6.物語に何が必要で何が不要か、徹底的に突き詰めた結果


 本作は普通に見ていても面白いし、考察しながら見ても面白い。

 本当に面白い作品とはそういうものだと思います。

 考察とか深読みとかしないと面白くならない作品は面白いとは言わない。


 さらに言うと本作は創作関連でも、色々と考えさせられることが多いです。

 当方の場合痛烈に感じたのが、

「無駄な描写を可能な限り削ぎ落す」

 かつ

「必要最低限の描写で観客を納得させる」ことの重要性。


 ゲ謎の上映時間は1時間44分。この短時間にあれだけ多くの情報が詰め込まれた映画というのも凄いですが、残念ながらカットされたエピソードもその分だけ多かったようです。

 スタッフインタビューなどで判明したところだけで挙げると


 ・奥さんと孝三さんの過去戦闘シーン

 ・村到着前、駅でゲゲ郎が太陽族に絡まれるシーン(そこで行方不明者捜索の張り紙が大量にあったらしい)


 などが代表的なところか。

 豪華版特典のドラマCDに収録されたエピソードも、本編に入れる予定だったのかも知れない。ちょっと軽めの笑える話かと思っていたら結構ガッツリ本編とリンクしていたし。

 どれも是非映像で見たかったですが、実際に本編に入っていたら確かに若干間延びしそうな気がしなくもない。

 これ以外にもカットされたエピソードは無数にありそう。カットの一つ一つを数秒単位で管理に管理を重ね、削れるところは徹底的に削り何とか1時間44分におさめたという話だから、そりゃ少しでも間延びしそうなエピソードは削って当然といえば当然か。


 初見だと「水木が最初に村に来るシーン、こんなに長くやる必要ある?」とは若干思ったけど、二度目以降に見るとあのシーンにやたら情報が詰まっているのが分かる。

 一見美しい長閑な村に見えるが、村人がコソコソ隠れて水木を監視していたり、物陰からの不安定な視点があったり、戦後の田舎の割には電柱が多かったり、キーポイントとなる赤い鳥居も見えたり。

 音楽もあいまって、「一見綺麗だけど、人がやたら少なく見える割に何やら不気味な気配のする村」の雰囲気が凄かった。

 あと水木の足取りがわざわざやや不安定に描かれていることから、足元がかなり悪いというのも分かる。


 最初の水木と沙代の鼻緒シーンも、水木の手慣れたイケメンぶり、沙代のヒロインぶり、時弥の可愛らしさが一気に詰め込まれている。

 そして、無垢な子供であるはずの時弥さえもが「よそ者」発言するだけで分かる村のヤバさ。


 水木とゲゲ郎が最初に食事をする短いシーンだけでも情報量が多い。異常な早食いから水木の過去がうかがえ、それに対するゲゲ郎の性格ののんびりさも何となく分かり、さらに互いの食事内容の違いで村からの扱いの差が伝わってくる。

 水木の早食いの理由は勿論過酷な戦場経験からだけど(とにかく食べられる時に食べなくてはならなかった為か身体に詰め込むが如く食べており、食事を楽しんだり味わったりしていない)、若い人には伝わるだろうか?とはちょっと不安になったが。大食いとか行儀悪いとか勘違いした人いたらちょっと嫌だなぁ……


 その後の時弥とのシーンも暖かく印象的で、後々の悲劇を際立たせる。

 ゲゲ郎と時弥がまともな形で言葉をかわせたのは全編通してここだけと言ってもいいが、それだけにゲゲ郎の言葉の柔らかさや、病弱ながらも健気に未来を夢見る時弥が心に残る。


 そしてゲゲ郎に対する「確かにお前は犯人ではなさそうだ」「お人好しすぎる」という水木の台詞も、一見軽い口調でかなり重い。直後に戦場の悪夢シーンがあるせいか、『人を殺して生きのびた自分と違って』という意味合いもこめられてる気がする。

(ただ、客観的に見ると水木は最初から最後まで心底お人好しなのは間違いない。

「チョロいな……」というゲゲ郎に対する心の呟きも含め、全部自分に返ってきてるの面白いw)



 上記のシーンもそうですが、全編にわたって台詞、表情、動作、あらゆる部分で無駄がほぼ皆無。

 同時に、「削ぎ落としすぎでは?」と思う部分もほぼないというのが奇跡すぎる。

 強いて言うならやはり終盤、水木がちゃんちゃんこを脱いで奥さんにかけるシーンはもう少し詳しくやってほしかった。何回か見た後に初めて気づいたという人もいたし。


 あと、沙代の死からの水木の立ち直りの早さを「酷い」と指摘する意見も見てしまったけど(実際自分も初見で「早すぎない?」とは若干思ったが)

 別に戦場の体験談を聞いた経験がなくとも、そこは理解してほしいという気はする。

 ガンダムやら何やらで散々やってるだろ! 一人の死を悲しんでいる間に自分が死ぬのが戦場だってことぐらいは!!



