第16話 救済とは
バスはゴーストタウンを走り抜け、薬科大に到着した。
「皆様、共産党青年団です。政府機能不全によりご不便をおかけして申し訳ありません。薬科大の皆様のご尽力も痛み入ります。」
街宣しながら校門前に乗り付けたら、3人の白衣姿の男が建物から出てきた。現在、20~30人を収容していること、抗生物質などはそれなりにあるが、食料がほとんどないこと、ほとんどが放射線障害の影響が出ていることを伝えられた。彼らはまだ20前後の学生である。未曽有の危機に希望を捨てずに頑張っており、俺は思わず涙した。
「食料は後続のバスに積んである。うちの団員が配給するから安心してほしい。それより君らは大丈夫なのか。」
海削は彼らに尋ねた。
「私たちは何とか熱波からも逃れられましたし、昨日市内で降った黒い雨も運がいいことにここら辺には届きませんでした。ですが、被爆者の看病をしていましたので私たちも間接被ばくをしているかもしれません。」
「よく頑張ってくれた。後は我々に任せてください。重傷者からバスに乗せて都心の病院に移します。とりあえず君たちは食事でもとって休んでください。」
海削達は手際よく配給準備を整え、比較的軽症者に食事を提供した。同時並行で重傷者をバスに搬入した。
「では、まず重傷者の方から都内の病院に搬送します。ご協力ありがとうございました。」
俺は重傷者が呻いているバスを運転し、長沼公園の林に入った。そして重傷者たちにバニシングを掛けた。当然、異世界で魔改造するためである。ツアレには段取りを話しておいた。
そのピストン輸送を繰り返し、軽傷者も含めて全員異世界に送った。薬科大生に怪しまれないようにバス2台は数名の共産党青年団を乗せて帰した。最後に残った薬科大生に海削が訊ねた。
「君たちはどうする?我々と来ますか?」
「これから皆さんはどうするんですか?」
「我々はまだ生存者を探して北東に向かおうと思っています。できる限りの救済をしたいので。」
「我々も手伝っていいですか?薬剤の面で多少なりとも役に立てると思います。」
なんて心の綺麗な若者たちだろうか。化外にして洗脳するのは惜しすぎる。が、サーチングしてみたところ既に致死量の放射線を浴びているようだ。被災者の持ち込んだ食べ物などで内部被曝したのかもしれない。もって数週間だろうか。何とか異世界に連れ帰ることはできないだろうか・・
「ぼっ、ぼっ、僕らは共産青年団♪」
爆音を出しながら、バスは多摩川の西側を遡上する形で生存者を探した。壊れかけの家でどこにも行けなくなっていた独居老人を拾ったり、親とはぐれた子供達を保護したり、木造住宅に潰されて虫の息だった人を救出したりした。バスがほぼ満員になった頃には、薬学生達も放射線障害が出始め、立てなくなっていた。頃合いと見て、俺達は行きと同じ経路で圏央道を使って帰路についた。帰りがてらバスの中の救出した人々にバニシングをかけ、異世界転送した。板橋に着く頃にはバスの中には共産党青年団5名と俺、意識が混濁した薬学生3人になっていた。海削は新井と金子の所に今回の報告に行かせた。他の青年団に彼ら3人を背負わせ、ワームホールを抜けた。生身の人間をワームホールに通過させるのは賭けだった。できれば頭がパッパラパーにはなってもらいたくなかった。だが、ワームホールを抜けてもまだ彼らは意識不明状態であった。このまま魔王城に連れていくかどうか迷ったが、3人は魔神に預けることにした。意識が戻った時に魔王城だとショッキングすぎるだろう。できれば人間界の復興に寄与してもらいたい。
3人を連れてバニシングで飛んだ元カケル王国はだいぶ復興しており、人間もエルフとの混血と見られる種族が増えていた。元ルカの尽力のおかげだな。3人は宿屋のベッドに寝かせ、魔神との交渉に向かった。
「魔神様、突然すみません。」
「君か。エルフとの交渉はありがとうね。おかげで人口もだいぶ回復してきたよ。もう少し復興できたら僕の肩の荷もおりる。」
「うまくいって良かったです。今回は別件でお願いがあって来たのです。」
「別件?」
「実は今回初めて、向こうの世界から生身の人間をワームホールを使って連れて来てしまいました。もともと意識不明状態で、こちらに連れてきても意識不明のままなのですが、薬学に詳しく、心の清らかな若者たちです。その子たちを魔神様に預けたい。」
「復興の役にたちそうだね。歓迎するよ。だが、意識が戻った時に化外になっていたらどうする?」
「その時は取りに伺います。ご迷惑はかけません。」
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