第17話 五家の会合
「今日の会合は聞いていると思うが碧泉家の奥方と使用人が襲われた件だ」
炎蔵の言葉に五家の当主達の表情が一瞬で険しくなる。
「どういうことかはその場に居合わせた颯に説明してもらう」
入口付近に座っていた颯が素早く炎蔵の隣に立ち、一礼する。
「碧泉家の奥方様が襲われました。襲った者は特権隊が五人と火を操る妖の女が一人」
「また特権隊か」
「火を操る妖の女とは…?」
「特権隊は早季様が早々に倒したのですが厄介なのは黒い面をつけていた女の方です」
「…黒い面」
「私の式神に気づき、早季様に火の塊を投げつけるほどの力を持っていました」
「碧泉の奥方をしのぐほどとは何者なのだ」
「わかりません…ですがその女の面は術がかかっていました。そうですよね光樹様」
「ああ、うちの術者が面にかかった念を解こうとした瞬間に面は数千の蜘蛛となり消えました」
「奥方は無事か」
「はい、颯が駆けつけてくれたので多少の怪我ですみました」
「面に呪術、蜘蛛…」
「それと…これは早季が言っていたのですが襲うことが目的ではなく、攫うことが目的のようだったと」
颯と光樹が事の経緯を一通り話し終えると黙っていた大然が口を開いた。
「火の妖と言うことだが心当たりはないのか炎蔵」
義理の兄と弟ではなくなったが元々は幼なじみの間柄、双子の処遇のことで頑なに拒んでるのは炎蔵だがお互いの力を知り、五家の当主の中でお互いが一番信頼できる者とわかっている。
「火を操る妖の一門の中で灯子と同じぐらい高度な術を持つ者は少ない」
「では…」
「ああ、灯子と年の近い者でめぼしい者が三人いた」
「灯子様と年が近いとは?」
「ああ、それは黒い面の女が灯子様のことを知るような口ぶりだったと早季が言っていたので…」
「そういうことだ、灯子が亡くなってから生まれた者などは除外して灯子と同じ術を使える者を探した」
「それが三人…」
「今、それぞれの所在を調べている」
少しの間を置いて入ってきた白姫の家の者が炎蔵に耳打ちする。
「わかった…めぼしい三人のうち一人は遠方に嫁にいって、一人は亡くなって、もう一人は所在不明…」
「所在不明の者が怪しいのでは?」
「直ちに所在を調べるが今すぐとはいかぬ…ただ五家の奥方が狙われたのだとしたら何か目的があるのだろう。各々奥方に警護をつけて気をつけてほしい」
炎蔵の言葉で会が終わり、皆が立ち上がろうとした時だった。
「大然、翠にも警護をつけてくれ」
「どういうことだ、なぜ翠に」
「碧泉の奥方と一緒にいた使用人というのは翠だ」
突然知らされた事実に大然が驚いて颯を見た。
「すみません。あの場で翠のことは…」
碧泉家の奥方が襲われたことを伝える場に伸子と美雪がいて、颯は翠のことを言い出せずにいた。
「颯、すまなかった。気を使わせたな」
「いえ」
「お前が警護をつけぬなら、うちのもんをつけるぞ」
「余計な心配だ炎蔵。翠にはちゃんと警護をつける」
大然の言葉を聞き、颯も側にいた月もほっと胸を撫で下ろした。
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