画面越しじゃ、満たされない

哀しき豆腐メンタル

「『話したい』って言ってよ」



・-・-- ・・ ・-・-・ -・- 



『はい、もしもし……』



『もしもし、"モモちゃん"。

今日の配信も見てくれてありがと』



『え、気付いてたんですか……。

今日は、コメント控えめにしたんですけど……』



『そりゃなあ…………ちゃんと見てるから』



『すご。

"ナギくん"の配信、コメントしても一瞬で流されていくのに。

やっぱ、動体視力良いですね』



『うーん。まあ、伝わらんよな。こんなんじゃ』



『ところでナギくん。

今日、遂に達成しましたね。

おめでとうございます』



『うん、ありがとう』



『3年間、ずっと同じゲーム1本でやってきて、

生配信の同接同時接続者数3万人超って……。

まじの、ガチで、すごすぎます』



『モモちゃん含め、ファンのみんなのおかげやわ』



『達成を記念して……』



『………………』



『Q.こーいう電話は、今日限りといたしませんか?』



『A.いいえ。いたしません』



『なぜ??????』



『モモちゃんこそ、なんでなん?

俺のこと、推してくれてるんちゃうん』



『そりゃもちろん、推し。激推し。最推し』



『やったら、もっと喜んでくれてもええやん』



『いや、喜べませんよ。

私はナギくんのこと、純度100%の[応援]の気持ちで推してるんです。

こういう繋がりを期待してるわけじゃない』



『……それは、わかってるけどさぁ』



『それに。

ナギくんが"プロチーム入り"を果たして1年。

どんどん有名になってる時なのに』



『のに?』



『万が一、通話履歴が流出しちゃって、

"ファンと親密な関係!?"とか勘違いされちゃって、

なんだか不祥事チックに報道されたりして、

ナギくんが大会出場停止、なんてことになったら…………っ

…………絶望。無事に生きてられない』



『いやいや。

そんなんで不祥事にはならんよ。

いつもマイナス方向に考えすぎやって。

何回も言うてるけど、俺らはアイドルちゃうんやで?』



『そうですけど。

eスポーツのプロ界隈も、色々と難しいでしょ。

ナギくんは、女性リスナーさんも多いですし』



『プロ入って顔出ししたことで、

リスナーさん減ってまうんやないか危惧しててんけどなぁ』



『むしろ増えてる』



『ありがてぇ〜』



『……とにかく私は。

配信でも、大会でも、ナギくんのキラキラプレーを見るのが生き甲斐なんです。

次こそ絶対に、世界を獲ってきてほしい』



『……ありがとう。頑張る』



『と、いうわけで。

今日までありがとうございました』



『はい。これからも、よろしくどうぞ』



『………………』



『〜♪』



『……聞いてました?』



『めっちゃ効いたよ?

モモちゃんのアツい応援。沁みたわぁ』



『そーじゃなくて!

はあぁ……大昔にうっかり交換してしまった連絡先が、こんな形で"枷"になるなんて思わなかった…………』



『漢字間違ってんで。"チカラ"にはなってるけどね』



『つべこべ言わず、もうヤメ……

ってか、あれか。着信拒否すればいいのか、私が。

なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだ』



『あー、それなら。

モモちゃんが電話出るまで、

"配信者としてのナギ"は活休活動休止やな〜』



『……………………』



『配信すんの、結構楽しかったのにナ……

でも、しゃーないよなぁ……?』



『……卑怯では?』



『着拒しようとする方が卑怯やん』



『支障ないでしょ。私と連絡がつかなくても』



『もー、わかってへんなぁ。

ありまくりなんやって』



『なぜですか』



『俺…………

配信者兼プロゲーマーやってるけど、

ほんまはビビりやからさぁ』



『……はい、知ってます』



『何かあると、すぐにへこたれそうになってまうんやけど……』



『そのようですね』



『やから、さ。

大古参……とゆーか、一番最初のリスナーのモモちゃんから、直接アツい言葉を聞けるこの時間が元気の源なんよ』



『………………』



『と、いうわけで。

今後も俺のために……お願いできる?』



『ぐっ……』



『ね。いーでしょ、モモちゃん』



『……いつか、絶対に干されてやる』



『なにその目標』



- - - - -

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る