第二話「インターホンマジック」

『ピーンポーン♪』

 間の抜けたインターホンの音で僕は目を覚ました。ベッドのすぐ横のモニターディスプレイには、6:42と映し出されている。

(ん? いつもより10分くらい遅いな。まあ、おかげでちょっと長く寝られたけど)

 そう思いつつも自室を出て、階段を早足に降りる。寝巻のままではあるが、とりあえずインターホンの応答ボタンを押そうとし——

『ピピピーピーーンーンンポンポポーポーーンーンンン♪♪♪♪』

「いやそうはならんやろ!」

——たんやけどな、気い付いたらおっきな声出しとった。しかもなんや知らんが関西弁になっとる。でもや、そんなことは関係あらへん。いっくら「命から二番目の武器として謙虚さを決して見失わない」人間やっちゅう僕にもな、やっぱ限度ってもんがあるんやよ。

 親も妹も寝とる時間やゆうのにもかまわんで、朝っぱらから他人様のインターホンつこうて「パタトクカシー」よろしゅう睡眠妨害を企てよる不逞の輩にゃあ、灸を据えてやらんとなあ! そうと決まったらば、善は急げや。深海の嬢ちゃんはまだ外におるはずやさかい、どれ一発かまし……。

「……わたし、ユウキ……。今あなたの——」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああめああああああああああああああああああああああああああああめあああああああああああああああああああああめああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああめあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 同級生女子に自分の背後を取られて恥ずかしげもなくビビり倒した挙句、さっきまでの関西弁キャラを崩壊させて40字詰め原稿で6行分も叫ぶ奴がいた。

 ていうか僕だった。

「ちょっと、あんまり大きい声出さないでよ」

「あ、ああ。ごめん、深海」

 素直に謝る僕。この辺は自分でも可愛げがあると思う。でも実際、まだ七時にもなってない住宅街でみっともなく叫んでしまった自分を恥じる気持ちも大いにあるのだ。

 そして、その心の隙につけ込まない深海ではない。

「しかも、わたしまだ台詞言い終わってないし」

「すいません……」

「何個か『あ』じゃなくて『め』が入ってたし。わざと?」

「い、いえ! 決してそんなつもりでは……」

「そもそも、『ひとつとびぶったい』なんてネタ、知ってる人限られちゃうよ。柊二くん、そういうところあるよね。通じにくいネタしか使えないというか……」

「昔の私そんなことま……いや、ちょっと待て! それは口には出してないはずだ!」

「あははー、ごめんね。この会話、行間がなさすぎて地の文まで読んじゃった。というか」

「地の文だと⁉︎ なにか⁉︎ 『※この世界はフィクションであり、実在の事件、人物、団体とは関係ありません』とでもいう気か⁉︎」

 無理矢理ねじ込んだ「五等分の花嫁」ネタについて言及されたくないがために、女子に対して恫喝スレスレの問いかけをする奴がいた。

 ていうか誰だお前。僕みたいなお前みたいな奴は知ってても知らん。

「い……いや、別にそんなつもりでもないんだけどね。というか、今柊二くんから普段はしない作為的な何かを感じる気が——」

「いやあー、今日はいい天気だなあー!」

 話題を逸らすのに困って、天気の話を持ち出す僕。なんというか、全体的にダメダメだった。

「まあ、それはさておくとして」

 平然と話題を戻す深海。仕方なくそれに僕も追従する。

「……お前本当、すごいよ」

「そういうのいいから。早く朝ご飯食べちゃって。学校、遅れちゃうよ」

 僕の心からの賛辞に対しても深海は特に気にした風もなく、台所の卵焼き器を視線で指して言った。

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