第19話 守りたい者
「親父、翠の護衛どうするんだよ」
伸子と入れ違いに部屋へ入ると颯が大然に食ってかかる。
「颯様、ほんとに護衛は大丈夫です」
「翠、状況わかってるか?旦那様が言われるように早季様が怪我をさせられたんだぞ。舐めてかかると痛い目に遭う」
月も声を荒らげるが翠は気にもしない。どうするのがいいのか颯は迷った。
「わかった、とりあえず家でも一人にならないように、そして奥方の会の送り迎えは月をつける。兄妹だからと押し通せばすむことだ」
颯がいつもより強い口調で翠に言う。
「それでは颯様に付くものがいなくなります。そんなことはできません」
「お前が会にでている間、俺に別の人間をつければすむ話だ」
「でも…」
「翠、これは兄ではなく、主人としての命だ。異論は受け付けぬ」
「…はい」
「親父も俺も月もお前が大事だからこそ心配なんだ、わかってくれ」
翠も颯の熱い言葉に逆らえないとあきらめた。
「親父、これでいいな」
「ああ、すまぬな颯」
颯が強引に決めたことに翠が従うと皆がホッとした。
「月、何か言われたら俺の命だと言え」
「はい」
颯も、伸子に余計な意見をして、回り回って翠がつらい目に合うのだけは避けたかった。だが今回は翠に危険が及ぶ可能性がある以上、黙っているわけにはいかなかった。
「お父様、美雪には護衛をつけてくださらないの?」
昨夜のうちに伸子に聞いたのか、起きてきた美雪が一番に大然に尋ねた。
「お前にはすでにつけているだろう」
学校の行き帰りや習い事には必ず付き添いがついていた。
「だってあの人たち愛想がないから、美雪つまらないの」
「お前を守るための付き添いに愛想などいらないだろう」
「そうだけど…どうせなら月がいいわ。本当はお兄様がいいけど、忙しいし無理でしょう。だから月で我慢する」
「それは…無理だ」
「えー、どうして?月なら力も強いし、男前だし…」
「男前は関係ないだろう」
「関係あるの!前に一度付き添いの慎吾がいない時、代わりにきた月を見てお友達が皆素敵な人だって騒いでた。私鼻が高かったわ」
「何を言っても無理だ。月は翠につくことになってる」
「はあ?使用人に付き添いなんてつけてどうするの?」
「母さんから聞いてないのか」
「うーん、お母様に護衛がつくって。翠にもつくなんて聞いてない」
「とにかくこれは決まったこと、お前の付き添いはいつも通り慎吾と伊平だ」
しばらく文句を言っていた美雪だが大然が聞く耳を持たない上に味方の伸子がいないので諦めて朝食を食べ始めた。
「伸子はどうした」
皆が食事を終えても伸子が起きてくる気配のないことに大然が気づいた。
「滝、伸子は」
大然は膳を下げ始めた滝を呼び止めた。
「お、奥様は朝の散歩に行くと言われて…」
「朝の散歩?護衛は誰がついてる?」
「い、いえ、近くだからいいと言われてお一人で…」
「あいつは何を考えてるんだ…滝、伸子がで出かけたのは何時だ」
「小一時間ほど前でございます」
滝の答えの後、嫌な予感がよぎったのは大然だけではなかった。
「家の者をあつめて伸子を探せ」
大然の焦りの掛け声が屋敷中に響いた。
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