第14話 危機一髪

「風の妖の女の中でもあなたが一番強いと聞いています」

「一番などではなかったわ、灯子様がいるもの」

「灯子?ああ白姫の…そういえば風の妖に嫁いだんだったかしら…灯子が風の妖で一番?火の妖なのに?」

 風の妖に嫁いだ灯子の火の力は嫁入り前から群を抜いていた。五家の当主がこぞって息子の嫁に欲しいと懇願するほど誰もがその力を認めていた。だから嫁いだ先の風の妖の女の中でも灯子が一番だとみんなが認めていた。

「…でも灯子の次ならたいしたことないわね」

 吐き捨てるように呟いたのを早季は聞き逃さなかった。

「聞き捨てならないわ。私の風の力など灯子様に比べれば足元にも及ばないのに…あなたが灯子様の何を知ってるというの」

「少なくともあなたよりはよく知っているかしら…。灯子を崇めているようですけど私の力は灯子よりはるか上…あなたに勝てば次は私を崇めてくださるのかしら?」

 女は火の塊を今度は早季のお腹目掛けて容赦なく投げつけた。跳ね返そうと作った風の壁が火の塊とせめぎ合うも、及ばないまま塊がお腹に当たると早季の体が後ろに飛んだ。それを見て女は大きな声で笑う。

「とどめを差したほうがいいですか?それとも素直について来てくださいますか?」

「うっ…バカなこと言わないで…あなたのいうことなんて…聞くもんですか…」

「フフ強気なのは褒めてあげます。でももう一度同じのを受けても同じことが言えますか?」

「ううっ…」

「やめてください!」

 倒れ込んだ早季を庇うように翠が前に立っていた。

「どきなさい」

「いいえ、どきません」

「私が用があるのはそこの奥方、使用人風情が私の邪魔しないでもらえるかしら。式神で面を割ったぐらいで調子に乗らないで」

「調子になど乗っていません」

「式神の強さと度胸は認めるけれど、どうせ碧泉の家の者がつけた式神、使用人につけるなら奥方にもつけるべきね」

 女は翠の懐から出てきた強い式神が颯がつけたものだとはわかっていないようだった。

「…っ、あなたは何者なの?」

「そんなことよりご自分の状況を心配したほうがいいと思いますよ」

 女はさらに大きな火の塊を翠と早季目掛けて投げつけた。


「そこまでだ」

 颯の声と共に大きな火の塊があっという間に風に包まれて消えてしまった。

「兄様…」

「翠、遅くなった、大丈夫か?」

「私は大丈夫です。それより早季様が…」

「月、碧泉の奥方を」

「はい」

 月が立てない早季のそばに駆け寄り、抱きかかえ安全な場所まで二人を移動させる。


「…風の妖?…紫雲の家の者か?」

「だとしたら…?」

 女が口ごもったまま何かを考えている。

「お前は何者だ?なんの目的でこんなことをする」

 颯は女の力を見抜くために間合いを詰めようとした時だった。

「お前には関係のないこと…」

 女が颯の周りに背丈ほどもある炎を作り、炎に気を取られている間にいなくなっていた。



 


 

 

 

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