歌集 蟹だまし
@wakuwakuiwaku
牛乳
住宅展示場の駐車場を抜けるわたしのアパートまでの近道
そこにいると邪魔になるよとどこででも言われ続けて出かけなくなる
楽だからリュックを背負う 毎日のようにどこかで警報が出る
肉体に自分を入れて持ち歩くちょっと暑いともう動かない
髪の毛もついていたこと足の裏のお米を取ろうとしたらわかった
逃げた父 陶芸体験教室は形を作れば焼いてもらえる
悩んでもいちいち口に出さない、とあなたが酢を飲む勢いすごい
めいっぱいはしゃいでいても暗いねと言われる女の家の麦茶だ
鞄から雨水を吸うというよりは雨水に吸われているティッシュ
誰もいない手洗い場から水の音もっと自分を見張るしかない
夜起きて集めてないのに増えていくペットボトルのどれかを倒す
勉強ができる人との会話ではきんぴらごぼうみたいに卑屈
まず舌を青くしてから話したい大した意見を持ってないから
ゆで玉子の原材料はなんですかと訊かれたような顔をされている
言われるようなことをするのが悪いって言ってあなたは八時間寝た
煽らずに話せないかと訊ねたら煽ったつもりはないそうである
弟のように迷惑かけられてないから兄に優しくできる
塗れば塗るほど濁りゆく絵のような不安の出発地点はお腹
少し前までは【努力】が最近は【総活躍】が嫌いな言葉
青い鳥あと何人の人生を出ていけば君になれるんだろう
人んちの子ども危なくならないで親に無断で触れたくはない
準優勝だったとしても感動をありがとうセールはやっている
見切り品ワゴンのなかでにんにくのチューブの箱が色褪せている
化粧して弁当つめて天気予報見るはずだった朝はもうない
延滞金がこんな高いと知ってたら頑張って返したかもしれない
焼肉屋の壁には豚の解剖図あなたはいつも笑っているね
お札しかないのに小銭が足りないという貼り紙を見たくなかった
貯金っていいことずくめのはずなのに強くおすすめされると怖い
ほんとうに駅までたどり着いたって電車ごっこは電車ではない
胸糞悪い話の無断転載を倍速で観る、母の勝手だ
幸せが何かはめだかをうまく飼う人なら知っていそうに思う
ピザ自体にこだわりはなくただ人が届けてくれたものが食べたい
図書カードはかわいいデザインばっかりでこんなかわいい本は読まない
食い残しらしき魚が死ぬ道でわたしが一番年上である
戦闘が始まらないようあらかじめ半分死にながらすれ違う
生きていた姿に近いせいなのか魚を焦がすと落ち込んでくる
絶対に壊れないっていうのならもっと粘ってから壊れろよ
ポイに載る金魚の重みがおそろしいわたしはわたしを破いて落ちる
スーパーの表と裏の雰囲気が違うと二面性って言われる
紙に描く◯さえみんな違うのに一斉に嫌われていてすごい
集まって立派に育つえのき茸 ラインはもう少ししてから消す
何もしてくれない人とお互いに思っていたな遠い晩鐘
逃げた娘 父にいくつも剥いたのに今もりんごは途中で折れる
報道の人が走っていったのはわたしが思った方じゃなかった
他人っぽく接してみたらほんとうの他人みたいに優しくできた
追ってきて泥を注ごうとする人がいてもガラスのうつわよ逃げろ
責められないために責めない ここんとこしてるピースはこういう形
軒下に投げる直前もう一度抜けた乳歯のきたなさを見る
牛乳の臭いと味と飲んだあと白くなるグラスも無理なので
あなただけ間違っていると言われても【寿司おいしい】にいいねはついた
歌集 蟹だまし @wakuwakuiwaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。歌集 蟹だましの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます