哀れな狂人と言われるラスボスに転生した僕~天才子役と言われた僕がラスボスキャラを同じように演じたらシナリオがブッ飛びました~

金 充

第1章:運命のプレリュード

第1話:転生とはつまり死んだってコト。

倒壊した民家

荒れ果てた路道

打ち倒された、人がそこにいた。

周囲にはボロボロの人影。


朽ち果てた世界の真ん中で、一人の反逆者が死に絶えようとしていた。


「ああ、そうだ、それいい、アレクセイ。お前は・・・それでいい」

「何故だ・・・・何故なんだ!ナイトヘーレ!!君はどうして人を癒し、導く司教でありながらそんな・・・・虐殺を」


身体の下半分はとうになく、塵と消えていく。

心臓に刺さった刃すら、痛みは最早ない。

改造により不老不死となったが、なるほど・・・勇者の剣は不死をも殺すと聞いたが、ああ、そういうことなのだろう。

伝説をこの身で味わうとは、全く以て光栄だ。


「貴ぶべき物等何処にも無く、人とは最早どうしようも無く救い難いからだ、最早滅びねばならぬ、滅ぼさねばならぬ」


救いを求めるべき神ですら、あの様なのだから

最早この世は、そして人は、どうしようもなく救い難い。


「だが―――――――――ああ、アレクセイ、アミティエ、ハスティー、ジャック、ナビ・・・・貴様等のような人間がいるのなら、それを信じられるのならば、それもいいだろう」


「ナイトヘーレ・・・・」


「そんな顔をするな、貴様は厄災を討ったのだ。・・・・生ける嵐を、悪意の化物を滅ぼしたのだ。

勇者達よ、お前達の未来。決して明るくないだろう。何故ならこれをもってなお、その悪意はきっと何も変わらない――――――そして、人の悪意を余りにもお前達は知らない。

だが、だが、どうか・・・お前達は」


「ナイトヘーレさん!」


駆け寄ってきたアミティエ。

ヒトだった俺の初恋の少女。


「あの時私が力が有れば」

「言うな


幼なじみの時の呼び方をされ息を飲むアミティエ。

そうだ、それでいい。

お前は、それでいいのだ。


「時計は戻らん、それに俺はこの道を後悔してはないのだから・・・」


泣き崩れるアミティエ。

周りの連中も戸惑いが強い。


「ああ・・・声が聞こえる・・・駄目ですよ、寝る前に、お祈りを」




人を信じ、世界を信じ、きっと裏切られてもなお、彼等は進むのだろう。

この俺と違い、折れることのなく。

ああ、女神アーリアよ。

もし、真におられるのならば。

この――――――――――――化物を殺した優しい英雄達に

祝福を。











「ぅぅぅぅぅ・・・ずびぃ!」


涙が止め処なく鼻をかむ僕。

モニターにはゲームが映っている。

モニターではラスボスであるナイトヘーレ・ファフニールが死に絶えていて勇者達が苦悶の表情を浮かべていた。

そうして流れ始めるエンディングテーマ。


「やっぱり“ブレブレ“はいいよ・・・」


ブレブレ、《ブレイド・ブレイブ》というこのゲームは元々エロゲーとして作られたPCゲーのシミュレーションRPGだった。

ところが完成度とシナリオが幸を奏しコミカライズ、アニメ化を経てコンシューマー化し、もはや続編はエロ無しコンシューマースタートでと言うハイパーな売れ方をしていた。

そして遂には今やっていたラスボスであるナイトヘーレサイドをはじめ、さまざまなキャラクターの視点をノベルゲームで加えたアペンドディスク入りの通称”完全版”《ブレイド・ブレイブ-遍く夜のオラトリオ・カデンツァ-》が発売されていた。

エロゲーのほうは”本家”と呼ばれていた


このアペンドの目玉は本編でもあまり裏事情が語られなかったナイトヘーレのストーリーが今回判明したことで、ゲーム配信者からは”辺境伯という立場の跡継ぎからのこの転落劇はライターがドSどころか尊厳剥奪にかかっているレベル。この味わいは最早往年の週間少年漫画どころか90年代のシューティングゲームのストーリー”とまで言わしめて、ブレブレプレイヤーからは本好きの少年からのバトルマニアな性格への転換は悲劇による性格破綻によるものでは?

と言われており、作中でも真相を知っている者からは”哀れな狂人”と呼ばれていた。


「あー・・・やっぱり僕、ナイトヘーレが好きだなぁ」


ラスボス、ナイトヘーレ・ファフニールは表は無愛想で優しい優秀な司教、裏では人の命を狩り魔族を生み出して魔王として君臨していた。

そして最後は都市の生命を生贄に邪神を生み出し融合し世界を滅ぼそうとしていた。

そして、勇者に敗れたのだ。

悪逆非道を重ねつつ、それを止めて欲しいとも。

その希望を、見事に達成したのだ。だからこそその死の間際、彼は笑顔だったのだ。


その芯のある生き方、独特かつ化物である事を”演じる為に”役劇的で大仰な言動は個人として見習うところがある。

というか普通にこの言い回しが好きだ。同じ言葉を重ねるとことか。


「早く本家もやりたいなぁ・・・あと四年かぁ・・・あ、そろそろ学校行かなきゃ」


時計を見て徹夜のクマをそのままに家を出る。

ヤバい眠い。

今日のおにも影響が出るし流石にまずい。


欠伸をしながら渡る信号。

劈くクラクション。


「え?」


それが僕、皇 夜空の最期の言葉だった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・」


柔らかで暖かな気持ち。

ふと目を覚ます。

眼鏡を探そうとし、ふと視界がまともだと認識する。


「寝落ちしてたのか・・・ふぁ・・・・あれ?」


いやいやトラックは!?体全然痛くないけど?!・・・ベッドもめちゃくちゃデカいし。

かなり豪華な部屋だ。あれかな?会社のお偉いさんがVIPルームの病院にしたとか?

にしては周りに医療器具がないな。

そんな中響くノック音。


「はい、どうぞ」

「失礼いたします」


うわ、めっちゃ執事って感じ。

かっこいい老紳士だ。


「おはようございます、坊ちゃま。御加減は如何でしょう」

「何のこと?」

「ナイトヘーレ坊ちゃま?」

「え?」


ぽかんとした時間。

次の瞬間礼をしさがる執事(仮)


「ミリア!ミリア!」

「はい、いかがなさいましたか」

「急ぎアナキン医師を呼びなさい、ナイトヘーレ様に異変があると」

「・・・は、はい・・・!」


ドアの反対で繰り広げられるその話。

ナイトヘーレって、いやいや。


ベッドから降り立ち正面を、窓を見る。

写るのは穏やか目つきの少年。

闇夜のような黒い髪、月のような金色の瞳。

ナイトヘーレ・ファフニールがそこにいた。


「・・・・・・・・・え?」


声が、それ以上出なかった。


僕は・・・俺は、この時、思い出した。

此処が、ゲームの世界だったという事を。

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哀れな狂人と言われるラスボスに転生した僕~天才子役と言われた僕がラスボスキャラを同じように演じたらシナリオがブッ飛びました~ 金 充 @kanemituru

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