第12話 急襲する魔物

 魔窟探索が始まって大体三十分が経過した。

 結論から言うと魔窟探索はかなりのハイスピードで進んでおり、現状魔物に追い詰められる様なこともない。

 まぁ強いて気になることがあるとすれば……。


(もの凄い脳筋チームなことぐらいかな……。)


 先程チラッとノアとグランの能力を『情報分析』してみたのだが、二人共サポート系の技や魔法を一切会得しておらず攻撃に全振りしていた。

 まぁ元から協力し合える様なチームではなかったとはいえ完全に各個人で戦い続けている。

 なんならノアとグランはどちらの方が魔物を狩れるかを競い始めて、こちらの事などガン無視でゴリゴリ先へ進んでいく。

 ちなみにリンダさんは多少回復魔法が使えるくらいで戦闘向きの能力は殆どない。

 俺は一応多少のバフなどが使えるのだが、いくら声をかけてもガン無視で進んでいく為、俺が二人にバフをかけてやれるタイミングがない。


「てか俺って護衛対象役のはずなのに……無視して進んでいくとか何考えてんだあいつら。」


「完全に二人の世界に入っちゃってますね。」


 そんな馬鹿ップルみたいな……どちらかと言ったら喧嘩ップルなのに。

 一応クリスタが俺とリンダさんから離れずに守ってくれてはいるが。


「これだとクリスタ嬢が前に出て活躍するタイミングがなくて個人評価上げられないよなぁ。」


「個人的にはチームとしての評価の方が優先だし別に良いのだけれど、これだと貴方の目的が達成出来なさそうなのは申し訳ないわね。」

 

 そう、そこなのだ。

 彼女が前線で戦えずにいるせいでせっかくの魔力蓄積の研究が進まない。

 下手にガンガン進む二人が優秀なせいでこちらまで魔物がやって来ないのだ。

 

「だからと言って俺とリンダさんを放置して前線に行ってこいとも言えないしね。今回ばかりはしょうがないと諦め……。」

 

 諦めるかと言いかけた瞬間、けたたましい獣の声が辺りの空気を一変させた。

 前方に目を向けるがそれらしい魔物は見当たらず、グランとノアも辺りを見渡している。

 あの声は一体どこから?


「上です!!!」


 リンダさんの悲鳴じみた叫びを聞いて一斉に空を見上げる。

 そこには巨大な翼に鋭い爪、大きなクチバシと勇ましい四肢を持つ人型の魔物。


「オーガコンドル!?なんでこんなところに……ぐお!?」


 全員が奴を視認した次の瞬間、オーガコンドルは上空から凄まじい速度で急降下してグランを踏み潰した。


「はあっ!」


 弾丸の様な速度でクリスタが剣を構えてオーガコンドルへ突進する。

 しかしそれを見たオーガコンドルは即座に飛翔、こちらの手が届かない高さまで飛び上がった。

 人型の魔物の大半は狡猾で頭が良い。

 あのオーガコンドルも上空へ飛べる事のアドバンテージを完全に理解し、常に有利な状態で戦おうとしているのだろう。


「このっ……鳥風情がぁ!!!」


「バカ!?落ち着け!」


 静止しようにも間に合わず、ノアが大量の火球や氷の塊、空気弾を上空に放ちまくる。

 しかし空中を凄まじい速度で飛び回るオーガコンドルには1発たりともかすることすらなかった。

 

「ちょこまかとっ……あれ?」


 ノアの魔法の連打が途切れる。

 恐らく魔力切れだろう。

 考えてみればノアはグランと前線で休みなく戦い続けていた。

 そのせいでもう魔力がすっからかんだったのだろう。

 その様子を見たオーガコンドルは一気にノアの元へ……。


「人型は頭が良いと聞いていたが、お前はただ臆病なだけね。安全圏からちまちま戦うしか脳がないなんてみっともないわ。」


 瞬間標的をノアからクリスタに急転換し突っ込んでいった。

 なるほど、人型は頭が良く人語を理解していることもある。

 おかげでクリスタお得意の挑発が刺さったようだ。


「リンダさん、今のうちにグランの元へ行って回復を。最悪戦闘復帰できなくてもいいのでせめて一命を取り留められるようお願いします。あと魔力回復のポーションとかあります?」


