　レイチェルは時々背後を振り返っては羊男の動向を確認した。羊男に見失われても困る。かといってナイフを投げられても具合が悪い。ここにはキティはいないのだ。レイチェルはひどいケガを負えば死んでしまう。

　レイチェルはなんとしても羊男を殺さなければいけない。殺された親友のために。

　レイチェルがポケットに入れておいた携帯電話が鳴り出す。レイチェルが耳に当てると、アレックスの声がした。

「32ストリートのとなりの道路に来たわ」

　レイチェルはわかったと答えてから、空中高くに自身を持ち上げた。グンと身体が浮上する感覚を感じる。この感覚はいまだもって慣れない。

　キティは空を飛ぶのが楽しいらしく、何度も飛ばせてとせがんでくる。

　レイチェルははるか高い夜空に舞い上がると、眼下を見下ろした。レイチェルの走っていた道路の一つとなりの道路に、ジープが走っている。アレックスの車だ。

　レイチェルは手に持っていた携帯電話に声をかけた、ジープが見えたと。

　レイチェルは地上に降りると、レイチェルめがけて走ってくる羊男に声をかけた。

「こっちよ？ついて来て」

　レイチェルは再び羊男と一定の距離を取りながら、ピョンピョンと道路を跳躍した。

　道路の横道に差しかかると、レイチェルは後ろを振り向き、羊男に居場所を指示してから横道に飛び込んだ。目の前にはアレックスのジープが止まっている。

　レイチェルはフワリと身体を浮かせると、ジープの荷台に着地した。後部座席に座っていたキティがドアを開けて元気良く言った。

「お帰り！レイチェル！」

「ただいま！キティ、アレックス。バーガーショップのオーナーのお土産のハンバーガーがあるわよ？」

「え？！食べたい食べたい！」

「もう、キティったら。夕食は食べたでしょ？明日にしなさい！」

　はしゃぐキティをアレックスがたしなめる。いつものようなにぎやかな会話に、レイチェルは笑った。

　羊男はレイチェルの計画通り、ジープの後ろを追いかけて来ている。このまま人のいないところまで誘導しなければいけない。

　羊男は尋常じゃない速さでジープを追いかけてくる。これではジープに飛び移られる心配がある。

　レイチェルはリュックサックから拳銃を取り出し、羊男に向かって発砲した。だが羊男の速度はゆるまない。レイチェルは無意識に舌打ちをした。

　アレックスは運転しながら、バックミラーで羊男を見ていたのだろう。アサルトライフルを作り出すと、窓から出した。レイチェルに受け取れというのだ。

　キティも窓から手を出して、ライフルを支えてくれる。レイチェルはライフルを仕方なく受け取る。

　レイチェルはライフルの射撃が苦手だ。銃身が長いため、安定感がない。しかもここはジープの上、標的は走っている。レイチェルの不安に気づいたのだろう、アレックスのゲキが飛ぶ。

「レイチェル！できないなんて考えないの！レイチェルならできる！」

　レイチェルは気持ちを引き締め、標準を合わせた。狙いを定め、引き金を引いた。パァンと破裂音がした後、レイチェルは羊男の動きを見る。速さに変化はない。暗くてよくわからないが、きっと外れたのだろう。

　羊男の速度はどんどん早くなる。かなりの速度を出している車についてこれるなど、人間とはとうてい思えない。

　レイチェルは遠くからの射撃を断念して、羊男が車に近寄るのをひたすら待った。羊男は意味をなさない言葉を叫びながらレイチェルに近づいてくる。

　後少しで荷台のふちに羊男の手がかかろうとする瞬間、レイチェルは引き金を引いた。激しい発砲音の後、羊男は倒れてゴロゴロとアスファルトの道路を転がった。

　レイチェルの射撃が命中したのだ。レイチェルはよし、とガッツポーズをした。

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