第12話
四時間目の授業中、朝日はずっと薫子を泣かすイメージトレーニングを行っていた。
(相手は女だ。手なんかだしたらこっちが不利だが……。先に手を出したのは向こうだ。それに、教室でイチャイチャしてるのを注意したら逆ギレされて弾みで手が出たって感じにしておけば、怒られるくらいで済むだろ)
幸か不幸か朝日が薫子に分からされた場面は大勢が目撃している。
薫子は翔太が関わるとあり得ない程凶暴化するし、そこを上手く利用すれば、喧嘩両成敗に持ち込めるはずだ。
(大事なのは、俺のオモチャを横取りした泥棒女に恐怖を植え付ける事だ。いざとなったら俺だってなんでもやる。そう思わせたら俺の勝ちだ。その為には、こっちも本気でいかねぇとな)
出来れば朝日だって女なんか殴りたくはないが。
本気で殴るつもりでいかなければ薫子をビビらせる事は出来ないだろう。
(てめぇが悪いんだぜ大野。翔太は俺のオモチャなんだ。小学校の頃からずっとな! それなのに、この俺になんの断りもなく、いきなり出てきて横取りするとかルール違反だろ。大体、大野程の女がクソカスドチビの翔太を好きになるとかあり得ねぇだろ! どうせいつもの嘘告に決まってる。女共はいつもそうだ。翔太のアホもなんでそれがわからねぇ? 今まで何度も騙されて来ただろうが! てめぇは俺のオモチャなのに、他の奴にイジメられてんじゃねぇよカス! そうさ。俺は嘘告からあいつ助けてやるんだ。そういう話なら、うっかり手を出したって許されるよなぁ?)
朝日の中で、ドス黒い嫉妬の炎が渦巻いていた。
あいつは俺のオモチャだ。
俺だけがイジメていいんだ。
他の誰にも手出しはさせねぇ。
あいつをイジメる奴は、全員俺がぶっ飛ばす!
さぁ、来いよ大野。
次にイチャついた時がてめぇの最後だぜ!
覚悟を決めると、朝日は静かにその時を待った。
そしてやってきた昼休み。
薫子は手作り弁当なんか持って来て、翔太と一緒に食べ出した。
(ふざけんな! 俺だってそんな事したことねぇのに! 翔太も断れよな! そんなもん、なに入ってるか分からねぇだろ! 毒でも入れられてたらどうするつもりだよ! 大体なんだよ! そのデレデレした顔は! そんな顔、俺には一度も見せた事ねぇのに! ムカつくぜ、イラつくぜ! だからてめぇは嫌いなんだ! 可愛い顔して俺の事をイラつかせやがる! 俺がてめぇをイジメてるんじゃねぇ。てめぇが俺にイジメさせてるんじゃねぇか!)
壮絶な顔で二人を睨む。
両手で掴んだ机の端が、ミシミシと軋みを上げていた。
出来る事なら今すぐ飛んでいって邪魔をしたい所だが。
(まだだ……。まだその時じゃねぇ……。まだ、二人で普通に弁当を食ってるだけだからな……)
朝日からすれば、それだって完全にアウトだったが。
自分が有利になる状況を待つだけの冷静さはまだ残っている。
その時は、程なくしてやってきたが。
(なるほどな。そこに毒を入れたのか。えげつねぇ事しやがる。だが、そうはさせるか!)
大事なオモチャを壊されたらたまらない。
朝日は椅子をひっくり返す勢いで立ち上がり、速足で二人の元に向かった。
翔太の反応は早かった。
まるで、こうなる事が分かっていたみたいに、超反応でビクリと怯える。
(そうだ。その顔だ。てめぇは俺だけを見てればいいんだよ、翔太ぁ!)
この顏を見れなくなって半日も経っていないが、朝日には千年ぶりのように感じられた。
あぁ、なんと心地よい事か。
なんと満たされる事か。
怯える翔太の顔を見ていると、朝日の胸はドキドキして、頭の奥がカッとなって、背筋がゾクゾクと震えた。
これだから翔太イジメはやめられない。
こいつは俺のオモチャになる為に生まれてきたんだ!
運命すらも感じながら、朝日は二人の前に立つと、ニタリと獰猛な笑みを浮かべた。
歪んだ憤怒に塗れたそれは、笑顔などと呼べるものではなかったが。
「言ったよなぁ、大野。教室でイチャイチャするなって」
翔太との楽しい昼食を邪魔されて、薫子の顔からも笑みが消える。
「私も言いましたよね。文句をあるなら相手になると」
黒いオーラを揺らめかせながら、薫子も立ち上がる。
一触即発の気配に教室が騒然とする。
長身の二人が至近距離で睨み合うのを、翔太はアワアワしながら見上げている。
「ふ、二人とも、喧嘩はダメだよ!?」
「うるせぇ! 翔太は黙ってろ!」
「小森君は黙っててください」
「あぅっ……」
ピシャリと言われておしまいだ。
お互いに視線を外さない。
そんな余裕は互いにない。
一瞬も油断できない、食うか食われるかの修羅場の気配。
「もう一度だけ言うぜ。俺の前で翔太とイチャつくんじゃねぇ。目障りなんだよ」
「イヤだと言ったらどうします?」
「女だってぶっ飛ばす」
「やれるものならやってみなさい」
その言葉を朝日は待っていた。
「上等だ! 歯ぁ食いしばれや!」
「その必要はありませんね」
平然と構える薫子に、朝日は平手を振り被った。
「大野さんに手を出すなぁああああああ!?」
甲高い絶叫と共に、朝日の股間が露になった。
翔太が後ろからズボンを下ろしたのである。
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