第22話 二日酔い
水分補給、あさりの味噌汁、迎え酒。
ここから想起される一つの事象、そう、二日酔い。
「あたまいたい……きもちわるい……うぇぇ……」
そしてそんな二日酔いに悩まされている人が、ここに一人。
「もうそんなになるまで飲んじゃだめですよ?」
「もうしません……ゆるして……」
真っ青な顔でグロッキー状態の結衣はベッドに横たわったまま何かに許しを乞うている。
昨日飲んだのはカシオレ二杯だと聞いていたのだが、それでこの様子ならもうお酒は飲まない方が良いだろう。
「お酒は好きなんですか?」
「好きっ……⁉」
「昨日はテーブルに料理のお皿がありませんでしたけど、すきっ腹にアルコールを入れるのは良くないですからね? たくさん人のいる中であまり隙を見せるのも危ないですし……」
「そ、そんなに好き好き言わないでください……っ! まだわかんないです……! うぅっ、頭痛い……」
何やら慌てた様子で叫んだ結衣は、大声を出したせいか頭痛に襲われていた。
(まだわかんないって、なんの話……?)
よくわからない発言だが、頭痛で頭が回っていないのだろうか。
それにしても昨日は大変だった。帰り道の上機嫌な様子から一変、延々と吐き気を訴え続ける結衣の背中を一晩中さする羽目になった。あまりの吐き気に涙目になっていた結衣を見ているとこちらまで心苦しくなったので、あまり飲み過ぎるのは控えてほしいと思う。
「お味噌汁でも用意しましょうか?」
「お願いします……」
透華は未成年なので酒を飲むことはないが、拓水が接待を受けて飲んだ翌日に味噌汁を飲みたがっていたので提案した。
一から作ってもよかったが、あまり待たせたくもないので、インスタントの味噌汁にお湯を注ぐ。
渡した味噌汁を少しずつ飲むと、結衣の顔色にだんだんと生気が戻ってきた。やはり二日酔いに味噌汁は有効なのだろう。
「ありがとうございます、結城さん……」
依然としてグロッキーではあるが。
「……あれ、今日は苗字呼びなんですか?」
「それってどういう……?」
「昨日は名前で呼んでくれたと思ったんですけど……?」
そこまで言うと結衣も昨日のことを思い出したのか、酔っていた時よりなお赤く顔を染めた。
「あ、あれは酔っぱらってて……っ!」
「これからは、どう呼んでくれるんですか?」
「っ……ほんとに容赦ない……選択肢ないじゃないですか……優しいくせに、優しくないし……」
恥ずかしそうに頬を搔きながらごにょごにょと言葉を並べる結衣の答えは要領を得ない。
「それで?」
「……うぅ……もう少し、時間ください……」
埒が明かないので更に追及するも、得られた答えは残念なものだった。
長らく秀以外に名前を呼ばれることのない生活をしていた透華にとって、久しぶりに名前で呼ばれるチャンスだったのだが逃してしまった。
(まあこっちも結衣さん、なんて呼ぶ自信はないし時期尚早だったってことかな……。拒絶されなかっただけでも御の字か……)
尤もらしい理由をつけて自分を納得させる。折角会えたので、いつかは名前で呼び合えるような関係性になれば嬉しいとは思う。もっとも、それがいつになるのかは全くもってわからないのだが。
「それにしても、暑いですね……」
まだ五月の中旬なのだが、部屋の中はもう夏のように暑い。
「私はすっごく寒いです……」
二日酔いの悪寒に、結衣は布団にくるまってぶるぶるしている。普段寝るときは浴衣の結衣も、今日ばかりはしっかりと着込んでいる。
しかし気温は二十八度を越し、肌に汗が滲むほどだ。外に出るのが次第に億劫になる季節の到来が感じられる。
「あっという間に一月半も経っちゃいましたね……」
四月初旬に結衣との同居が始まってから、飛ぶように日々が過ぎ去っていった。忙しかったからなのか楽しかったからなのかは定かではないが、苦ではなかったことだけは事実である。
「これからもよろしくお願いしますね、紅葉さん」
「こちらこそ……」
もぞもぞと動く布団の中から聞こえた声に満足し、透華は二日酔いに効く朝食を調べ始めた。
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一章はこれにて終了です、お楽しみいただけたでしょうか?
二人の急接近あまあま展開からは少し変わって、二章はストーカー問題へ踏み込むシリアス注意な展開となります。ですが少しでも甘くなるように精一杯頑張りますので、続けてお読みいただけると幸いです!
評価していただけると非常にモチベーションに繋がりますので是非お願いしますっ……!(松柏)
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