第16話 チラリズム

 これまでに女の方から愛の告白を受けたことは別に初めてのことではない。出会ったその日に好きだと言われたことだってなくはない。


ただ、間違いなく生まれて初めてだったのは、こんなにいい女から想いを告げられたことはない。はっきりと「ボクのことが好き」だと言ってくれた美少女は智恵が初めてだった。


 こんなことを言われてしまっては、多くの人はきょとんとするものだろう。驚きより適切な言葉はないと思う男ばかりであろう。


が。僕は「とても嬉しい。」と感じてしまった。智恵の言葉に驚きなど全くなく、素直に受け止めてしまったのは、図々しいという人もいるだろうが。


ただ、頭では冷静に受け止めたつもりでも、体というか反射神経はパニックになってしまっていたのだろう。

智恵の言葉を聞いて、反射的に彼女を抱きしめてしまった。これは、良くない反応だと、頭ではわかっていたはずなのだが。

しかし、今は脳より神経の方が有力に働いていたのだろう。


「僕も智恵のことが大好きだよ。」


智恵の小さな耳に囁きかけるように僕はすぐに回答した。

 頭をぽんぽんと2回軽く叩いてあげようと思ったのだが、その手を遮られてしまった。いったいなにがいけなかったのだろうか。


智恵の顔色はさっきより、さらに赤みが濃くなっている。少しだけ顔をのぞかせている鎖骨も同様に色づいていたとなんとか記憶している。


「もう1回。」


智恵はこっちを見ずに言う。


 今度はふたりの顔の距離を少しだけ離すことで互いの表情が見えるように意識して言った。


「智恵のことが大好き。」


 ちょっとだけ語尾を変えたのには、僕なりの意思があった。「大好きだよ。」というより「大好き。」と表現した方が、男らしさというか潔さが強くなると感じたから。


 よほどうれしかったのだろう。智恵はまるで子供の様な大きな笑顔で喜んでくれたのだが、僕の視線はその顔よりも少し下の部分彼女の肩にくぎ付けになってしまった。

 右肩からほんの少しだけ、白い紐のようなものが覗いている。間違いない。あれはブラジャーの肩紐だ。


 智恵の笑顔は実に可愛らしかったのだけれど、僕は彼女の凛とした清楚な顔より、男の前でブラの紐をさらすような、少しだけだらしない部分が愛おしくてたまらない。

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