7話:主人公:お茶会と私の好き

 入学してから初めて迎えた週末。昼間から学園の中庭で、リリア様とウルスさんと共にお茶会を楽しんでいた。

 すべてが穏やかで、心地よいひととき。授業がなく、ただひたすらリラックスできる時間が持てる貴重な日。


 私とリリア様が同じテーブルで、ウルスさんは隣のテーブル。

 メイドだから別のテーブルというわけではなく、純粋にテーブルいっぱいのお菓子を並べて食べたいからウルスさん一人でテーブルを使用している。私とリリア様のテーブルには常識的な範囲の量のお菓子を並べられている。お菓子はどれも料理上手なウルスさんのお手製で、どんな味がするのか期待が高まる。


 ウルスさんが作ったフルーツたっぷりのケーキは華やかな見た目で、色とりどりのフルーツが鮮やかにデコレーションされている。ストロベリーの赤、パイナップルの輝く黄、キウイの鮮やかな緑が、食欲を刺激する。

 私はそっとフォークを手に取り、ケーキの一片を切り取る。一口食べると、口の中に広がる甘酸っぱいフルーツの風味に心が躍る。フルーツの鮮やかな色合いが目にも楽しく、見た目からして食欲をそそる。まずはジューシーなイチゴが、甘さと酸っぱさの絶妙なバランスを引き出し、次にパイナップルの爽やかな風味がアクセントを加えてくる。その後に感じるのは、キウイの口当たりとクリームのまろやかさがフルーツの酸味を優しく包み込んでいること。ケーキのスポンジはふんわりとした口当たりで、フルーツとクリームが一体となって、まるで口の中でハーモニーを奏でているみたい。食べるたびに、幸せな気持ちが広がっていく。このケーキは、まさに至福のひとときそのもの。


「リエルは卒業したらどうするの?」

「王都にある魔法院で働く予定です。そこで魔石を作成したり研究のお手伝いですね。そのために魔術協会から学園に入れられたので」


 答えながら、心の中では自分の将来に対する期待と不安が交錯している。


「そう。光属性のリエルならどちらでも重宝されるでしょうね」


 魔石は魔道具を動かすために欠かせないもので、特に光属性の魔石は貴重だ。光属性の私が魔法院で研究することで、将来的に多くの人々の生活に役立つと考えるとワクワクする。その一方で、貴重な属性持ちとしてのプレッシャーも感じてしまう。


「リリア様は卒業後はどうするんですか? やっぱり領地に戻って統治でしょうか」

「領地には戻らないわ。結婚した姉様が新たな領主になるし、子供も生まれたから予備の私が戻る必要もないしね」

「予備?」


 リリア様は自分の家族との関係について話してくれた。

 長女のお姉さんが亡くなった場合、代わりに領主を引き継ぐためだけの存在だったこと。家族としてみんなと過ごすことは一度もなかったこと。お姉さんの子供が生まれて実家にいる理由も消えたこと。

 寂しさが垣間見える表情に、私の心が痛む。


「なんだか悲しい話です」


 貴族の人はみんな恵まれているんだと平民の私は漠然と考えていた。でも、そんなことはなくて結局は家庭によるものでしかないと当たり前のことに気づく。孤児院で暮らす私たちを可哀そうな存在だとか、不幸で汚い人間だと決めつけてきた人間と同じだったんだと自分を恥じた。


「そうかもね。だけど、お陰で私がやりたいように行動できたから今は良かったと思うわ。あと卒業後の計画というか……やりたいことは探し中よ」


 もしも私がリリア様の立場なら、同じように強くいれただろうか。私のような人間に優しく声をかけたりできただろうか。きっとムリ。できっこない。

 リリア様だからこそ、素敵な人になれたんだ。リリア様の存在は本当に尊いものだと思う。


「早く見つかるといいですね。私にできることがあればお手伝いします」

「フフッ、ありがとう」


 リリア様の微笑みで心がポカポカしている状態でケーキを食べる。視覚と味覚の相乗効果で贅沢な甘味が全身を駆け巡る。


「リリア様、ウルスさんのケーキは本当に最高ですね。いくらでも食べれちゃいそうです」

「ウルスの腕前にはいつも感心させられるわ。ウルスの料理はどんなに疲れていても心が癒されるの」


 リリア様の言葉を受けてウルスさんは照れは見せつつも、得意げにニヤリと笑ってからお菓子を口に放り込んでいた。


「リエル、あなたの好きなお菓子は何かしら?」


 その問いに、私は一瞬言葉を失った。孤児院で育った私は、お菓子を食べる機会がほとんどなかった。唯一覚えているのは、院長がみんなのために作ってくれたクッキーくらいだ。私が成長してからは、院長の代わりに私がお菓子を作るようになったけど同じようにクッキーしか作れない。だから、お菓子の種類の中で、どれが好きでどれが嫌いかなんて言えるほど食べた記憶がなかった。

 孤児院の環境を不幸に感じたことはない。むしろ幸せな生活だった。

 でも、そのことで貧しくて可哀そうだと思われるのは嫌だなぁと思いつつも、私は正直に答えることにした。


「お菓子を食べる機会があまりなくて……どれが好きでどれが嫌いか、よくわからないんです」

「それなら私と一緒に色んなお菓子を食べて、リエルの好きなお菓子を見つけましょう」


 リリア様は優しく微笑みながら、私の過去を悪く取ることもなく明るい未来に繋がる提案をしてくれた。リリア様の温もりが私の心に染み渡り、リリア様と一緒にいることがどれほど幸せなことかを改めて実感する。


「それは楽しそうですね。ぜひ、リリア様といろいろな種類のお菓子を試してみたいです」


 お菓子の話をしながらも、私の心の中では別の思いが渦巻いていた。


 お菓子とは別に、私の一番の好きはあなたです、リリア様……。


 その気持ちを伝えることはできなくても、リリア様と一緒に過ごす時間は私にとってかけがえのない大切なもの。これからもリリア様と一緒にお茶会を楽しみながら私の好きを新しく見つけていくことができる。そんな未来が待っていることに、私は胸を躍らせながらお茶会を楽しんだ。



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【作品について、今更の後書き】

悪役令嬢モノって作品数はあるけど…悪役令嬢と主人公のガールズラブがサブではなくメインになっているの少ないなぁ。数話に一回ではなく毎回視点が変わる形式の読みたいのに無いなぁ……じゃあ書くしかないかぁ

という流れで初めてオリジナル小説の執筆に手を出しました。


なので、流行りの色には乗ってない作品だろうなって感覚はあります。流行から外れたこの作品の需要も薄くてあんまり読まれない想定もしていました。ですが、その想定以上の方に見てもらえて嬉しいです。

雑に言うと「思ったより同好の士いるな…」感。

改めて、今後ともよろしくお願いいたします。


よければ、♡応援や☆レビュー評価などもよろしくお願いします。作者の糧になります。


次回、ようやく攻略キャラクターが出ます

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