 削るべき部分を削ってなかったり、逆に削りすぎていたりする作品はこの世に数多く存在します。むしろ削りのバランスが不完全な作品の方が圧倒的大多数で、ゲ謎は星の数ほどある創作物のほんのひと握り、奇跡的なバランスで成立した作品かと思うこともよくある。


 そう思ってしまうのは、私が見てきた作品の数々がおかしなものばかりというのもあるかも知れない……特に最近のアレとかアレとか……

 点と点が繋がらず線にならない、何とか無理矢理繋げても結末がお粗末、あの衝撃的なシーン結局何だったの? あの伏線っぽいシーン意味あったの?の連続だったりする作品とか。

 それをライブ感優先してます!とかいう謎のワードでごまかす作品とか。

 シリーズ続編きた!と思ったら意味なく人気キャラぶっ殺したり人気カプ引き裂いたりする作品とか。

 作品自体は素晴らしいのに、CMの乱発やCM前のシーン及び前週のあらすじなどの繰り返し多発で放送が酷いものになってしまった作品とか。

 ヒロインがやたら洗脳されたり記憶喪失したりで主人公への裏切りを散々繰り返した挙句、世界滅亡寸前まで行った作品とか。ヒロインも酷いがあのサブヒロインの裏切りは何の意味があったのか……別の男の為に敵側について散々暴れ回った挙句に「ごめん、私やっぱり主人公が好き」とかお前……


 巻数引き伸ばしとか話数引き伸ばしとか、脚本遅れなどで制作が追いつかないとか、原作にアニメが追いついてしまったなどなどの裏事情は数あれど、そのような形になってしまった作品は非常に残念なものがあります。


 逆に削っちゃイカンところまで削りすぎてる作品もあり、そちらもかなり残念な出来になっていることが多い。

 例えば原作の重要エピソードをアニメや映画ではバッサリ削って別物になっていたり、原作の人気キャラを丸ごと削って存在すらなくしていたり、そこまでいかずともモブ扱いしたりする作品が典型例でしょうか。


 あと、必要最低限の部分まで削っているのに何故か不要な部分をやたら付け足しているという最悪パターンもかなり見かけます。

 キャラの感情変化とか主人公が戦う理由とか必要なシーンは削りに削っているのに、鉱石の産地を巡る争いの歴史だの麦の生産方法だの、本筋と関係ない背景設定はやたら細かく長々と垂れ流したりとか。ただでさえあのゲーム文字小さくて読みづらいのに、そういうシーンは文字がぎゅうぎゅう詰めで非常に読みにくい……

 どのゲームとは敢えて言わんけどせめて設定資料集だけでやってくれ。


 自分も作品を書く上で勿論、無駄なシーンは書かないようにしていますが……

 実は、既に書いたシーンを削ったりなどの作業は非常に苦手です(だからプロットの段階で無駄だと思ったシーンは最初から書かないようにしている)

 しかし連載が長期にわたると、前回の更新からもう1か月!早く次の更新しなきゃ!!となり、とりあえず何とか更新する為に文字数稼ぎに走ってしまうこともあったり。

 その部分を後から読み返すと、「この回まるごといらんだろ!」となることもある。


 これ以上語るとゲ謎とほぼ関係なくなる上にエッセイがひとつ書けてしまう量になるのでやめておきますが、自身でも無駄な描写は可能な限り削れるようにしていきたい……

 と、ゲ謎に触れて改めて思った次第です。





 ブルーレイ再生環境が未だ我が家で整っておらず、肝心の本編がブルーレイでは見られていませんが、オーディオコメンタリーもかなり情報量があるとの噂でドキドキしております。

 語りだすと本当にキリがない作品なので、このレビューは一旦ここで締めさせていただきますが……

 オーコメなどで新たな発見や感想があれば、またここにも書き足していきたいです!

(次回は一応おまけレビューになりますが、CDドラマの感想になるので豪華版未購入のかたはネタバレ注意です)




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