第23話 花火

「え、、え、、??」


 まず驚いて、何度も目を擦った。


「....」


 首のなくなった八岐大蛇の、魚の鱗のような肌を近くに

あった木の枝で突いてみたが動く気配は感じられない。


「死んでる??」


 理由は分からないが、拍子抜けだった。


「と、とりあえず煙幕を焚こう..」


 それにいつの間にか身体も動くようになっていたため、

僕は団長とゼラニムに自分の位置情報を伝えるための手段を用いた。


 赤色の煙は八岐大蛇と遭遇

 緑色の煙は八岐大蛇の討伐成功


 2種類しかなく覚えるのは簡単だったし、

筒には該当色が塗られていたため使い間違う恐れもない。


 故に必要手順を踏み発煙弾を飛ばしたが、

いかんせん煙の匂いがキツすぎるせいで鼻が曲がりそうになった。


 あまり長居したくない。二人は後どのくらいで来るだろうか?


「ランス」

「あぁ、ゼラニム」


 すると数分後に、背後から彼女の声がした。


「聞いてよ。なんか気付いたら死んで..」

「ランス。好き、好き」


 後ろを振り向くと同時に察知した。


「スライムじゃん!」


 またもや首を切断する羽目になったが、

今度のは一撃で絶命したようで、白い体液をぶちまけたのち

ピクリとも動かなくなった。生命力の強さには個体差があるようだ。


「ランス」

「あぁうるさいな!! またスライムかよ!」


 そう叫び、団長の動きを模倣した剣戟を放った瞬間、

剣はある地点でぴたりと止まり、これ以上動く事はなかった。


「スライムではない。落ち着いて、剣をしまえ」

「はい..」


 代わりにそこにいたのは団長で、剣が止まったのは、

彼女が物凄い握力で剣先を掴んでいたからだった。


「それより、八岐大蛇を倒したというのは本当か?」

「え、いや。倒したってより、自滅に近いかも知れません。

僕はさっき、捕食されそうになったんだけど、恐怖で目を瞑って、

気付いたらこうなっていたんだ」


「ふぅん..」


 団長は八岐大蛇の死骸に近づき、切断面を観察した。


「自滅の線は薄いかな。切断面が焼け焦げている」


 言われてみれば確かに、魚河岸のような匂いはするけど..


「もう、分かったよ。八岐大蛇を倒したのは君さ」

「えぇ!?」


「信じられないようだけど、これは事実さ」


 僅かな観察で団長はそう判断したが、

彼女がここで嘘をつく理由などないはずだ。


「そんな..。伝説の魔獣を僕がですか? すげぇ..。僕って強いんだ..」


「うん、強いよ。

しかし伝説の魔獣というのは過大評価だったのかもしれないな。

私はもっと、魔王”セト”くらいの力量をイメージしていたのだが、

生前の因子を読み解く感じ、これからはそこまで強い波動を感じない」


「つ、強くない??」


「あぁ。500年も前の話だろう。

きっと当時の人が、話を無理に誇張して書いたり、或いは創作だったり、

古い文献には往々にしてそのような俄かには信じられない記述が多く存在する」


「へぇ..」


 僕は昔本で読んだ、海を割るお爺さんの話を思い出した。


「ランス君。八岐大蛇はどんな能力を使ってきた?」

「え、えっと..。関係あるのかな..? 身体が動かなくなりました」


「後は?」

「それだけです」


「うーん..。なら神託は金縛りといった所か?

ノンレム睡眠とレム睡眠の切り替えか、中々強い能力だ」

「そうでしょ。だって全く動けなかったんだもん!」


「だな..。となると君がどのように倒したのかますます

気になる所だが、ひとまず話題を切り替えて良いか?

