プロ野球で注目されると強化される!? ネタ枠だった男が目指す世界一

杉谷

第1話:それでも、俺は目立つんで。

――新人選手のお披露目記者会見。


会場は閑散としていた。スタンドに並ぶ記者はわずか数人。華やかな大舞台というより、ひっそりとした雰囲気の中で進行していた。


「大変お持たせいたしました。準備が整いましたので記者会見を初めさせて頂きます。」


ひとりの選手が座っていた。目を引くほど派手なわけでもないが、どこか自信に満ちた雰囲気を漂わせている。札幌ウォーリアーズへドラフト5位で入団が決まった天羽翔太。期待値としては控えめ、いわば“補充要員”に近い立場だった。


記者たちもそのことを心得ているのか、メモを取る手は少しばかり鈍かった。


   ◇


最初の質問が飛ぶ。


「天羽選手、ドラフト指名おめでとうございます。プロでの目標を教えてください。」


記者の声はどこか儀礼的だった。翔太は少し考えるそぶりを見せてから、口を開いた。


「目標っすか? そりゃ、プロ野球界で一番目立つ男になることっすね!」


その瞬間、場が少しざわめいた。


「えっ……目立つ?」


記者の一人が困惑した顔で聞き返す。翔太は平然とした顔で続けた。


「そうっす! 誰よりも注目されて、話題になって、それでしっかり結果を残す。それが俺のスタイルですから。」


記者たちの反応は微妙だった。場違いな自信過剰とも取れる発言に、一部の記者は苦笑いを浮かべていた。


「いや、さすがにドラフト5位の選手がそんな大口叩いて大丈夫ですか?」


一人の記者が半ば冗談交じりでそう尋ねると、翔太は真顔で答えた。


「大丈夫っすよ。だって、俺は絶対に目立つ男になるって決めてますから。」


会場が一瞬静まり返る。その後、記者たちは半ば呆れたようにノートを取り始めた。「なんか変なルーキーが来たな」といった表情が透けて見える。


   ◇


会見後、翔太は控室に戻り、野球部監督に注意を受けた。


「天羽、お前な……あんまり余計なこと言うなよ。プロの世界はそんな甘くないんだぞ。」


「でも、注目されるのって悪いことじゃないですよね? プロ野球って、ファンが見てくれるから成り立つものじゃないですか。だったら、俺はその注目を全部集めます。」


翔太は飄々とした態度で答える。その自信に満ちた姿を見て、監督は思わずため息をついた。


「……まあ、せいぜい結果を出せよ。」


   ◇


その日の夜、地元の小さなスポーツニュースサイトに翔太の記事が掲載された。


「ドラフト5位のルーキー、“一番目立つ男になる”と豪語」


記事には半ば冷ややかな調子で、翔太の発言が紹介されていた。SNSでもわずかながら反応があり、「何言ってんだコイツ」「面白そうな新人出てきたな」などといったコメントが並んでいた。


翔太はスマホを見ながら、静かに微笑んだ。


(よし、いい感じだ。この注目が、俺をもっと強くしてくれる。恥ずかしい思いをしてよかった……)


こうして、翔太の波乱に満ちたプロ野球人生が静かに幕を開けたのだった。

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