第6話 妖とまやかし
この国には異能を操る
「兄様、右後ろに二人、その後方左に三人」
「月、別れて行こう」
商売の会合が終わって、大通りからついてくる者に気づいた颯と月はいつも通らない細い道にあえて入った。
「あれ、どこ行った?」
「おい、追いかけろ!」
「見失ったのか?」
「さっきまでそこに…?」
「消えたぞ、探せ!」
駆け出していく若い妖とまやかしを見送って颯と月はほくそ笑む。
「兄様を狙うなんて百年早いですよね」
「ほんとだな。まあ暇つぶしにはなるけど…」
「少し痛い目に合わせたほうがおとなしくなるんじゃ…あれぐらいなら余裕だし」
「派手にやると親父に叱られるし、今、目立つのは得策じゃない。祭りを控えてるからな」
先を行く颯の後を遅れないようについていく月の体は、決して低くない颯の背を最近超えた。これまで月の着物はほとんど颯のお下がりだったがそろそろ月のために仕立ててやらなければと颯は思っていた。
「月、翠の着物は準備したか?」
「はい、かか様がこっそり」
「梅が準備したなら、あの女にばれることはないだろう。まあ、もし何か言われたら俺が贈ったと言えばいい。代理ででるんだから恥ずかしい格好はさせられないと言えば、何も言えないだろう」
年に一度の祭りは交流を目的とし、妖とまやかしと人間が交代で世話をすることになっていて、今年は妖の番だった。世話をする紫雲家、黒岩家、黄龍家、白姫家、碧泉家の五家で主だったことを準備しなければならない。当主とその妻、子供がそれぞれの場所で指揮を執る。颯の母灯子が生きていた頃は、祭りの日に座る間もないぐらい働いていたことを覚えている。伸子が嫁いで最初の祭りは、嫁いですぐだからと当主の大然も妻不在でやり過ごした。二度目の祭りは初めての祭りだからと他の奥方が仕事するのをただ眺めるだけだった。三度目と四度目は仮病を使って休み、今回も仮病を使うと紫雲家の面目が立たないと代理をたてることになった。代理候補には古株の滝と梅の二人の名があがったが高齢の滝は体力的に無理で、梅は抱えてる仕事の量を考えると無理だった。その梅が翠はどうかと言った時、伸子だけが難色を示したが小さい時から灯子の側でいろいろ見てきたからと大然の後押しもあり、代理に決まった。いつも日陰にいる翠が表舞台にでることは、大然や颯、月にとって嬉しいことだった。
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