逆転ゲーム世界の転生おっさん~社畜おっさん(38)の俺はやりこんだゲーム世界に転生したんだが超序盤で魔界最強生物ホワイトドラゴンが出てきてオワタと思ったら頭上にF級最弱の文字が・・・・・・どゆこと?~

新田竜

第1話 F級最弱のホワイトドラゴン

 

 

 ――あ、これヤバイやつかも。




 独り暮らしの自宅の玄関のドアを開けた瞬間、バタンとうつむけに倒れた俺は薄れゆく意識の中でそう思ったのだった。


 高校を卒業してから20年、会社のために必死に働いてきた最期がこれかよ。


 あの汗と油まみれの激ツラ三交替勤務をもうしなくてもいいのだと思うと、ホッとするような気持ちにならなくもなかった。


 それでも老後の企業年金だけを楽しみに大企業様の忠実なしもべとして働いてきたのに、その年金も一円も貰えずに人生を終えるのは悔しすぎた。


悔しい。


悔しい!


悔しいっ!


 こんなことなら老後のことなど考えずに程々に働いて、大好きなゲームをやりまくる日々を過ごせばよかった。


 最後の最期にそう思ったのが、もしかしたらすべてのだったのかも知れない。


 

 次に目を覚ました時、俺はなぜかよく知っているにいたのだった。








         ◇








 トトン村だ!


 俺はその景色を見てすぐにわかってしまった。


 俺の最愛のRPG『レフォンス英雄伝』。

 目の前に広がっているのは、そのスタート地点、トトン村だったのだ。


 えっ?


 まさか、俺・・・・・・ゲーム世界に転生しちゃった?


 まあ、普通なら信じられないことだ。自分は夢を見ているのだと誰もが思うことだろう。

 だが、俺は玄関で倒れた記憶が鮮明に残っていたから、これを夢だとは思いたくても思えなかったのだ。


 だから、きっとあのまま死んでしまって、最後の最期に願ったことをきっと神さまが叶えてくれたのだと俺は都合良く考えることにした。


 だって、せっかく最愛のゲーム世界に来たのに夢だったらすぐに醒めちゃうもんな。

 でも、ゲーム世界に転生したのなら、思いっきり最愛の世界を楽しむことができるわけだ! 

 

 最高じゃねえか! 

 

 神様あざすっ!


 俺がそんなことを思っていると、後ろからこんな声が聞こえてきた。



「お前も今日で16歳になったのだから、冒険の旅に出ることを許そう!」

 


 俺はその声を聞いて、もううれしくなってしまっていた。


 おっさんの俺が16歳っ!


 マジで最高じゃねえかっ!



「村長っ! それってつまり、社畜しゃちくの俺が、青春やり直せるってことっすよね? そうっすよね、村長っ!」



 気がつくと、俺はその声の主である見事なつるっ禿げのトトン村の村長の両肩を掴んでガクガクと揺らしながらそう叫んでいた。



「・・・・・・どうしたんだ? ○○、お前がそんなに興奮するなんて珍しい」



 つるっ禿げの村長はなんかリアルに鬱陶うっとうしそうな顔をしてそう言った。

 

 なんか表情リアルだし、普通に会話できてないか?


 ゲームよりなんかすげーんだけど!


 まあ、それでも俺がこの『レフォンス英雄伝』の世界をあんまり汚すのはよろしくないだろう。


 青春とかはこのゲームには似つかわしくないワードだったな。


 反省、反省。



 とにかく、そんなことよりも名前の登録から始めないとな。



「だってこの俺、はずっとこの時を待ってたんだからしょうがないでしょ! 俺が一番誕生日が遅かったんだから!」



 やっぱり名前は本名に限る!

  

 でも、なんか変だ。


 この村の幼なじみの名前はヤーデン(男)とマリーヌ(女)のはずなんだが、二人がこの先物語にどう関わってくるかが、もう何度もこのゲームをクリアしているのに思い出せない。


 でも、どうやらつるっ禿げの村長に俺の名前だけはちゃんと伝わったようだった。



「そうだったな、! では、旅立ちの祝いとしてワシからこの装備を送ろう! お前の父親も昔、同じ装備でこの村から旅立ったのだ!」



 そう言って、つるっ禿げの村長は、俺に木製の剣と木製の盾と木製の胸当てを手渡してくれた。


 出たよ!


 よわよわ装備!


