百夜

おひさの夢想部屋

プロローグ

 語られない物語は如何?


 昔々の物語。

 今の時代より全てが発達していた古の時代。

 一段と大きな満月が夜空を照らしました。

 満月は何時間と経過しても世界の頭上を照らし続け、ついに朝は訪れませんでした。

 しかし、満月は人を祝福する神様と人々は謳い祀り、夜明けの訪れない世界で悠々と過ごしました。

 だけど、朝が訪れない世界は世界とは言わないのです。


 満月が世界を照らし続けて九六日の夜。

 子夜。

 満月が、淡い光で世界の頭上を照らしていた満月が鮮やかに、妖しく光る紅い血の色に輝いたのです。

 人は驚き、恐れました。

 しかし、それだけでした。

 人は所詮、自分に害がなければ興味を何も示さないのです。


 満月が世界を照らし続けて九八日目の夜。

 子夜。

 紅い血の色の満月に亀裂が迸ったのです。

 人々は悲鳴をあげ、肩を抱き合いました。

 それに意味などありません。

 人よりも、獣は利口でした。

 一斉に紅い血の色の満月から離れようと、必死で逃げました。

 しかし、それも無駄に等しい行動なのです。


 満月が世界を照らし続けて百日目の夜。

 子夜。

 人が、獣が、世界が、空を見上げる中――紅い血の色の満月は、二つに割れていきました。

 割れた満月から溢れ出た光は、音も無く、全てを舐め尽くていきます。


 そうして、世界は呆気なく終わったのです。


 でも、一つだけ。

 終わった世界に一つの命が生まれました。

 その命は――。

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百夜 おひさの夢想部屋 @ohisanomusou

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