第二章 -4- カフェ・ノードの魔女
おずおずと右手をあげてミーナさんにそうたずねると、そうねえと口元に人差し指を当てながらミーナさんは首をかしげる。
「何から話そうかな?ねぇ琴音ちゃんは魔法ってどういうことだと思う?」
「魔法ですか?えぇと・・・こう不思議な呪文を唱えてこうバァって!炎が立ち昇ったり空気中に巨大なドラゴンが召喚されたり・・・」
「あはは。ええなぁ私もそんな魔法を普段から使いたい。そうしたら課長の頭に残る髪の毛をすべて燃やし尽くせるのに」
柚さんは笑い、私は肩をすくめる。やっぱり私の想像する魔法や魔女は少し違うらしい。
「うん。きっと世間一般に言われる魔法はそうだよね。後はホウキに乗って空を飛んだりするとかかな?じゃぁ。たとえば水道から水をジャーって出すことや、コンロで火をつけること。これは魔法かな?」
「それは魔法じゃなくて・・・科学だと思います」
「そうね。それは琴音ちゃんが実際に使ったことがあって仕組みをなんとなく理解しているからで、もし琴音ちゃんが知らずに蛇口から水が出るのを見たら魔法に思うんじゃないかな?」
素直にそうだと私は思う。タネも仕掛けもないマジックを最初見た時は本当に魔法ではないかと思ってしまうのだから。
「そうですね。多分そう思います。それが魔法なのですか?」
「それもちょっと違う。もともと科学と魔法は同じようなものなの。当時の言い方でいうならば錬金術と魔術かな?まだ明らかにされていない自然や人間自身の本質に迫るための手段が目的とも言えるね。・・・といってもこれは私の持論だから間違ってたらごめんね。錬金術はどこにでもある金属を金へと変えるための学問で、目的に至るまでにさまざまな技術が産まれ、言語化と体系化されたの。そして今では科学と呼ばれるようになったわ。誰でも使えるようになったからね」
「魔法が科学になったのですか?」
「私にはなんとも言えないなー。少なとも昔は今よりも神や精神、精霊といった目に見えない存在が身近にあって、それらに触れるため近づくための手段として魔法があったと思うの。でも人は目には見えない
魔女狩り・・・という言葉が脳裏に浮かんで首を振って追い出した。同時に私が教室の隅で
「人によっては不気味に思うそれは悪魔や
目に見えないものに近づく技術。その言葉と一緒に人によっては目に見えない事柄を信じることができない。その言葉が深く私の心へと沈み込んでいくのを感じた。
「そうそう。そしてそれを扱う男が魔法使い、女が魔法使いとされたのね」
柚さんが赤らめた頬でグラスをかたむけそう話し始める。
「当時の不安定な社会状況や宗教といったいろんな事柄が複雑に絡み合って、魔女は悪魔と結びつく悪い魔法を使う人として
私は教卓に立つ先生を思い出す。私がどんなに孤独であろうとも、机が傷付けられて教科書も失ったとしても大人である彼は見ることがなかった。心の中から締め出してなかったことにしようとしていた。
だんだんと胸が苦しくなってきて私はゆっくり呼吸をする。
すると隣のタールーが器用につめ先でクラッカーとその上に乗るサーモンのマリネを私に差し出した。
「おひとつどうだいお嬢さん?ここのマリネは美味しいのだ。もちろん玉ねぎは抜いてある。いつかは
まじめに猫の額へ眉を寄せてタールーは悔しそうに口元を歪める。
それは体質だから仕方がないのでは?私はそんな言葉を飲み込んでそのマリネの乗ったクラッカーを受け取り口に運ぶ。酸味の効いた香りの後にサーモンとクラッカー、感触の違うふたつが口の中で異なる甘みを広げていって美味しく、
心が落ち着いた。私を見て嬉しそうに頬を綻ばせて眺めていたミーナさんは再び口を開く。
「魔女は魔法を使える女性ってことになるけど昔はいわゆる理系女子!って感じだったかもね。でもそれは現代の科学が発展するに従って薄れていって、人の文明が発展するに従ってタールーのような生き物たちの姿も見えなくなってしまったの。目に見える事柄ばかりにとらわれると、大切なことほど感じなくなってしまう。それはとっても悲しいことよね」
そうそう。と柚さんは同意し、それでも・・・と言葉を続ける。
「ウチらが教わったんは、この世を支配するのは神と悪魔と
頬を朱色に染めた柚さんは、縦長のコリンズグラスの中で潰れたライムを起用に回した。
「たとえば火の魔法を使うことができて、建物より大きな火球を不思議呪文で生み出せても・・・じゃぁ誰に向かって向けるのって話。愚かな戦争で用いる?だったらそんな火球より重火器の方が威力はあるわな。もちろんそれは必要になる時もあるけど、普通に生きてたら使わへん」
さすがに課長が丸焦げになるのはなぁ。と言って柚さんはクスクスと笑っていた。
でも・・・それなら現代の魔法は科学に代わり、存在しないということではないだろうか?火の魔法はコンロに、水の魔法は水道やダムに、そして風はエアコンだって扇風機だってあるし、土は重機で形を変える。
それにどれほど強大な元素を操れても現代には強大な魔法を向ける相手がいないのだ。やっぱり魔法はなかったんだと思えば思うほど私の心はまたしても暗く沈んでいく。
幼い頃に信じていた魔法なんてないとそう思っていたのに、思っていた魔法がないことに今ではこんなにもがっかりとしている。
魔法で今の自分が変えられる。そんなことを勝手に考えていたのかもしれない。
「ふふーん。そんなにがっかりしない。現世で、琴音ちゃんが知るべき魔法は強大な力ではないの。現世にあるべき魔法はそうではない。科学は目に見える事柄を明らかにするけど、この世には目に見えないものをまた存在するわ。見ててね」
ミーナさんはそういうと大きなコンロに火を付ける。ぼぅと先端に青白い光をまとって炎が灯った。
「魔法は自分の目的に近づく手段なの。相手のことを知って形を象り、そして語りかける手段ということでもあるかな?元素はどんなものでも小さな
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