 父親と同じとか言ってたけど、秒で買いかえてやろうw。


 うん。でもやっぱ変だ。

 その父親がこの先どう物語に関わってくるのかもいまいち思い出せない。


 どうやら俺はだんだんとこのゲームの本当の住人になっていっているのかも知れない。

 つまりこのゲームを上で、邪魔になる情報は自然と忘れるようになっているってことだろう。



「ありがとうございます! 村長! じゃあ、俺もを追いかけて冒険の旅に出ます! 今までありがとうございました!」



 今度は、いろいろ忘れていっているのになぜか憶えていた原作に忠実なセリフを吐いてやると、つるっ禿げの村長はめちゃくちゃうれしそうな顔になった。


 ごめん。


 さっきは本当に困ってたんだな。



「さあ、ゆけ! ケンイチロウ! 帝都英雄軍に入るよもし、冒険者ギルドに入るもよし、冒険者養成学校に入学するもよし、一匹狼の冒険者として名を馳せるもよし、どの道を選ぼうが、この世界に真の平和を取り戻すまでは決して村に帰ってくるんじゃないぞ!」



 なんかこのセリフもゲームで聞いた時はなんとも思わなかったけど、実際にこうリアルで面と向かって言われるとちょっと冷てえなあと思ってしまう。

  

 でも、この『レフォンス英雄伝』の選択肢の多さには、やはりうれしくなってワクワクしてくる。


 英雄軍に入らないと身に付けられない魔術や剣技があるし、ギルドや魔術学校でしか学びとれない魔術や剣技ももちろんある。


 しかも、ギルドや魔術学校はこの世界中にいくつもあり、どこに入るかによって身に付けられる魔術や剣技も違ってくるのだ。


 さらには魔術学校に入ってからギルドに入り、それから満を持して英雄軍に加入するなんて贅沢なフルコースもこのゲームではできてしまうのだ。


 まあしかし、英雄軍にしろ、ギルドにしろ、魔術学校にしろ帝都や都会の街に行かなくては志すことすらできないのだけど。


 それまでは一人で冒険を進めるしか道はない(魔術学校に入るなら学費やら入学金やらが必要だから魔物をたくさん倒してドロップアイテムを入手してそれをお金にかえたりしなきゃいけない)わけだ。

 

 そんなことを考えながらも、俺は目の前のつるっ禿げの村長に、



「はい! では、行って参ります! 俺が必ずこの世界に平和を取り戻しますから! 村長、それまでみんなのことよろしくお願いします!」



 と、また原作通りのお決まりのセリフを吐いて、生まれ育ったトトン村を後にした。






 


 そして、村を出てほんの数分歩いたくらいで俺は最初の魔物に遭遇したのだった。



「えっ? なんで・・・・・・」



 その魔物を俺はそれ以上言葉が出てこなかった。


 だって、その魔物はこの『レフォンス英雄伝』の世界の中でも最強生物と言われているホワイトドラゴンだったのだから!


 それでも戦わなければ殺されてしまう。と言うのも、このゲームには逃げるのコマンドがないのだ。

 つまり、出くわした魔物とは必ず戦わなければならないのだ。


 俺はつるっ禿げの村長にもらった木製の剣の切っ先をその巨大な白いドラゴンに向けてみた。


 どこに木製の剣でこんなSSS(トリプルエス)級の魔物と戦うやつがいるんだよ!


 マジでなんでだよ!


 せっかく最愛のゲーム世界に転生したのに!


 オワタ。


 詰みだ。


 完全な詰みだ。


 俺が木製の剣を構えながらそう思っていると、なぜかその巨大な白いドラゴンはを見せるのだ。


 ん?


 俺をおちょくってるのか?


 ホワイトドラゴンって実はこんなに性格悪かったのかよ!


 マジ幻滅!


 魔物最強生物が聞いて呆れるぜ!


 そんなことを思って憤慨ふんがいしていると、俺はその巨大な白いドラゴンの頭の上に妙な赤い文字があるのを発見したのである。



 ――F級最弱



 確かにそのホワイトドラゴンの頭上にはそんな文字が表示されていたのだった。


 原作では魔物の頭の上にそんな文字は表示されなかったはずだ。


 でも、この巨大な白いドラゴンの怯えた様子と、このF級最弱の文字から、目の前の魔物は思ったよりもずっと弱いのではないかと俺は思い始めていた。


 もちろん完全にそう思い込むことはできなかったが、もしかしたらそうなのではないかというくらいには考えて始めていたのだ。


 だからこそ、俺はあのつるっ禿げの村長にもらった木製の剣でその巨大な白いドラゴンを切りつけることができたのだろうと思う。


 すると、そんな一か八かの攻撃をした俺に対して、そのホワイトドラゴンは



「ゆるしてくださいっ! 冒険者様っ! ・・・・・・わたくし、あなた様の仲間になりますのでどうか殺さないでください! F級最弱のわたくしなどを始末しても得られる経験ポイントはごくわずか。それよりもこの序盤から仲間を得ることができればぐっと有利に冒険を進めることができるはずです! ですから、どうか命だけはお助けくださいっ!」



 

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第1話を最後まで読んでくださりありがとうございます!


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             新田竜

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