「やっぱりオタクは無理かも」と俺を捨てた元カノが今更こちらをチラチラ見てくるがもう遅い。今は俺を全肯定してくれる優しいギャルが彼女なので。
やこう
プロローグ 『振られたらギャルと付き合うことになりました』
俺、
別に自分がオタクであることを隠してきたわけじゃない。
むしろ、好きなものを好きと言えるのは悪くないって思ってる。
時には少し引かれることがあっても、理解してくれる人もいたからだ。
──でも昨日、その考えが甘かったと痛感させられた。
「……オタクはやっぱり無理。もう別れよう」
付き合っていた彼女に、そうはっきり言われた。
言われた瞬間、頭が真っ白になった。
彼女とは同じ中学で、付き合い始めた。
お互いが初恋だったので、運命だと俺は思い込んでいた。実際二人でそんな話もしたりしていた。
彼女とは違う高校に進むことになったもののそれなりに仲良くやれてる、そう思っていた。
俺の何がいけなかったのか、彼女の言葉がずっと頭の中でループして、答えなんて出ないまま放課後を迎えてしまった。
オタクであることがいけなかったのか、いやそんなことは無い。
そう自分に言い聞かせるが理由は『俺がオタクだったから』でしかなかった。
気づけば、教室には俺しか残っていなかった。
他のクラスメイトたちはとっくに帰宅している時間だ。いや、今の俺にとっては、帰る気力なんてどこにもない。
窓の外をぼんやり眺めていると、教室の扉がガラッと音を立てて開いた。
振り返ると、そこには同じクラスのギャル、
「──桜庭くん、まだいたんだ?」
水島は俺に向かって気軽に声をかけてきた。
いつも明るくて、誰にでも優しい、まさにクラスのムードメーカーみたいな子だ。
スカートの丈はいつも校則ギリギリで髪も少し気持ち茶色に染まっている気がする。そして明るくて軽い口調。
いわゆる彼女はギャルだ。
正直、俺なんかが話しかけられるようなタイプの人間じゃないって思ってた。
「あ、ああ……ちょっと、帰る気がしなくてさ」
情けない声が口から出た。まさか、こんなタイミングで話しかけられるなんて。
すると、水島は俺の顔をじっと見つめ、眉をひそめた。
「なんか、めっちゃ落ち込んでない?」
その言葉が、刺さった。
そうだ。俺は、こんなにも落ち込んでいる。それを口に出して言われたことで、今の自分の惨めさがさらに胸に重くのしかかってくる。
「うーん、よくわかんないけど、話したくなったら話していいよ? 聞いてあげるからさ」
水島は俺の隣の席に座ると、俺を見て微笑んだ。
その笑顔が、どこか優しくて、今まで感じたことのない安心感を与えてくれた。
絶対誰にも話したくない、そう思っていたのに気づけば彼女に俺の失恋話を打ち明けていた。
俺の話を聞きながら、水島は「ふーん」「そっかぁ」と、相槌を打ちながら真剣に耳を傾けてくれている。
「オタクだからって、フラれるのって……なんか理不尽だよな」
俺が自嘲気味にぽつりと言うと、水島は首を傾げ、きっぱりとした声で言った。
「そんなの、気にすることないって! てか、桜庭くんの趣味を理解できない子の方がもったいないよ」
その一言に、胸がじんとした。
誰かにこう言ってもらえるなんて思ってもみなかった。まさかギャルの水島から、こんな言葉をもらえるとは。
ギャルって言ったら何となく『オタクキモ』とでも言ってきそうなイメージではあったから。
しかし今俺の目の前にいるギャル、水島紗良はそんなことは無かった。
「……ありがとう」
素直にそう言葉が出た。
「気にしない気にしない!」
そう言って水島は軽く笑って、俺の肩を叩いた。
そして沈黙が流れる。
彼女の顔を見るとなにか考えている様子だった。
俺の顔をじっと見つめながら、彼女が何か考え事をしている。
「……ねえ、桜庭くんさ」
そしてふいに水島が、少し真面目な表情になって口を開いた。
「──そんな子のことなんか、忘れちゃってさ、ウチら付き合っちゃおうか」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭は真っ白になった。
何を言っているんだろう、この子は?
「…………え?」
間抜けな声が出てしまったが、それも無理はない。だって、今、水島は俺に「付き合おう」と言ったのだから。
「今の話聞いてて、なんか放っておけない気がしたんだよね。オタクだからってフラれた桜庭くんがかわいそうっていうか……ね?」
まるで「そういうものだよ」と言わんばかりの軽い調子で、さらりとそう言ってのける水島。
哀れんで可哀想だからウチが付き合って上げる、と言っているようなものだこんなのは。
しかしそう思いながらも彼女の様子を見るに純粋な彼女なりの優しさにしか感じられなかった。
「あと、「オタク」っていやな人もいるのかもしれないけどウチは好きな物に真っ直ぐになれるそんな桜庭くん、素敵だしかっこいいと思う」
「かっこいい」そんな彼女の言葉が心に響いてくる。
今の俺にとって、紗良の言葉はどこか温かくて、救われるような気がした。
そしてそんな優しさに俺は縋りたい、そう思ってしまった。
不思議だ。ほとんど関わりがなかったはずなのに俺は彼女の優しさに縋りたいと思ってしまっている。
「本当に……いいの?」
思わず口をついて出た言葉に、紗良は笑顔で頷いた。
「もちろん。大丈夫、辛いことがあるんだったらウチに全部吐き出していいから」
そしてその笑顔に、俺はなんだか力が抜けてしまった。かっこいい、そして優しい……。
彼女が真剣に言ってくれていることが伝わってくる。こんな時にそんなことを言われたら、頼りたくもなる。
「……じゃあ……よろしく」
「うん!よろしくね!」
こうして、俺と水島の奇妙な関係が始まった。
勢いに流されたのも確かだけど、俺の心はほんの少し、軽くなったように思う。
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