第3話
婚約破棄されて二日後の夜。
「ふうん、
私はあの憎き二人を奈落の底に突き落とす『第二の道具』を得るのに必要な品――昼間に書かせた誓約書を片手に、とある作業に取り組んでいた。
「お嬢様。夜更かしはお体に
侍女の忠告を聞いて、やっと私は窓の向こう側、夜空に綺麗に輝く月の姿を認識する。作業を始めたのが日没前だったから、それから軽く数時間は同じ単語を見ていたことになるみたい。
「気遣ってくれてありがと」
「いえ、お嬢様に倒れられては困るので、その」
「ええ、そうね。ごめんなさい」
この侍女は、以前にパドアの領主ピシストラーテの横暴――女の
「でもね、
「ですが、お嬢様。体調を崩されないでくださいね。婚約破棄のせいで、御両親は心を痛められているのですから」
「分かってるって。ところで、昼間に言いつけたことはやってくれた?」
事前に侍女に与えていた極秘任務の進捗を尋ねる。「少々お待ちを」と返答があってから数十秒もしないうちに、この子は私が待ち望んでいたものを手に持って現れた。
「こちらがリヴォリアナ特産の世界最高品質の絹製ドレス。服飾ギルドの親方から受け取ってまいりました。そして、こちらは印章付きの指輪。印章にはあの人の名を、お嬢様がお見せくださった署名入りの書類にある通りに彫るよう金細工職人に頼んで彫らせました。ご確認を」
侍女から手渡された二つの物品、あの二人を地獄に突き落とす『第三の道具』も私は念入りに調べ上げる。うん、問題はないみたい。
「いい働きをしてくれたわね。ありがとう」
「いえいえ」
「でも、私の従者ってバレないようにちゃんと変装して訪れた?」
「もちろんです、お嬢様。コッドピースまで装着して行きましたから、相手は
「そう、ならいいんだけど」
「ところで、お嬢様」
「なに?」
「コッドピースというものは、なんかこう……落ち着きませんね」
「まあ、私たちにアレは付いてないからね」
一階にある私室で、私と侍女は爆笑してしまう。なんとも下品な話だ、と思ったから。
その後、品のない会話を終えてから数十分が経った頃に、私は羽ペンを動かす手を止めて一つ深呼吸。そして、
「終わったー……」
準備万端整ったことに安堵した。すると私の口からフアァー、と大きな欠伸が。
「お嬢様、もうお休みください」
「ええ、そうするわ。今日は本当にありがと。後でちゃんとお礼はするね」
私はここで深夜の作業を終わらせ、私室のベッドに身を投げ出す。
(あとはパドアの領主相手に起こされる戦争を上手く利用するだけ。パパの話だと開戦は明日って言ってたから、間に合ってよかった)
瞼が重くなっていくのを感じる。
それでも私の目には消えないものがあった。
さっきまで何度も書いて確認した
私が愛した男を寝取った女の名前を、この一日で何度紙に記したことだろう。
でも、それももう終わり。
あとは明日を待つだけ。
見てなさいよ。二人とも。
純愛をぶち壊した代償、しっかりと払ってもらうから!
そんなことを考えてるうちに、私は深い眠りに落ちていった……。
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