第52話 マリエスの本領
ドコニの特級魔法少女としての戦闘力に圧倒されるマリエス。 しかし、彼女にはまだ何か秘策があるようだ。
「おい! 何がおかしいんだよぉ、うぉん( ゚д゚)」
「だって、あなたみたいな魔法少女、滅多にいないんですもの……クスッ……。」
「うぜェッ!!」
このクソBBA何を企んでいやがんだッ!!
そんな笑い方するほどの余裕があるんやったら、さっさと攻撃を仕掛けてこいやッ!!
マリエスは笑い終えるとその長い金色の前髪を中指に入れて、クルクルっと弄る仕草を行う。 そして魔動技の詠唱を始め、まだ戦うつもりがあると言う意思をドコニに示した。
「こいつ良い態度しやがんじゃねぇかょお……。」
「今から使うその魔動技がお前の最後の切り札ってところか。」
「えぇ、とっておきの技ですのよ。」
マリエスは魔動技の詠唱を終えると、両手を被せて手をグッと組み、まるで手で水鉄砲を作るかのように両手を握りしめた。 両手の中から魔力と水が流れ始めてきて、その中に溜まったものを発射するかのようにドコニに対してその両手を向けてきた。
「水鉄砲かッ!?」
必殺技による警戒で更に防御の圧を硬くするドコニ。
そんな彼女にマリエスは攻撃の準備が整いドコニに勢いよく、水鉄砲を発射する。
「さあ、私が人生で積んできた最強の奥義よッ!!」
マリエスは漫勉の笑みを浮かべて、その両手に仕組まれた水属性の奥義を使用してきた。 彼女の笑みはまるで獲物を確実に仕留めることができる喜びに満ちた飢えた狼の様。
「ここで人生を終えなさい……水瓶座の時代ッ!!」
「きッ……来たッ!!!」
思いっきり一直線に飛んでくる魔力を込められた水の弾丸。
その水の弾丸の一発目と二発目をドコニはしっかりと回避する。 そして、次に飛んでくる水の弾丸まで避け切ることができないと判断したドコニは自身にかけた強力な魔動技による結界で完全に防ごうと両手を使って受け止めようとした。
「うっぐッ!!」
両手で受け止めようとした水の弾丸はドコニが予め自身に貼っておいた魔力の結界を打ち抜き、そのままドコニの右腕を貫通する。
「あらぁ……。 この水の弾丸を受け止めようとするなんて強気なお人なんですね。 ですが、どれだけ強くてもその弾丸を防御することなんてできませんよ?」
ドコニが避けた水の弾丸二発分はそのまま、施設の厚い高強度コンクリートの壁を突き抜けて遥か遠くまで飛んでいく。 最早、水鉄砲と呼んではいけない破壊力と遠距離に飛ばすことのできる狙撃銃である。
こいつの必殺技は水の銃ッ!!
恐ろしい破壊力だッ!!
くっそッ!! こいつ、こんな技を連発してくるつもりかよぉぉオォ!!
「あはは! まだまだこれからですよ!!」
徐々に本領を発揮するマリエス。
今度は水鉄砲の構えを取る両手から何かキラキラっと海の真珠のような丸い光を放つエネルギーを近くに飛ばした。 彼女の手からこぼれ続ける水もキラキラと光り始めて太陽の日を浴びて光を反射しているかのようだ。
「くっそッ!! こいつまだ何か企んでいるぅゥ!!」
キラキラと輝くマリエスの手からこぼれ出てくる魔力の水。
ドコニはすぐに彼女から距離を置こうと一気に後ろに向かって走って行く。
ふざけがやってよぉッ!! ぜってぇてめえはぶち殺してやんよッ!!
