第47話 『aMa式』

 俺たちは昨日決めた作戦の1つを無事に完遂することができた。


 だが、これはまだだ。

 俺たちが世界王者となる物語の──。


 ひとまず、次にすべきは──


「──行くか、セントラル」

「あぁ。俺たちの障害になるのはさっさと排除しないといけねーからな」


 障害、それはもちろんBASTARD Qのことだ。


 もう一度振り返ろう。

 俺たちがこの試合で成し遂げないといけないのは、キルをしつつチャンピオンを取ること、そして現在上位に居座るチームをはやめに排除することだ。


 BASTARD Qほど障害となるチームは他に無いだろう。


 では、なぜ初動から行かないのか。


 実は、昨日の作戦会議では最初セントラルに降りようと話していた。

 しかし、結果的にそれはやめた。


 現代FLOWにおいて対面最強である彼らに初動武器取りの運ゲーを仕掛けるのはリスクが高いからだ。


 だが、キルを重ねて下手にポイントを盛られても困る。

 なるべく急いで向かわないといけないな。


 俺たちは街を漁り終え、終盤でも通用しそうな物資となる。


 そしてセントラルへ一直線に走り始めた。


『この方角はセントラル。BASTARD Qもキノコ組と同じ理由で倒すつもりなのでしょうか?』

『おそらくそうでしょう。しかし────』

『これはさすがに……辿り着くことはですね……』


:QUANTだなぁ

:銃声聞きつけてから駆けつけるまで速すぎるもんなw

:しかも名の無い街とセントラルの間の丘をもう陣取られてるもんな

:スナイパーのハッピーセット()

:俺の勘はFILM-0が勝つって言ってんだけど、まぁさすがに無いかw

:それフラグぅ……

:い、いやでもさすがに……もうスタンバイしてるし、気づかずに抜かれるって


「────ん?」


 越えたらセントラルという丘にもうすぐ着こうとしていると、俺は少し違和感を覚えた。


「どした?」

「いや……勘違いかもしれねーけど、丘の上に人がいた気がしてな」


 セントラル付近の地形は、キノコ組ともBASTARD Qとも戦闘になる可能性があった。

 そのため、昨日射撃訓練場を利用し、地形をある程度覚えた。


 少しでも有利に動くために、努力した。


 その時には無かった『黒い影』が、丘の上にあった気がしたんだよな……。


「多分気の所為だろう」

「……いや、こういうときのお前が外すとは思えんし、最悪を警戒して動くか。一旦移動止めて岩裏隠れるぞ」

「了解」


 俺たちは近くにあったちょうどいい大きさの岩裏に身を潜める。


『は? え、き、気づいたんですかこの2人……!?』

『いや……この感じ「気付いた」というよりも「違和感を感じた」という動きな気がしますね……』


 丘上との距離はまだ100mほどある。


 もし誰か待ち構えていたとしてもハイドしているだろうから、足音が聞こえることはない。


 また、グレネードなどの投擲物は届かない。丘上からなら高低差の関係上届くかもしれないが、俺たちからはまず不可能である。


 つまり、敵を確認する手段は目視しかないのだ。


「ポータル使っていいか?」

「あぁ。頼む」


 アミアはアビリティを発動し、今走ってきた道を一気に引き返す。


 今回アミアは索敵スキルのキャラを採用していない。

 ポータルにしたのは臨機応変力を買ってのことももちろんだが、メインは────


「──いた」

「ほんとにいたのか」


 ポータルを展開し終わったアミアが、丘上から俺たちを狙うスナイパーを確認した。

 そしてポータルを通して一瞬で岩裏に帰ってくる。


「これで相手も気付かれたと思ってくれるか。レイはよく耳を澄ませとけよ?」

「おう。任せろ」


 キャラも動かさず、呼吸も忘れるほど『音』に集中する。

 1つの音も、逃さない──ッ!!


