第44話 サルベージ
「…………これで連中の痕跡は全て消えたが、やはり勇者一行は行方不明という事になるのだろうか?」
「そうですね。まぁでも、僕が勇者の代わりに魔王を説得するから大丈夫ですよ!」
人類の希望は骨も残さずに亡くなってしまったが、僕が責任を持って勇者の仕事を引き継ぐつもりでいる。元の世界への帰還を目指しつつ、それと同時に魔王との邂逅も目指すという所存である。
「とりあえず公には勇者の死は伏せておくとして……念の為、セイントザッパには水面下で報せておきましょう。万が一の際に対応が遅れたら不味いですし」
「……ふむ。それなら少し待っておれ」
溶岩を眺めながら今後の行動について意見を出すと、なぜかカイゼル君がにょろにょろと動き始めた。
どうしたのだろう? と思いながら呑気に見守る中、カイゼル君の向かっていく先に気付いて血の気が引いた。
「ちょ、ちょっと、そっちは危ないよ!」
熱気を放っている窪地にカイゼル君が近付いていたので、声を掛けるのと同時にズザザーッと滑り込んで抱き上げた。
やれやれ、危ないところだった……。カイゼル君は視点が低いので危険性に疎かったのだろうが、まだ窪地の中ではマグマがぐつぐつ煮えているのだ。
もしも彼が溶岩の中に落ちてしまったら大変な事になる。マグマの海に王子君を投入し、隠し味に勇者一行を少々――――名物、カイゼル焼きの誕生だ……!
「余を名物料理にするでないわっ!」
おっと、これはいけない。
カイゼル君を抱き上げている影響で心を読まれてしまった。あくまでも他意のない連想に過ぎないが、これでは友達を食べ物扱いしていると誤解を受けてしまう。
「ごめんごめん。でも、マグマに近付くのは危ないよ? それこそ核もろとも焼失しちゃうかもだから」
僕はべしべし叩かれながらも真摯に語る。
カイゼル君の好奇心が強いことは知っているが、何かの間違いで窪地の中に落ちてしまったら取り返しがつかない事になる。君子危うきに近寄らずが正解だ。
「ふん、何を言っておるか。余の生まれ故郷は火山地帯だぞ? マグマの海を泳ぐことなど造作もないわ」
耳を疑うような事を言い出した王子君。
出身地が火山地帯とは初めて聞いたが、たとえ火山の近くに住んでいてもマグマの海は泳げるものではない。それはもはや生物の域を超えている。
しかし、彼は嘘を吐く子供ではない。
硬化や変化といった珍しい能力を持っている事でもあるし、桁外れな熱耐性を持っている事も否定できなかった。僕は不安を抱きながらも王子君を解放する。
「…………おおっ、本当に大丈夫なんだね」
「す、すごいな、大したものだ……」
危険地帯に向かう姿をハラハラしながら見守る中、カイゼル君は自己申告通りにあっさりと灼熱の海に潜っていった。この目で直接見ても信じ難い光景だ。
「いや本当に、カイゼル君の能力は常識の枠から逸脱してますね……。正確な種族は分からないですが、僕の世界には存在しない種族という事だけは分かりますよ」
大剣を弾くと言っていた硬化魔術、自分の大きさを変えられる変化魔術、そしてマグマの海でも泳げる耐熱性。それに加えて読心能力まで有するという出鱈目ぶりだ。
自称王子という事で特異個体なのだろうと予想しているが、いくら特異個体にしてもカイゼル君の能力性は異常と言わざるを得ない。おそらくは元々の種族特性も優れているのだろうと思う。
「――――コール、見つけたぞっ!」
僕とカナデさんが海水浴に同伴した保護者感覚で見守りながら雑談していると、マグマの海を泳いでいたカイゼル君が嬉しそうな声を上げた。
生まれ故郷を
それは反射的な思考だったが、僕の予想は的中していた。カイゼル君が溶岩の中から取り出したのは、燦然と輝いている黄金色のアイテム――そう、それは勇者が持っていた『聖剣』だった。
「ふふん、どうだコールよ。勇者の死亡報告となれば、聖剣を添えた方が信憑性も高いというものであろう」
「……なるほど、確かにその通りだね」
もしも魔王が僕の手に負えない存在だった場合、人類が勇者に任せきりにしていたら致命的な事態になる。だからこそ、僕はセイントザッパに勇者一行の全滅を報せるつもりだった。
だが実際、証拠もなく『勇者が死にました!』と伝えたところで信じてもらうのは難しい。勇者が消息不明になった、という状況証拠で時間を掛けて受け入れてもらうつもりだったが…………確かに、聖剣を添えれば死亡報告の信憑性は爆上がりだ。
これは間違いなくカイゼル君のお手柄だ。しかしお手柄ではあるのだが、溶岩からサルベージされた聖剣には大きな問題があった。
「んん? その板が聖剣なのか?」
そう、聖剣は板状に変形していた……!
カナデさんが懐疑的なのも無理はない。僕だって発掘した板が『黄金色』でなければ聖剣とは到底思えなかった。
あらゆる魔術を寄せつけず、いかなる衝撃でも曲がらない、セイントザッパで代々引き継がれてきた聖なる剣。戦闘中にじっくり観察したわけではないが、その特徴的な黄金色を見間違えるはずもなかった。
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