今すぐ反撃に出たいが、これ以上危険な技を近距離で使われるとわての命が危ない。 まずは一回、この場を離れてその後に水属性に有利になる
一気にマリエスから走って距離を開ける――
そう、距離を開ければいいんだ。
あの女が使う水の弾丸は確かに超強力ではあるが、どうやら、一度に何十発も撃つことはできないようである。 両手に溜まっている水の量で段数が決まっているとはずだ。 それに弾が速いと言っても特級魔法少女になれる戦闘力を持つこのわてなら完全に避けられないものというわけでもない。
「キュッ!! キュー!!」
ドコニが距離を置こうとすると同時に何か不思議な生き物の声がマリエスの近くから聞こえた。 その声は高く、愛くるしい生き物を想定させる。
ドコニは後ろから次の弾丸が来ることをマリエスの殺気から感じ取り、彼女から離れながらも弾丸を回避しようと少しだけマリエスの方を振り返ると……。
「キュキュキュキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
そこには蒼色に光る水の塊で作られた小さいイルカがドコニ向かって追いかけてくる光景だった。
「なんだぁ!! こいつはぁ!!」
ドコニはすぐに体を振り返り、その魔力の込められたイルカの形状をした水の塊を避ける。
「うふふふ……。」
マリエスはまたクスクスと笑い、余裕の態度をドコニに対して行う。
このイルカの正体は魔動技で生み出された水の塊で間違いない。
「さあ、私の子供たち!! ここにいる下品なおばさんを撃ち殺して差し上げますのよッ!!」
マリエスが誇らしげな態度で上を向いてそう発言すると、ドコニが避けたイルカの水の弾丸がUターンしてもう一度、ドコニを襲うまいと突進してくる。
くッ!! これじゃ、まるで意思のある弾丸だぜ!!
マリエスは更に両手で作った水の弾丸をキラキラと光らせて同じようにイルカの水の銃弾を作り出す。 彼女の魔力が続く限り、無限に作り出すことができる可能性が高い。
ドコニは水の弾丸を回避した後、すぐに詠唱を始めて攻撃をイルカの弾丸に向かって放つ。 ドコニの周りからは緑色のオーラが発生して、何か木の枝のようなものがドコニの周辺から生えてきた。
「クレムリン・クルーズ!!」
ドコニがそう唱え切ると、緑色の弾が誕生してその周りに生えている木の枝に宿るように染みていく。 木の枝からは新しい葉っぱがぬくぬくと生えていき、たったの数十秒程度で小さい木へと成り代わった。
「必殺技はこっちにも残ってるんだぜぇ。」
ドコニが生み出したこの小さい木はマリエスが生み出したイルカの弾丸に向かって緑色の弾を飛ばしていく。 彼女自身もそれに負けじと襲い掛かってくるイルカの弾丸に向かって自分の持てる力を使って魔法の弾で返りにうちにするように撃退していく。
「なッ!? イルカちゃんの魔力を吸っている……。」
そうだ!! テメェの仕掛けてくる弾丸は魔力が込められているから魔力吸収型の魔法疑似生物でエネルギーごと吸収しっちまえば、消滅するんだよッ!!
わての作るクレムリン・クルーズは相手の技を吸収して戦うことのできる木なんだよッっと。
このまま、追い詰められると思い込んでいたマリエスであるが、彼女の抵抗が思った以上にしぶとく中々苦戦を強いられている。 マリエスもそれなりの魔力を消費しながらイルカを生み出しているため、抵抗され続けると体力が尽きて、敗北する可能性がある。
「な、なんていうこと……! このままではいけないッ!! 魔力を大量に補給しなければならない!!」
マリエスはまた、ポケットから回復薬を始めとした薬を漁りだし、すぐにそれらを口に入れようとした。
ピチューンッ!!
