わけあって美少女達の恋を手伝うことになった隠キャボッチの僕、知らぬ間にヒロイン全員オトしてた件
果 一
第一章 陰キャな僕とクラス1の美少女にもフラグは立つらしい
第1話 陰キャな僕にもそういう展開は起こるみたい
あえて言おう。
二次元では陰キャなオタクがなぜかボンキュッボンなギャルに言い寄られたり、クラス一の美少女とお付き合いを始めたりするが、現実でそんな特大イベントは起こらない。
大前提として、イベントというのは起こすものであって、起こるものではない。
教室の角でラノベを開くことしか出来ない陰キャには、そもそも女子と触れあうイベントというものが起こる機会がないのだ。
であるからして。
僕こと、
「ねぇ、りこちー。ひょっとしてリップ変えた?」
「えマジ? うわほんとじゃん! ちょー可愛い! 男子悩殺用?」
「ちょっとやめてよ二人とも。そんなんじゃないって~」
窓辺でキャッキャとはしゃいでいる女子達の声に集中力を削がれた僕は、本から顔を上げてそちらを見た。
そのリーダーとして君臨しているのが、今持て囃されている朝比奈梨子である。
肩口で切りそろえたウェーブのかかった水色の髪。大きな青い瞳。そして、何より大きい。何がとは決して言わないが、おっ◯いが。
性格は気さくで明るい。誰に対しても優しく振る舞う、男子キラーそのものである。
そのコミュ力により、高校1年が始まって二ヶ月しか経っていない現在、クラス最上カーストのトップに君臨している。
紛う事なき陽の者。僕のような陰の者とは惹かれ合わない運命にある。
「ねぇねぇ、誰に見せる予定で買ったの?」
「そ、それはー……」
蜜柑に詰め寄られる朝比奈は、目を逸らすフリをしながらさりげなく視線を僕の方にずらす。
え? 僕?
――って、そんな都合のいいことは起こらない。
さりげなく後ろを向いた僕の視界に入ったのは、教室の後ろで友人とダベるイケメンだった。
「でさ~昨日祐二とゲーセン行ったら、アイツクレーンゲームの前で一時間張っててさ。小遣い全部溶かしやがったんだよ」
「何ソレヤバ」
数人組のグループで話している男子の中で、一際輝きを放っているその男の名は、
顔は言わずもがな。1年にして、既にサッカー部の主力に食い込んでいるとかいないとか、とにかく噂の絶えないハイスペック陽キャだ。
既にファンクラブがあるという噂も立てられているくらいだから、相当モテるのは言うまでもない。
男子グループの中では、彼が常に先頭に立ってクラスを導いている。
まあ、順当にいけばクラスカーストトップの二人は結ばれるべき運命にある。この認識からわかるように、少なくとも朝比奈は海人に気があると思われた。
それが証拠に、さっきからチラチラと海人の横顔を盗み見ては頬を染めている。
……可愛い。っと、いかんいかん。思い人がいる女子にときめくサイテーなクズ陰キャに昇格するところだった。いや、この場合降格か?
まあ、どちらでもいい。
とにかく、僕みたいなヤツに夢を見せないためにも、早くお二人にはくっついて欲しいものだ。
それは周りも常々思っているのか、蜜柑や綾乃といった朝比奈カーストの面々も、彼女のうっとり顔を眺めてため息をついていた。
「ま、僕にはどうでもいい話だけど」
僕は再びラノベに視線を落とすのだった。
――。
放課後。
「よかった。まだ赤色の毛糸は残ってたな」
倉庫の埃を被っている段ボールから赤色の毛糸の玉を掘り出し、僕は意気揚々と部室へ向かっていた。
その言葉からわかる通り、僕の所属は手芸部。ただし、今は部員が僕1人だから手芸愛好会だ。
手芸部を選んだのは、好きだからというのも理由の一つだが、それ以上に一人きりというのが大きい。
サッカーとか吹奏楽とか、団体競技は性に合わないのだ。
「マフラー完成させたら、今日は帰るか」
管理棟二階。僕以外誰も使っていない手芸部の部室。
その扉を開けた僕の視界に、思いもよらない光景が飛び込んできた。
「え?」
「は?」
僕と、相手の呆けたような声が重なる。
そう。僕しか使用者がいないはずの部室に、先客がいた。
相手は、クラスの人気No.1こと朝比奈梨子。
絶対に関わり合いになるはずのない人物が、自らの体操服を床に脱ぎ捨て、制服に腕を通した格好で固まっている。
それ即ち、生着替え中だった。
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