかるるのは辛かもんや」
「なっ!!」
「おい、婆さん、それはないぞ」
マリッサは顔を背けて否定しなかった。
「ヒッヒッヒッ、伊達に年はとっておらんわ」
「えっ、あれ・・・」
「とは言え、帰る場所くらいは知っておかねばの」
「一度全員で冥界神社まで登ろう、イーヴァン様とシン様の暮らした小屋も近くにあるでのう、男は帰る家が無いと早死にしたがる」
「男をこの世に繋ぎ止めるのは女の仕事じゃ、特にあんたみたいな奴にはの」
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