「キャッ!!」
しかし、薬を手に取って飲もうとした瞬間――物凄く鋭く作られたサバイバルナイフが豪速球で飛んできて、彼女の飲もうとした右手の指ごと木端微塵に破壊した。
「うぎィッ!? ィィ、いいああああああああああああああああああああ!!」
ドコニはマリエスが自分から目を逸らす隙を狙っていた。 ポケットから薬を取り出し、水鉄砲の構えを解いてから飲む瞬間を待っていたのだ。
「おいおい……。 人の腕捥いで喜んでた癖に自分の指が捥げると発狂するとか覚悟が足りんな。」
ドコニは呆れたような顔でマリエスを見つめた後、近くにいる魔法で生み出されたイルカたちを完全に倒しきることに専念する。 近くに集まってくるイルカの群れを確実に倒すために一番群れている方向を見上げた。
「こいつらも中々厄介やな。」
マリエスの右手の指の何本かを粉砕して無力化できたとは言え、イルカ自体もそれなりに動きが早く、空中をまるで海のようにスイスイと泳ぐため、全てを倒しきるのに時間がかかってしまう。
「まだだ……。」
「ん?」
「まだこの戦いは終わっていないッ!!」
マリエスは何かを吐き捨てるような台詞を吐いた。
まだ、悪あがきができるということか……!?
ドコニがマリエスの方を向くと、彼女は自身の周りに水の泡を作り始め、まるでシャボン玉のように宙に浮いていった。
「こいつッ!! 何をする気だぁ!?」
マリエスはこの大きな部屋の高い天井の上までフワフワと周りのイルカに守られるような形で飛んでいき、最終的に部屋で一番高い中央の天井のところで待機した。
ドコニもまだ彼女に切り札のようなものが残っていることを悟り、すぐに周りのイルカを倒すのをやめて、彼女に注視した。
イルカの水の弾丸の数は既に百体近くにまで膨れ上がっている!?
しかも、イルカがみんなマリエスの方に集まってやがんじゃねぇかよぉ。
ドコニは今まで突進ばかり仕掛けてきたイルカの行動パターンに変化が生じていることを悟り、手当たり次第にイルカを倒す戦法をやめた。
天井に浮いているマリエスの方に次第に集まっていくイルカの魔法生物。
イルカたちが徐々に集まっていくとお互いに体を擦り合わせ、まるで新しい生き物の如く、合体を始めた。
「合体かよ……。」
ファイナルラウンドは自身が生み出した魔法生物のイルカと合体して、戦うということか……。 ならこちらもよぉ……。 本気でいかせてもらいますぜぇ。
【
ドコニがそう唱えると、地響きと共に大木が床や壁から突き出してきて、その大木の枝がまるでドリルのように回転していつでもマリエスを狙って攻撃をできる準備を始めた。
「これは確か、巨大な魔力を蓄えることのできるごくわずかの強者のみが使えるとされる木の最強クラスの魔動技……。」
「なんや。 てめぇその技知ってんのか。」
徐々にイルカの合体は終わりを迎えていき、徐々に大きな一つの生命体のような姿になっていった。 その生き物の中央にはマリエスが浮いている。
彼女は白い衣を脱いで、インナーの薄いシャツとタイトスカートだけの服装になった。
「まさか、この私がここまで追い詰められるとは……。 人生でこんな苦戦を強いられるのは本当に久しぶりってところかしら。」
二人はそれぞれ自身の持つ最強の技で、この戦いに決着を付けようと考えている。
巨大な意思を持った大樹を操るドコニ、それに対するマリエスは大量のイルカを吸収して一つの水状の生命体となっている。
「さあ、私の攻撃を喰らうが良いッ!!」
マリエスを守る水の巨大生物が雨の如く、水滴を降らしてドコニの生み出した大木に攻撃を加えようとする。
ドコニはその部屋中に撒かれる水を受け止めるように部屋を突き出した大樹を自在に動かし、地面から大量の土の塊を大樹に張り巡らせた。
「今度は全部受けっ切ってやるぜぇぇェェええええぇぇぇええ!!」
ドコニは叫んで大量に部屋全体に降らされる魔力の水を全部受け止めるつもりで防御体勢を取る。 ドコニの肉体を守るように大樹の枝が彼女の肉体を包み込み、雨水を防御した。
「さあ、次はこっちの番やぁぁぁあああああああああああああああ!!」
ドコニの大木のドリルが今度は天井にいるマリエスを取り囲んでいる魔法生物に襲いかかる。 マリエスもその大きな身体を持つ水の塊を上手くコントロールさせ、すんなりとドリルの枝を回避した。
「ちっ」
ドコニは舌打ちをすると次の攻撃を打つために手を広げるポーズを取る。 彼女の素振りによって魔動技の大木もそれに応じて動いていることを確認したマリエスはどこからドリルがやってくるか分からないため、周りに注意力を分散させる。
「でもなぁ、この攻撃は避けられねぇだろうがよぉッ!!」
ドコニは広げた手を一気に振りかざす。 それと同時に部屋を覆いつくす巨大な大木も地震が起こるかのように大きく揺れ、グラグラという音を鳴り響かせながら物凄い勢いで周りを掘り進めていく。 その姿はまるで巨大なモンスターが蠢くようである。
いつ私に攻めてくる……!