「──動いた。駆け下りてきてるぞ、戦闘だ!!」


『おおーっと!! ここでアミアのアビリティが刺さり、ハイドを打ち破った!!!』

『アビリティの使い方、タイミング。すべてが神がかってますね……!!!』


 丘上でずっと待ち伏せされると、正直厳しかった。


 だが、敵のいた丘上は、セントラルからは丸見えであった。


 つまり、激戦区から射線が通っているということ。

 敵も奇襲されるのを恐れて降りてきたのだろう。


 どちらにせよ、俺たちからすれば好都合ッ。

 岩を使って戦えるのはありがたすぎる。


 敵は丘を駆け下りながら、俺たちに向けてスモークを投げてきた。

 俺たちも焚こうと思っていたのでちょうどいい。アイテムの節約となった。


 また、視界が白い煙で完全に覆われる前に、アミアはアサルトを2点当ててくれる。

 相手の状況が分からないため、この約50ダメージのアドバンテージはデカい。


 さて、どう戦うか……。


「アミア、この岩って何mくらいだった?」

「目算だが、大体6mってとこだな」

「6、か…………」


 ──うん、いい高さだな。


「お、もしかして?」


 俺のあの一言だけで、アミアは俺がしようとしていることを察したようだ。


 まぁ、そりゃアミアも分かるか。

 なんせ、なんだからな。


 敵の足音が大きくなってきた。あと10秒ほどで接敵しそうだ。


『レイはelle式で対応しそうですね』

『えぇおそらくは。そのためにこの岩がある場所を選んだのでしょう。凄まじい判断スピードですね』


:elle式、使うのか?

:うーん、いやでもこの場所なら使うんじゃね

:けどエミリア式は特に岩に警戒してるからな

:いやそう

:ここのelle式はあんま刺さらなそうだけど……


「よし、やるか」


 俺はキャラを右に動かし岩に近づく。

 そして接触する直前に、一気に左へ動かし壁に立つ。


 そしてすぐにジャンプ。


「elle式、岩蹴り!」


 アジア大会本戦でも使ったものだ。


 しかし、これは新技の言わば『補助』。

 本命は────!!


「アミアッ」


 俺が力強く叫ぶと、アミアは銃を構えずグレネードを持った。


「ふぅー…………(そのタイミング、角度、速さ、距離、動き────)。そこだッッ!!」



 ──グレネード。

 投げて数秒後爆発する投擲物である。

 地面に着地後、勢いが無くなるまでバウンドするし、爆発するまでジジジと音が鳴るので、命中することはあまりない。


 しかし、敵を強制的に動かすことや、グレネードとプレイヤーで擬似挟み撃ちをしたりと地味に優秀な武器である。


 持っていける物資の数──スロットには限りがあるが、グレネードは1スロットに3個重ねられる。


 つまり、めちゃくちゃ効率がいい。



 だが、今回アミアが気付いたのは『バウンドすること』である。


 地面に触れ数回バウンドしたのち停止し爆発する。


 つまり──グレネードには当たり判定がある。


 極小ごくちいさなものだが、あることは確かだ。


 それに目をつけたプレイヤーは、アミア以外にも過去にいただろう。

 しかし、運用できるわけもなくすぐに記憶から消した。


 無理もない。

 FLOWのグレネードはコップ程度の大きさであり、しかもそれ全てに当たり判定があるとも限らない。


 神ゲーFLOWともなればあり得るかもしれないが、その中心にちょこんとあるだけかもしれない。


 だが、両端のどちらかにしか無い、なんてことは無いだろう。

 もしそうなら地面に埋もれる可能性があるのだ。


 つまり、グレネードの中心には『確実に』当たり判定がある。


 そして、それを運用レベルに持っていくのが────盟冠、アミアなのだ。




「────aMa幻想面ファンタシー・フーモスッ!!」




 昨日完成したばかりの、elle式に続く新ジャンルの新技である──!!


 aMa式。

 不可能を可能に変える技術だ。

 FLOWへの圧倒的な理解力が求められるため、再現はめちゃくちゃ困難である。


 しかし、aMa式はあくまで『無から可能性という光』を作る技である。


 この光を完璧に照らすには相方の──俺の技術も対応しなければならない。


 ゲキムズである。

 あるか無いかの境目ほどの当たり判定に着地し、それが適応されている間にコマンド入力しないと意味が無くなるのだから。


 ……と、いうのがだ。


「ほっ!」


 壁蹴りにより異次元の速度に達した俺はグレネードに着地するとともにジャンプした。


 とてつもないスピードを保ったまま飛ぶ方向は真上に変わる。


 その高さ──約10m。


 登ることが不可能な巨大岩の上に俺は着地した。


 こんな1フレームの戦い、昨日の練習で『完璧』まで仕上げてる。


 これにより出来上がった布陣は、かなりの高所に俺、スモークの中にはアミアという、敵からしたらめちゃくちゃ嫌なものだ。


 だが────


『QUANTが今すぐにでも歩みを止めなければいけない布陣ですが…………!!』


:スモークが

:裏目ったああああああああああ!!!

:アミアと戦っていたら、上からダメージ倍率の高い頭にSMGが撃ち込まれるとか……

:エグスンギ

:笑いしかでねぇ


 アリジゴクに入ったアリは、もう逃れられない。


 FILM-0にしか成せない技で敵を倒しきった俺たちは、余韻に浸る間もなくセントラルへと駆け出した。

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