第16話 百花(セイント・クォーツ)と落とし物
俺は百花と一緒に電車から降りて目的地の周辺まで足を運んだ。
駅から南にそれなりに歩くと大きなゲームセンターがあり、その間の住宅地エリアに今回の依頼の現場がある。
義弘と百花は杖を無くした可能性があると依頼で記載された場所の近くを調べてみた。
しかし、空き地や民家の間の路地裏と言った人が通らなそうな場所もそれなりに探索してみたが、杖は見つからない。
「依頼主の自宅もここから遠くないみたいだから、闇雲に探さずに詳しく聞いて見るのはどう?」
俺がそう提案すると百花はペコリとこっちに頷いた。
依頼主の家に着くと百花は周りの人が見えなそうな路地裏で変身した。
「さあ、これから依頼主に訪ねてみますか。」
「いや、変身するんかい!!」
「流石に魔法少女じゃない普通の人が任務を受けているなんて言われたら嫌。」
「ちょっとさぁ……。」
義弘もすぐにオランチアに変身して、チャイムを鳴らした。
そうすると、依頼主の家から小学生くらいの女の子が玄関から出てきた。
「あっ、魔法少女さんこんにちわ!!」
「私の杖、もう見つかった?」
「いや、まだ見つかってないんだ。 依頼だと杖は氷属性の魔力が込められているって聞いたけど、もっと杖のこと聞いちゃって大丈夫?」
オランチアとクォーツは女の子に杖のことや落とした日の事情をもっと詳しく聞いた。
「杖の先端には宝石のように光る青い球がついてる。 色は白だよ。」
「あと手で握ってるとプラスチックみたい感触。」
「そして、十六種類の色付き氷を生み出せるんだ!!」
どうやら子供の使う魔法の杖と言っても、しっかりとした高度な技術で作られたものらしい。
オランチアは少し、杖を普段何のために使っているかも聞いてみた。
「ちなみに君が杖を最後に使ったのって、昨日の夕方なんだっけ。」
「うん! 杖で遊び終わった後、リュックサックに入れて草道から家に帰ったらね。 なんか消えてたの……。」
「要するにリュックサックが開いていて、そのまま歩いてる途中で落ちたんだな。」
「ってか、氷の魔法の杖で何して遊ぶの?」
オランチアが女の子に対してそう言うと、ニヤッと笑顔で答えてくれた。
「草むらにいる色々な虫さんや爬虫類さんを凍らせる遊び!! 最近は友達にもいたずらで氷の息吹放ってあげてるの!! いつか動物もカチンカチンに凍らてみたいな♪」
「う、うおぉ……。」
オランチアは震えた声を出して女の子から少しだけ、後ずさりをした。
どの道、杖を見つけるには時間がかかりそうだ。
最寄り駅からこの家までの間にも草が茂っていて、地面を確認しにくい場所があったから、またそこを探そうとオランチアは考えた。
「氷……白い……先端に青い球……夕方……この駅の周辺で落とした……。」
「や、やっぱり……。」
「ん? どうしたの? クォーツ……。」
「えっと……。 少しだけ待ってて……。」
彼女はブツブツ独り言を言った後にカバンから何かを取り出し、どこかへ行ってしまった。
待っててと言われたので一応、少しだけ待っていたら白い冷気を包み込むような杖を持って彼女は戻ってきた。
「あっ!! その杖だ!! ありがとう!!」
「これでカラフルな氷で綺麗に凍らせることができる!!」
クォーツは女の子に落し物の杖を渡した。
女の子は自分のものが戻ってきたことに喜んでいた。
「え? どういうこと?」
オランチアは疑問を抱えながら、クォーツと一緒に道場に帰ることにした。
◇ ◇ ◇
道場に帰宅後、義弘と百花は依頼のことを話して任務達成の記録を訓練員に刻んでもらった。
「実はうち、昨日の下校の時に家にそのまま帰宅せずに友達とゲーセン行ってた。 ゲーセンから帰る道にたまたま杖みたいものが草むらに落ちてたから手に入れたの。」
「まあ、レアな杖だからそのまま自分のものにするつもりだったけど、流石に無理だだったか……。」
どうやら、落し物は彼女が初めから持っていたようだ。
しかも、自分の物にするつもりだったらしく、今日の午前中にこの依頼をたまたま携帯で見つけたから返すつもりで依頼を受けたとのこと。
「なんというか、この子……。 色々とアレな子だなぁ……。」
義弘ことオランチアは彼女のことを心配した。
そして依頼達成による報酬、1000円と5JPを貰って今日は家に帰ることにした。
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