どの位置からドリルが飛んでくる……!
ドコニは既に手を振りかざし終わり、腰に手を当てるポーズを取っていた。 まるで既にやり切った感のある態度でこちらにニヤけた顔で見つめていたため、マリエスは更に周りに警戒した。
「こ……これは……。」
マリエスはこの部屋全体の状況を確認してあることに気がついてしまった。
この大木の根や枝や幹が既に部屋中の中を入り組んでいることには既に周知していたが、その大木によって、部屋のドアや別の入り口も壊されて封鎖状態になっていた。
こいつッ……私を出られなくてしてここから逃がさないようにしてきたなッ!!
「くッ!! 私を逃がさないためにあの大木を動かしたというのかッ!!」
ドコニはマリエスがようやく察したことに気づいてくれたのでヘラヘラと笑い出して応答をする。
「はいッ!! 正解ッ!! テメェが降参して敗北を認め、逮捕されるか、そのままここで死ぬかしない限りここから逃がすわけねぇだろうがよぉ、ウォン( ゚д゚)」
やはり、この女は今まで戦ってきた敵の中でもかなり異質……。
だがそんな私にもまだ秘策は残っている。
「あはっ! それって言い返せばあなたもここから抜け出せないということよ! いくら、この大樹を動かせるからと言ってもここまで複雑に絡みあった枝や幹をどかすのはすぐにはできないわ!!」
それにいざって時は火属性の魔法で無理やり燃やしてしまえば言い訳だし……。
さっき顔面を思いっきり燃やされたこと、もう忘れたのかしら……。
未だにマリエスはドコニに対して余裕を見せつける。
彼女にもまだ、あの歪な特級魔法少女を倒せるだけの余念があると言う事である。
「さあ、私が生み出した最強のオリジナル技、【水瓶座の時代】を受けきってみよッ!!」
マリエスは自信満々に自分を覆いつくす魔力の水を部屋全体に撒き散らかして攻撃を加えようとする。 攻撃の範囲はほぼ、部屋全体を覆いつくす雨の如く、大量の雨水を降らすものであった。
ドコニも彼女がまき散らす水がただの水ではないことを知っているため、すぐに大樹の中に身を潜める。 部屋全体にまき散らした雨水はまるで硫酸を含んでいるかのように辺り一帯を溶かしていく。 そして、大樹も徐々にマリエスの魔法の水によって枝が少しずつ解けるように朽ちていった。
「中々つえぇじゃねーかよぉ。」
ドコニは少しずつ押されていく状況を実感していたが、すぐに大樹を動かしてマリエスにドリルを決めようと画策する。
「ほらぁ! どうしたのぉ! 私の真の実力があまりにも恐ろしくて怖気づいてしまったのかしらぁ!!」
ドコニは何かをブツブツと唱え、次の攻撃を仕掛けようとする。 ドリルも彼女が何かを唱え終えると、一気にそれに合わせてマリエスを覆いつくす水の塊に向かって襲い掛かる。
「あはっ!! やっぱり来た!! でも、もう遅いッ!!」
マリエスは大樹に隠れているドコニを視察することはできないものの、どのタイミングでドリルが飛んでくるのかを予測していたため、自身の素早さを生かしてそれを避けながら、ドリルに自分の持てる魔力を最大限にフル活用しながら追撃を加える。
「どうですかぁ!! 私の魔法水のイルカによる雨と最大限全開の魔法弾の連射はッ!!」
魔法水の雨によって、枯れ始めている大樹に更に追撃を加えるマリエス。 ドリルのような幹はその魔法弾がトドメの一撃になったのか、遂にポキっと折れ始めていった。
マリエスはやっとこの勝負に勝てたという実感を得て最後の仕上げとして一気にドコニが隠れた幹に向かって魔法弾を連発した。 そして、ドコニを守る木の大木も溶かしきり、いよいよあの変なチンピラ女を駆逐することができると胸に期待を寄せて集中砲火を浴びせた。
「さあ、この勝負も感動のフィナーレですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお」
枯れて穴が開き始めた大木の中から少しだけ何かが動いている影を見つけたマリエスはそのまま急降下して、自らトドメを刺さんとばかりにその近くを執念深く見渡した。 どうやら影の正体は彼女が着ていた衣服のコートのようだ。
「あはあははははははは!! もうこの様子だと魔力を使うだけの体力も残っていないようですし、私の勝ちということでよろしいでしょうかあははは!」
完全に勝利を確信して、彼女はドコニが隠れていると考えられる場所の付近まで降りてきて、そのまま周辺に弾を連射し始める。
「もう死を確信したから、私の前に出れないんですね! では……。」
彼女は銃を乱射するかのように魔法の弾を辺り一帯に打ちまくった後、何か提案をするかのように言い出した。
「もし、まだ生きているなら命乞いをすれば文字通り命だけは助けてあげますよぉぉうおお♪ 勿論、強い魔獣として脳ミソも改造してあげますがねぇ!!」
ドコニの遺体を探し始めるマリエス。 彼女の遺体が中々見つからないため、大木全体を探し周った。 大樹の周りにいないことから恐らく、土の中に紛れ込んでいるのではないかと考えたマリエス。
あのおばさんが大樹を召喚した時に、部屋に大量の土を持ってきたのはここに隠れるためかしら?
「いくらなんでも特級魔法少女の遺体がそのままこの雨水で消えてなくなるとは思えません。 視界に映らない土の中にいるはず……。」
マリエスは辺りを警戒しながらも土の中を探し続けるが見当たらない。
既に遺体ごと消し消えた可能性があるとは言え、完全な死を目撃しない限り本当の勝利ではない。 土の中に水の魔法で勢いよく土をかき飛ばすとドコニの付けていた衣服の装着品が土から見つかる。
「衣服が残っていて本人の遺体の破片が一切残らないのは有り得ない……!!」
一体あいつはどこに隠れているんだ。 なぜ、私が油断をしたというのに不意を突かないのだろうか……。隠れているとは言え、ここで隠れられる場所などある訳がないはず……。
私はいつ彼女が不意打ちをしてくるか分からないため、巨大なイルカの魔法生物の中に入りながら辺り一帯を探索する。 土の中をしばらく探索したが、彼女の遺体の欠片も見つからなかった。
◇ ◇ ◇
約3分程度周りを見回して歩いていたが、結局ドコニの手がかりはない。 何故か、部屋全体が湿ってきて、水を吸収するかのような乾燥した暑い環境になっていた。
「いや、どこだよ! どこに行ったんだよ!」
マリエスはドコニの手がかりを探すため、彼女の私物を手当たり次第に集めてみた。 彼女の服は大樹に守られていたコート以外、見る影もないくらいに錆びついている。
「あのチンピラ女ァ!! どこに行きやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
どこを探し続けてもいない彼女に対して怒りを覚えるマリエス。 徐々にマリエスが放った雨の水分も彼女を覆う巨大なイルカの水の塊も乾き始める。
