第32話 神をも操る怨念 その3


 ド~ン!


 屋根を何かで叩いたような更に大きな音がした瞬間、屋根を突き破って6尺(約1m80㎝)もありそうな足の平が屋根から突き出してきた。


「アーンクソワカ!」


 ヒンジが大日如来真言を唱えた。


「タケル参上!」


 白い光の塊が突如として現れ、稲妻のようなけたたましい光を放ちながら天井から突き出した足の平を払いのけた。


「い、今のは、な・・何なんですか?」

 

 あっけにとられた連れ添いは、その突然の白い光を見て息を飲んだ。

 足を払われてバランスを崩した得体の知れないものの巨体が、屋根を通り抜けてゆっくり倒れ込んでくる。


 そのものは全身に鱗のようなものを纏っていた。

 頭には大きな角が二本突き出ている兜らしきものをかぶっているように見える。

 目は酷く窪んでいて目の周りは黒い穴があいているようにしか見えない。

 おそらく顔面には面頬めんぽうを付けているのだろうか、その形相は対峙するものへの威嚇・威圧を十分に与えるものであった。


 そのものがスラブに尻もちを突くと倉庫内の砂埃がまたもうもうと立ち上がった。


「舐 め た こ と を し や が る !」


 そのものは天井の白い光の残像を見上げながら吐き捨てるように唸った。


「もう一度聞く。

 何故ここに災いをもたらすか、答えよ!」

 そのものはヒンジの物言いに今度は答えた。


「因 は そ ち ら に あ る。

 何 故 な ら ば こ こ が 気 の 流 れ の 妨 げ を し て い る か ら だ !」


 ヒンジはやはりそうかと、頷いた。


「そのこと、承知である。

 故に我らはここが妨げにならぬようにと手立てをするため、ここに参った!」


「何 を ぬ か す 。 

 そ ん な 戯 言 、 信 じ ら れ る か 。 

 立 ち 去 れ ~ !!」


 すると得体の知れないものが纏う鱗のようなものが一斉に振動しだし、ガシャガシャと音をたてた。

 その在り様は自らの気を集中させているようにも見える。


「滅しに来たのではない!」

 ヒンジは即座にそう伝えたが、


「人 間 は 嘘 を つ く ! 

 お 前 ら は 自 分 の 都 合 し か 考 え て お ら ん 。 

 何 度 も 言 わ せ る な 。 

 こ こ を 立 ち 去 れ ! !」


 低周波を発生させるに十分な低さのその声が発せられる度に、倉庫全体がガタガタと振動した。

 その場にいた連れ添いは、その状況に全身が縮みこむような程の恐怖心を覚えた。


「こんなのが今までここにいたのか!?」

 そう思うと連れ添いは震えが止まらなかった。


 ヒンジは得体の知れないものに向けて両刃の剣で正眼の構えをとった。

「以前、そなたもその人間であっただろうに。

 哀れな!

 さあ、それで立ち去らねば何とする?」


 得体の知れないものはヒンジのその言葉に怒りを表すように更に鱗を震わせた。

 ヒンジはそのものの正体に確信を持った。


「川北の氏神を建て直そうぞ!」


 その言葉を聞いた得体の知れないものはヒンジめがけて鱗を飛ばした。


 ヒュ~ン!

 ヒュ~ンヒュ~ン!


 鱗は高速で回転し異様な音を立て、円弧を描きながらヒンジを襲う。


 一枚、二枚とヒンジはそれを両刃の剣で弾き飛ばしたが三枚目は除けきれずヒンジの耳たぶをかすった。たったそれだけでもヒンジの耳から血しぶきが飛んだ。


「先生!耳たぶから血が・・・!」

 バンが叫んだ。


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