30.空想から現実へ
セイルはいつものように水晶球を見つめながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。水晶の中では、ネプティアンたちが海底で繁栄を続け、新たな知性を持つ生物たちも彼らの影響を受けて共存の道を模索している。創造主としての責務に忙殺されながらも、彼はこの仕事にやりがいを感じていた。
「最近、少し余裕が出てきたな」
セイルは椅子にもたれかかりながら呟いた。環境の管理はフィエナやアリエルをはじめとする精霊たちが協力して行い、バランスは順調に保たれている。この時間をどう活用しようかと考えていると、ふとある考えが頭をよぎった。
「そういえば……この力なら、空想上の生物だって創れるんじゃないか?」
彼は椅子から立ち上がると、リーネを呼び出した。
「なぁリーネ。ふと思ったんだけどさ、この力ならドラゴンみたいな生物も創造できるんだよな?」
リーネはすぐに答えることなく、少し考え込むような表情を見せた。
「できるわよ。でも、本当にそんな生物を生み出すのならその生態はしっかり考えなさい。下手にイメージだけで誕生させたりしたら、その体躯通りの食欲で周囲の生物を食い尽くして生態系が崩壊するわよ?」
「あ~そうだよな……」
セイルは悩むように腕を組んだが、すぐに顔を上げた。
「そうだ!こういうのはどうだ?主食を空気中の魔力にしてさ、それが理由で魔力の多い地域でしか生存できないようにして、活動地域を制限するんだ」
リーネは目を細めて頷いた。
「なるほどね。それなら他の生物を脅かすことはないし、生息域も分けることができそうね」
「だろ?それに他の生物が住みにくい山岳地帯を住み家にしても、空を飛べるドラゴンなら問題なさそうだしな」
こうして、ドラゴン創造の構想が動き出した。
セイルは水晶球に手をかざし、自らの想像力を解き放った。ドラゴンといえば強大で神秘的な存在。彼はその姿を慎重に思い描いた。
「まずは外見だな……」
セイルが創り出したドラゴンは、しなやかな四肢と大きな翼を持ち、金色の鱗が太陽の光を反射して輝くようなデザインだ。長い尾には鋭い棘が並び、その威容は見る者に畏敬の念を抱かせる。
しかし外見以上に重要なのは生態系への配慮だ。セイルはドラゴンが生態系を乱さないよう細部に注意を払った。
「さっきの案を採用して、活動エリアを魔力の濃い山岳地帯に限定しよう。それと、主食は空気中の魔力に……あとは繁殖力も抑えないと、増えすぎたら魔力の枯渇問題とかになりそうだしな」
創造の過程で、セイルはアルディアにも意見を求めた。
「アルディア、山岳地帯の環境と魔力の流れについて教えてくれないか?」
アルディアはセイルの質問にすぐに答えた。
「山岳地帯なら魔力濃度を上げても影響は少ないだろう。だが、何らかの理由で魔力が低下する恐れもある。その場合は、ドラゴンが自ら魔力を集められる仕組みを作る必要があるかもしれない。」
「なるほど、それなら少し手を加える必要がありそうだな」
セイルはアルディアの助言を基に調整を重ね、ついに彼の想像通りのドラゴンを完成させた。
ドラゴンはセイルの意図通り、山岳地帯で目を覚ました。その大きな瞳には知性の光が宿り、金色の鱗が朝日に照らされて輝いている。
「よし、成功だ」
セイルは達成感に満ちた表情で水晶球を見つめた。ドラゴンは翼を広げ、ゆっくりと空へと飛び立った。初めて空を飛ぶその姿は、まるで大地に命を吹き込むようだった。
ドラゴンが山岳地帯で生活を始めると、その地域の生態系にも変化が現れた。ドラゴンが主食とする魔力を増やすため、新たに山岳地帯で育つ魔力を生成する植物を誕生させた。その影響で周辺には魔力に適応する生物が発生し始めていた。また、ドラゴンの存在を目撃した他の知恵ある生物たちは次第に山岳地帯を避けるようになっていった。
しかし、セイルは喜ぶだけでは終わらなかった。ドラゴンが山岳地帯に与える影響を長期的に見守る必要があると感じていたからだ。
「これが上手くいけば、次はもっと複雑な生物にも挑戦できるかもしれないな」
セイルは水晶球を見つめながら、初めてドラゴンを生み出したときの高揚感を思い返していた。ドラゴンは山岳地帯の象徴的な存在となり、その美しさと力強さは、世界中に生きる他の生物たちに静かな影響を与えている。
「あなたらしい挑戦ができるようになったのは良いことだけれど、特別な存在を生み出すということはそれだけ世界に与える影響も大きいわ。そのことは忘れないようにね。」
「あぁ、既にドラゴンの住む山岳地帯は、魔力が濃くなったこともあって生態系が変わってきているしな。でも、やっぱり世界に変化が加わっていくのは新しい楽しさがあるよ。やりがいがあるっていうかさ。」
この世界にはまだ無限の可能性が広がっている。セイルの創造の旅は続き、その旅路でどんな生物が誕生し、どのように世界が変わっていくのか――それはまだ誰にも分からない。
しかし一つ確かなのは、セイルが創造主としての責任と喜びを胸に、この世界に愛情を注ぎ続けるということだった。
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