「ドコの誰だ、ドコの者だと言われたらドコにでもいるドコニちゃん!! さあ、わてが最後の一撃をお見舞いしてあげりゅ!」
マリエスはすぐに天井を見上げた――
い……いつ……こいつは天井に登ったというんだ……。
天井にゴキブリのように張り付いているドコニ。 その姿勢は魔法少女と呼ばれるにはふさわしくない人型のクリーチャーの様である。
「てめぇが大量の雨を降らして攻撃してきたからよぉ、壁に貼り付いてそのまま、天井まで登ってやったんよぉ。」
「ま……まさか……さっき大木に隠れている間に私の視界から隠れて天井まで……。」
「よっしゃあッ!! 服を色々なところに置いて地上にいると思わせる作戦成功ッ!!」
コイツうぅぅゔゔゔゔゔゔゔゔぅぅぅ!!
ずっと私の真上で貼り付いてやがったなぁぁぁぁぉぁぁぁぁぁぁ!!
「ということでこれでトドメだッ!!」
ドコニは天井から自分の持っている全ての魔力エネルギーを注ぎ込むように魔力のレーザーを撃ち放つ。 マリエスもそれに負けじと自分の残っている水属性の魔力とこの巨大なイルカの魔法生物を使い、全力で勝負に挑んだ。
「あっ?」
しかし、マリエスは何故か思いっきり水の魔力を使おうとしたが、中々魔力が溜まってこない。 一瞬、魔力の消費し過ぎで体にガタがきたかと思ったが――
「ッ!?」
自身を覆っているイルカの水量がさっきよりも明らかに減ってきているため、技が上手に出せない。
「くっくっく……。 どうやら、効果ありだな……。」
「ま、まさかッ!!」
「流石にこのままじゃ、負けると思ってこの広場全体を水分を蒸発させる部屋に変えたわ、くっそわろ( ´艸`)」
急激に周りがカラッとしたサウナのような気温や湿度に変化していたのは全てお前のせいかッ!!
ドコニが私よりも高い内に張り付いて上がっていても上から不意打ちをかけなかった理由はこの部屋の環境を変えて、私を覆う魔力を含んだ大量の水を蒸発させたり、水属性の技を上手に使えなくさせてから確実に仕留めるためッ……!!
「チクショォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
ドゥゴォォォォォォォゥゥゥゥン――
凄まじい勢いでレーザー飛んでくる音と共に意識が潰えていく――
この私の研究が全て水の泡になるなど決してないのに――
◇ ◇ ◇
「――――――――――――――――――――――――――」
「――おーいー」
「おーい。 聞こえているかぁ。」
「こいつまだ、息してるっぽいなぁ。 わてのビームを喰らってもまだ生きてやがって……。」
意識を失って仰向けに倒れているマリエスに返事をするドコニ。
ドコニも少し肉体の傷や魔力をほぼ完全に消耗したため、そのまま近くで横になり、仲間が来るのを待つことにした。
「ねぇ! こっちから物凄い地響きが起きたけど、部屋全体がこんな大きな木に覆われているよ!」
「オランチア! もしかしたら敵がいるかもしれないから気おつけていくんだぞ!」
「はいんッ!!」
遠くから人の声が辺り一帯に響いてくる。 どうやら、声の様子からオランチアやそれを含めた仲間たち、グランドストリートの戦士たちのようだ。
これにて組織のボスを無事に討伐し、組織本部もおおよそ制圧に成功したのである。
一件落着したことにより、ドコニは安心した表情で後からやってくる仲間に手を降った。
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