「は、はい!ええとポーションはこれですね。」


「これ貰いますね。俺はこれをノアに渡してきます。」

「はっ、はい!」


 二人同時に駆け出す。

 クリスタがオーガコンドルを引き付けてくれたおかげで難なくノアの元へ辿り着けた。


「ほらポーション。早く飲め。」


「う、うん。」


 ノアにポーションを与えるも先ほどの様な覇気は一切感じない。

 どうやら自慢の魔法が一撃たりとも当たらなかったことから完全に萎縮してしまったようだ。

 正直変に張り切って暴走されるより助かる。


(さて、これからどうするべきか。)


 リンダさんへ視線を送ると、グランを懸命に回復させようとしている。

 今はクリスタの挑発の影響でなんとかなっているが、挑発が解けた瞬間に狙われるかもしれない。

 なんせ片方は瀕死、もう片方はガタガタ震えながら必死に治療中で隙だらけだ。


「ノア、とりあえずリンダさんとグランのとこへ合流するぞ。クリスタの挑発が解けた時にあの二人が狙われる可能性がある。向こうに着いたら形だけでも魔法を撃つ構えをしておいてくれ。」


「う、うん。わかった。」


 リンダさんの元へ駆け寄りながら考える。

 『情報分析』で確認したところオーガコンドルのレベルは今まで探索中に出会ったどの魔物よりも圧倒的に高く、物理攻撃と素早さが特に優れている。

 はっきり言ってメンバー全員で挑んでも中々勝つのは厳しそうである。

 しかも現在チームで戦えそうな3名の内一人は瀕死でもう一人は意気消沈。

 クリスタも一人でいつまで耐えられるかわからない。


「リンダさん、グランの戦闘復帰は……。」


「回復はしましたけど目を覚ましません。この様子だとおそらく戦闘復帰は不可能かと。」


「そうか……。」


 そうなるとクリスタとノアになんとかしてもらうしかないのだが、オーガコンドルについて最悪の事実を思い出す。

 俺の記憶が正しければオーガコンドルの攻撃方法は完全に物理に寄っており、魔法攻撃は全然使用しない。

 そのためクリスタの『魔力蓄積』が一切活かせない相手なのだ。

 ただでさえ戦闘可能メンバーが減っているのにチーム内で一番優秀なクリスタが全力で戦えないのは非常にまずい。


(とりあえず一旦クリスタのサポートに入るしかない。)


 俺に出来るのはちょっとのバフと敵へのデバフくらいなのだが、いかんせん相手が速すぎてデバフを当てる自信がない。

 せめてオーガコンドルの攻撃を耐えてる為に踏ん張っているクリスタの耐久だけでも上げようと、元より少ない魔力を振り絞った。

 上手くバフはなっただろうか?

 『情報分析』でステータスが問題なく伸びているかを確認する。

 そこである違和感に気がついた。

 俺が掛けたのは物理防御のバフだ。

 でもこのステータスの上昇は……。


(まさか……だとしたらワンチャン何とかなるかも?)


 しかし問題はオーガコンドルの素早い動き。

 あれを何とかしないと今思いついた作戦の準備ができない。

 何とかできないのか頭をフル回転させる。

 何かこう、相手を足止めさせられる様なものがあれば……。


「……あ。」


 もしかしたら何とかなるかもしれない。

 そうなると必要になるのは……。


「ノア、ちょっと頼みがある。」


「え?」


 動き出すタイミングは……クリスタの挑発が解けた瞬間だ。




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