さっきからランス君の背後にいる、ゼラニムの姿をしたものは何だ?」


「あぁ!!」


 団長に気を取られ意識外だった。僕の周囲を数体の

偽ゼラニムが取り囲み、彼女たちは一様に同じ事を叫ぶのだった。


「ランス..。好き、好き」


 バクンーー


 精神攻撃の呪文なのか、好きと言われるたび心臓が痛みだす。


「好き好きうるさい!! まとめて消えされ!!」


 弧を描くように剣を振り、一度で四体のスライムを倒した。


「団長、聞いて下さいよ。ここスライムの群生地みたいで

しょっちゅうゼラニムに化けて僕の前に現れるんです..。団長?」


「あ..。そ、そうなの? へ、へぇ..」

「何ですか? その変な間は?」


「ううん。ただ単純に、少し意外で驚いただけだ。

まさかランス君がうちのゼラニムの事が好きだなんて」

「へ..??」


「ふふ、スライムの別名は『初恋キラー』って言うんだ。

その人の初恋相手に化けて出てくる少し狡猾なモンスターでね、

大人は引っかからないけど、子供は高い確率で騙されるんだよ」

「????」


「おや、その反応では自分の感情の正体にまだ気付いていない様子だな。

なら説明しようーー」


 と団長が何かを言おうとしたタイミングで、

本物のゼラニムが真正面から現れた。日は既に暮れている。

防護服の一部であるフェイスマスクを外した彼女は小走りに駆け寄ってきた。


 僕はそのままゼラニムに抱きかかえられ、下半身は宙を舞った。


「大丈夫だった!? 怪我とかしてないよね!?」

「うん..。それより降ろしてよ..」


「あ、ごめんね。少し取り乱したみたい..」

「僕もだよ」


「....。本当に、怪我してないよね?」

「うん..」


「そっか。そうだね..。ランスは強い子だね」

「え、あ、ありが、、とう..」


「団長。ランスのお手柄です。今日は盛大に祝いましょう!」

「ふふ、良いな。特上の宴の席を用意しよう。

私含め三人とも未成年だからお酒はまだダメだが、竜族は寿司が名物と聞く」


「寿司!?」

「あぁ!! ランスの生還、そして八岐大蛇の討伐を祝して、

今日は寿司を食べまくるぞ!! 市場に行ってマログ(魚の名前)

をまるまる仕入れて、熟練の寿司職人に来て解体して貰おう!!

宿はこの近辺で老舗の旅館”神仙”に泊まって、温泉に浸かるんだ!!」


 団長は以前も竜族の里に来た事がある為か、

かなりの土地勘があるらしく足取りは軽やかだった。


「ねぇねぇゼラニム。団長、何だかいつになく上機嫌じゃない?」


 鼻歌をしながら、石段を降りてく彼女の背を追い尋ねると、

ゼラニムはため息まじりにこう答えた。


「たまにいるのよ。地元民よりもその土地事情に詳しい

他地域の住民って..。団長は特にここがお気に入りみたいね」

「へぇ、変なの。ところでさっきから行き交う人達って、

みんな人なの? それとも竜族なの? 見た目は人間だけど」


「どうかしら? 瞳孔を見てとしか言いようが無いわね。

竜族の場合、人間と比べて縦に細長いのが特徴よ」

「じゃあ先生みたいな感じか」


「そうそうそんな感じ」


 なるほど、言われた通り見てみると、

竜族と人の割合はそれぞれ順に、おおよそ7対3といったとこか。

観光地化が進んでいるのもあって、インバウンド需要?てのがあるらしい。


「竜族は形態を変えられるの。

だからこうして普段は人の姿を借りているのだけれど、

どこか遠くに移動する時だけは本来の姿に戻るんだ」


「う..。本来の姿は、少しトラウマが蘇ってくる..」

「どんなトラウマ? もしかして襲われでもした?」


「まぁ、大体そんなとこだけど。その後、

僕を助けてくれた妖精族の女の人に、不法入国者として入管に

突き出されるまでが一連の流れでさ。もしあの時裁判所に団長が

いなければ、自分は今頃炭田で強制労働させられていたよ..」


「あはは..。それは確かにトラウマだねー」


「笑い事じゃない!!」


 と叫んだ時だった。遠くの峰からドーンという爆音が鳴り響き、

僕の眼前には大きな流星が上昇したかと思えば、次の瞬間それは分裂し、

無数の光の粒となって花の形を形成し消滅した。


「ターマヤー!!」


 目の前で団長が叫んでいる。

ごちゃついた市街地の空気に充てられたせいか、

自制心が効かなくなっているらしい。


「..。見るの初めて? 花火って言うのよ。

竜族の里発祥の、祭りの風物詩といっても過言では無いわね」


「へぇ..。綺麗だね」


「そうねー」

「....」


「でも..」


 無数の花火が打ち上がる中、そのあまりの音の大きさに、

ポツリと呟いた僕の言葉は一瞬でかき消されてしまった。


「ゼラニムの方が綺麗だ」 とーー


 


 

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