女子高に入ったら何故かモテてしまった私の学園生活

真嶋青

序 愛子火恋は恋を知らない

 私こと愛子 火恋あやし かれんは、本日より高校生になるうら若き15歳の乙女だ。

 中学時代の渾名あだなはアイコ。

 自分事だからあまり気にしたことは無いのだけれど、愛子と書いて『あやし』と読ませることは相当珍しいらしい。

 そんなわけで、苗字の読み方を『あいこ』と間違える人が大半多く、そのままニックネームとして定着したわけだ。

 自分の呼ばれ方にこだわりはないのだけど、隣のクラスに本当の愛子あいこさんが居たものだから、紛らわしくて困ったものだった。

 まあ、そんなことも面白がって、尚更なおさらクラスメイトたちは私をアイコと呼んでいたのだけれど……。

 でも、下の名前で呼ばれるよりは、アイコと呼ばれる方が私としてもありがたかった。

 正直なところ、私は自分のという名前があまり好きじゃないから……。

 いや、好きじゃないというよりも、自分の名前としてしっくりこないと言った方が良いのか……。

 こんなことを言うと、

 

「名前を考えてくれた両親が可哀想だ!」

 

 とか、怒る人も居るかもしれない。

 でも、自分の在り方と、親から求められている娘の理想像とのギャップで嫌気が差してしまうというか……。

 私の想いを明確に言語化して伝えることは難しいが、とにかく、私には私なりの込み入った事情があってそう思っているのだ。


 私の両親は、結婚して20年近く経つ今も非常に仲睦まじい夫婦で、それはもう人目を憚らずイチャコラするような人たちだ。

 なんでも小説やドラマのようなロマンチックな大恋愛の末に結婚したんだとかで、今年で16歳になる娘が居るというのに、未だに新婚気分が継続しているような有様。

 今年も、結婚記念日は仕事を休んで2人で旅行に行くとか言っていた。

 私も入れて家族3人で旅行してくれても良いじゃないかと思うのだけど、娘の私すらも2人の記念日には邪魔者になるらしい。

 そんな両親は、『娘にも自分たちと同じく、燃えるような恋をして幸せになって欲しい』という気持ちを込めて、私に火恋と名付けた。

 そんなわけで、私のフルネームは愛子 火恋あやし かれん

 字面だけ見れば、姓も名も、愛だの恋に縁がありそうな名前だと自分でも思う。


 ――しかし、私は生まれてこの方、恋愛というものをしたことがない。


 もっと言うなら、人を好きになったことがない。

 友人関係を構築して、『人として好き』くらいの感情を抱くことはある。

 でも、幼い頃から両親に聞かされていた『運命の出会いを確信する瞬間』みたいなものを経験したことがない。

 ぶっちゃけ、求めてもいないのだけど……。

 そもそも、私には性格的に恋愛が向ていると思えないのだ。

 夫婦というより、恋人関係のような仲睦なかむつまじい両親。

 身近に居るあの2人を見ているからこそそう思う。

 いつも相手を気にかけ、愛する人を思って日々を過ごす。

 好きな人に尽く時間こそを至福としているような生き方。

 とてもではないが、私はあんな風になれそうにない。

 昔から私は、誰かと居るよりも1人で居る時間の方が好きだった。

 人並みに友人は作るけど、学外で誰かと一緒に遊ぶようなことは少ない。

 一人で本を読んだり映画を見る方が気楽で好きだし、自分のパーソナルスペースに人が入ることは根本的に好きじゃない。

 手を繋いだり、ハグをしたり、キスなんて以てのほかだ。

 私は、自分がそんなことをしているシーンを微塵も想像できない。

 だけど、両親はこんな私が誰かと恋愛関係になることを待ち望んでいるらしい。


「火恋ちゃんももう高校生になるのねぇ。そろそろ、恋人を家に連れてくるようになる年頃かしら」

「そうだね。いやぁ、楽しみなような怖いような……。やっぱり、父親としては可愛い娘を知らない男に取られるって言うのは抵抗があるものだねぇ」

「ふふっ、追い返したりしたらダメよ。私たちは、火恋ちゃんの恋を応援してあげなくちゃ!」


 朝食を取りながら、両親は好き勝手なことを言っている。

 だが、高校生になったからと言って、私に恋人が出来ることなんて事はきっとない。

 なにせ――。

 

「いやいや、私が入学するのだから。恋人とかできないよ……」

「火恋にも、僕たちみたいに幸せになって欲しいなぁ。まあ、僕と君ほど幸せな家庭を築くのは中々難しいことかもしれないけど……。何せ、僕たちは世界一のおしどり夫婦だからね!」

「アナタ……ちゅき!」

「僕も君が大ちゅきだよー!」

「聞いてないし……」


 私は、絶対にこんな風にはなれない。

 というか、小っ恥ずかしいからなりたくない。


「じゃあ、私、もう学校行くから。あとは2人でごゆっくり」

「「いってらっしゃ~い」」


 朝っぱらからウチの両親は何をしているんだか。

 そんなこと思いながら、私は本日より入学する私立奥美女学院へ登校するのだった。


 ――この時の私は、わずか数時間後に、二人のクラスメイトから告白を受けるだなんて……そんなこと微塵みじんも思ってもいなかった。

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