8 関 ――県警本部捜査一課 1――


「一体それで、鷹城さんは何をしていたというんだね?」

課長が質問するのに、俯いてくちびるを咬み関が答える。

「わかりません。自分は証人に再度証言を確認する為に赴いた際に、あいつを見かけただけなので、…」

「その際に、鷹城さんは誰といたんだね?それはわかってるのかね」

「それもわかりません。家の陰になってて、…。何か誰かと話してるようではありました。声を掛けようかとも思いましたが、仕事中でしたので、戻って報告する為に」

「では、鷹城さんを監禁し殺害しかけた犯人について、おまえさんはまったく心当たりがないということなのかね?随分とらしくないが」

「…課長、…。情けないですが、その通りです。もし、自分が声を掛けてれば、あんなことには、…」

問い掛けた課長を見返して答えながら途中で言葉が途切れる関に課長がいう。

「被害者があんな山奥で何をしていたかについてはわからないかい。そりゃあ、向こうさんも仕事やら何やらいろいろあるだろうから、おまえさんがこっちの仕事を優先してくれたのは、とってもらしくないが、普通の事だ。おまえさんが責任を感じることじゃあない」

「…課長」

「しかし、あちらの方々にはいつも世話になってるからねえ、…――。それに、そんな事は関係なく、凶悪犯だ。成人男子を負傷させ監禁して殺害しようと、いや、殺意があったかどうかはこれからだけどね。放置すれば死亡してた可能性は高いだろう。殺人未遂事件として、何にしてもこの犯人を捕まえなくちゃならんよ」

「その通りですよ。先輩、落ち込んでないで、事件の経緯について報告書を出してください。僕達が捜査しますから」

「…――――」

課長の言葉を引き継いで山下がいい、無言で関が頭を下げて、デスクに下がるのを二人が見送る。

 生気の無い関の様子に、課長が窓際に立ったまま眉を寄せる。

「…さて、それにしても一体どんな奴が犯人何だ」

「確かに、その通りです。でも、鷹城さんの意識が戻れば犯人の特定は簡単ですよね」

 課長が窓から青空を振り返り、白い雲を仰いで嘆息する。

「こんなに天気は良いっていうのになあ、…」

神奈川県警本部内にある一課の部屋は、旧庁舎の古い建物を使用している。上に少し尖った大きな観音開きの窓を持ち、高い天井に濃茶のニスが塗られた板張りの床という、レトロな建物は風情があり、建築学的に貴重な物であるらしいが。

歴史的建造物故に、改装等が禁止されている窓の古い枠越しに青空と鳴る緑の梢を眺めて、小柄な課長がもう一度溜息をつき肩を落として、書類を自分のデスクに置いている山下を振り返っていた。

「まだ意識は戻らないのかね?」

「病院からの連絡はまだありません」

「そうかい」

立ち上がり窓際をぶらぶらと歩き出す課長を山下が見つめる。



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