経験済みな先輩と友人すらいない僕。

藤本茂三

第1話 トラウマの現場


一目惚れというのは信じることが出来るだろうか。


ぼく、須藤正和はその一目惚れを経験した。入学してすぐのことだ。部活動勧誘のときに雨宮先輩が教室に来たのだ。その時だ。ドクンと心臓が高鳴ったのを感じた。

あまりにも痛かったので、胸を抑えるほどであったが、彼女が教室を去ると次第に穏やかになった。

それからというもの雨宮先輩のことばかりを考えるようになる。

友人がいない僕でもハッキリと分かった。


「僕は、雨宮先輩に一目惚れをした」


僕が一目惚れするくらいだから、彼女の容姿は非常に整っていた。


雨宮先輩は黒髪ボブカットでワイシャツは胸元のボタンを多めに外しており、豊かな胸の谷間がわずかに見えている。しかしながら、下品にも感じることはないというバランスを保っていた。

そして、やや短く魅惑的な太ももが見え、多くの男子生徒を虜にしていたと思う。


「だけど、あれだけ可愛ければ彼氏もいるから、僕じゃ付き合うことは出来ないけどさ」


雨宮先輩が同学年の男と付き合っているというのは入学して、すぐに分かった。クラスの男子達が残念そうに話していたのを盗み聞いたからだ。


雨宮先輩と彼氏さんは、仲もいいのか、よく一緒に学校内で歩いていたり食堂で昼食を食べているところを目撃したりもした。


この時、僕の初恋は終わりを迎えたと悟った。


それから、暫くして文化祭。当然のごとく雨宮先輩はミスコンに出場し、三年連続の優勝ということで幕を閉じた。


触れることや話す事も何もできない僕は、雨宮先輩がSNSにアップロードした写真で一人慰めることくらいしか出来なかった。


そして季節も変わり、十二月だ。

忘れもしない、トラウマの十二月だ。


この頃になっても雨宮先輩と彼氏は仲良く受験勉強したりしており、別れたという話を聞くことはなかった。

彼氏と付き合って幸せそうな雨宮先輩を見て、僕も嬉しい気持ちになっていた。純粋に彼女が幸せになってほしいと思っていたからだ。


だが、ここで僕の人生の転機が訪れる。しかも悪い方だ。


「いやぁ~映画館遠いよ!しかも、こんな夜遅くになったし……」


僕が見ようとしていた映画は少しマニアックなのか、近くで上映している場所がなかったため、少し遠いところまで行かなければならなかった。

そして、上映日は金曜日だ。次の日が休みだから、少しくらい夜遊びしてもいいだろう、と思い出かけたのだ。


しかし、普段から行き慣れない場所には行くものではない。


「完全に知らない場所だ……マップを信じて歩いているけど、怪しい店が多いよ」


少なくても高校生が夜遅く制服で歩くような場所ではないところを僕は歩いていた。少し怖い風貌の男の人や夜の女という印象の人も沢山擦れ違った。


そしてラブホの前を通りすぎる時、目に入ってしまった。


『じゃあ、またよろしく頼むよ』


『分かったよ~また貯めてきてね』


二人はそう話して、熱いキスをしてから男はタクシーに乗った。

二人のうち一人は、当然しっていた。


――雨宮先輩だ。


僕は放心状態で彼女を見ていた。流石に視線を感じたのか、彼女の方も僕に気づき、歩み寄ってきた。


「あれ、やっぱり。君、私の高校の人だよね?あちゃ~見られちゃったか!」


「あ、あれって……」


「うん。パパ活だね」


雨宮先輩は隠すようなこともせず、一切の動揺を見せることがなかった。


「そ、それってダメなことだと思うんですが……」


「そうだけど、まぁ私としても遊ぶにも欲しい物買うにもお金が必要なんだよね」


「お金……」


「そ、お金。君って後輩の子かな?この事、黙っていて欲しいんだ……いいことしてあげるからさ」


雨宮先輩は後ろのラブホを親指で差しながら僕に話した。


「で、でも……」


「いいの?今なら口止め料で私を抱けるんだよ?」


「……」


僕はどう返事をすればいいか、アタフタした。

それを見て、クスクスと笑いながら雨宮先輩は僕の手を掴んだ。


「ほら、行くよ」


「は、はい……」


その日、僕は雨宮先輩と体を重ねた。


それ以降、僕と彼女は関わる事なく、雨宮先輩は無事に卒業して、最難関私大の大学生になった。




 

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