31 関 ――解明――
「ちょっと待て、―――くそっ」
追い掛けようとして、視線を感じて関が止めて。
「…――――橿原さん。…あいつの頼みで、その、…。つまり、」
言い難そうにいう関に、橿原が淡々と。
「先にもいいましたが、滝岡君も随分と大胆です。生きている人間を僕に頼んでいくんですからねえ」
「……――橿原さん、その」
「ああ、御礼はいいですよ?僕としても、生体の観察をするのは随分と久し振りでしたからねえ、…。生きた患者さんの世話は随分としてませんでしたからね」
「…いえ、その、ありがと、う、…ございました。御厄介をかけて」
つかえながらもいう関に、橿原がにっこりと微笑む。
「死んだ患者さんの世話なら得意なんですけどね。生きていると脈があったりねえ、血管も動きますから、採血もしにくくて」
「…―――滝岡、あの野郎、…」
ぼそり、と呟く関に、ちら、と同情する視線を向けてから、鷹城が車椅子をボードの前に進める。
「―――問題は今回の犯人をどうやって捕まえるかですよね」
「八年前の事件からはどれだけ証拠が集まるか難しいかもしれないが、今回の件なら、…」
「血液分析の手配でしたら、既にお願いしてあります」
「…橿原さん、」
「そちらも、西さんの処にいずれ結果が届くはずです。被害者が治療中で、血液がまだ保存されていたのが幸いでした」
「…―――なら、あとは、」
いいながら椅子にどさりと座り直す関に鷹城が頷く。
「あとはこっちの件だけですね。僕達が襲撃された事件の方」
「…―――」
難しい顔をして関が気楽にいう鷹城をにらむ。
「あのな?」
「どうやって犯人をつかまえるか、…そう簡単には尻尾を出しそうにありませんよね」
「そいつは、そう簡単には」
「いえ、尻尾は既に一部出ています」
「橿原さん?」
鷹城に反論仕掛けた関に、橿原が優雅に一歩踏み出していう。
見あげる鷹城に橿原が静かに視線を置く。
「既に犯人は、一部遣りすぎています。尤も、得意分野でないばかりに、足が出たというところなのかもしれませんが。しかし、決め手にかけるのは事実ですがね」
「僕の記憶が戻れば、…」
難しい顔をして沈黙している関。
「あ、そうだ」
そして、軽く鷹城が右手を挙げる。
「一つ、確認しておきたいんですけど」
「何ですか?鷹城君」
「いえ、…、その僕がこの間、病院を移ったのって、かなり斜め上なことでしたよね?」
「そうですね。かなり非常識だといって差し支えは無いと思いますが」
「…橿原さん、…。ですが、それってつまり、常識的には僕は、本当ならまだあの病院に入院していてもおかしくはないということではないでしょうか?」
「…おい、鷹城、」
関が眉を寄せていう。
橿原も沈黙して鷹城を見る。
「つまり、僕があの病院を抜け出したことを、犯人はまだ知らないんじゃないでしょうか」
にこやかに提案する鷹城に橿原が僅かに眉を寄せて。
関が難しい顔で鷹城を見る。
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