第40話 傷跡の先に

 1941年、アメリカ。


 琴は、戦後復興のための新たな挑戦に取り組む中、思いもよらぬ出来事に直面する。ある日、謎の研究者から一通の手紙が届く。その内容は、タイムスリップ技術を使い、過去の重要な技術を手に入れるというものであった。琴は最初、半信半疑だったが、手紙に記された「カタパルトパージ」という単語に目を奪われる。これは、戦争の進行を左右する重要な兵器に関連する技術だった。


 琴がこの手紙を受け取ったのは、偶然ではなかった。彼女のかつての科学者であり、戦局を変えるタイムスリップ計画を立案した松本雄之助が、この計画をひそかに進めていたのだ。松本は、戦局を有利に進めるために、アメリカの1941年にタイムスリップし、まだ実戦で使用されていない技術を手に入れようとしていた。琴はその計画に乗ることを決意する。彼女には、篠原の死を乗り越え、新たな使命を果たす覚悟があった。


 タイムスリップの瞬間、琴は強烈な引力を感じながら、1941年のアメリカへと飛ばされる。アメリカは第二次世界大戦の直前であり、すでに戦争の影が忍び寄っていた。最初に着地したのは、アメリカ西海岸の軍事基地だった。琴は、松本と合流することを誓い、その基地内で情報を収集することに決めた。


 カタパルトパージは、航空機の発艦装置の一種で、当時のアメリカ海軍が開発を進めていたものだった。しかし、技術的な問題や資源の限界から、まだ完全な実戦投入には至っていなかった。琴と松本は、この技術を手に入れることで、戦局を変える大きな力を手に入れられると信じていた。


 基地内での調査が進む中、琴はある兵器開発に関わる研究者と接触する。彼は、カタパルトパージの改良版を開発しており、戦争における優位性をもたらすと確信していた。琴はその研究者と協力し、技術の詳細を学びながら、松本と共にその製造法を盗み出す計画を練る。


 だが、アメリカの軍部は厳重に警戒しており、琴の行動が次第に怪しまれるようになる。琴はしばらくその場に潜伏し、巧妙に情報を集めながらも、警戒心を解くことなく計画を進める。松本は、このタイムスリップを通じて、戦争の未来を変えるための最終的な技術を手に入れることを誓っていたが、琴は次第にその道を辿ることに対する不安を抱き始める。


 1941年のアメリカでの生活は、琴にとっても新しい世界であり、彼女はその異国の地で、以前には感じなかった孤独を味わう。しかし、篠原の言葉「君の未来は君の手の中にある」を胸に、琴は自分の使命を全うするために、時空を超えて戦う決意を固めるのだった。


 だが、松本の計画は次第に予期しない方向に進み、琴はその選択が最終的に戦争にどんな影響を与えるのか、ますます疑念を抱くようになる。彼女がアメリカに来た理由は「戦局を変える」ことだったが、その方法が本当に正しいのか、彼女自身にとっても答えが出ないままだった。


 そして、アメリカでの計画が急速に進展していく中で、琴は再び自らの戦いの意味を問い直すことになる。


 琴が1941年のアメリカでの計画に疑念を抱き始めたその頃、突然、彼女の体が再び強烈な引力を感じて引き寄せられる。時空を超える力が再び働き、彼女は何の前触れもなく、幕末の日本へと戻される。目を開けた瞬間、琴は再び明治の始まりを告げる時代に立っていた。目の前には、武市瑞山(たけいち ずいざん)の姿があった。


瑞山は、近藤勇らと並ぶ志士として、幕府を倒すべく奔走していた。彼の周囲には戦いと裏切りの臭いが漂い、琴は彼との最終決戦に臨む運命に再び立たされていることをすぐに理解する。


その時、琴の心に浮かぶのは、篠原との日々、そして松本雄之助が目指していた未来だ。彼女は、かつての仲間たちとの再会を果たし、戦争の未来を変えるために立ち向かうための力を集めようとしていたが、時空を超えた今、琴は自分の使命が何であったのかを再確認せざるを得なくなった。


幕末の戦場へ


幕末の日本、特に四国の一角に立っていた琴は、土佐藩の中で密かに集まる志士たちの会議に参加していた。その席に、武市瑞山が現れ、長州藩をはじめとする反幕府勢力の進軍が迫っているという情報を持ち込む。瑞山の顔には、戦に臨む覚悟とともに不安の色も見え隠れしていた。


「時代はもうすぐ変わる。我々が動かなければ、これまでの努力がすべて無駄になる。」瑞山の言葉に、琴は深く頷く。


だが、その心の奥底で、彼女は確信を持てないでいた。未来のことを知る彼女には、この戦いがどんな結果を生むのか、そしてその結果がどれほど多くの命を奪うことになるのかが見えていた。しかし、今の自分には、どうしてもその流れを止める方法が見当たらなかった。


决戦の時


武市瑞山が率いる新政府軍の決戦の場は、土佐藩の本拠地近くの戦場であった。琴は、そこに集まる志士たちの心意気を感じつつも、戦いが終わった後に待ち受ける悲劇を避けられないのではないかという恐れを抱えていた。


彼女の目の前に立つ武市瑞山は、かつての仲間であり、同時に彼女にとって最も強大な敵でもある存在だった。瑞山は琴に言葉をかける。


「琴、君の力を借りる時が来たようだ。君が持っている未来の知識を、我々のために使ってくれ。幕府を倒し、新しい時代を切り開くためには、君の力が必要だ。」


だが琴は冷静に答える。「瑞山、私はあなたのように単純には戦えません。あなたが望んでいる未来が本当に正しいのか、私にはもう分からない。」


その瞬間、琴の心に一つの答えが浮かんだ。彼女がこの時代に戻ったのは、ただ戦局を変えるためではない。彼女には、この時代で何を守るべきなのか、何を選ぶべきなのかを決断する責任があるのだ。


最終決戦


戦いの火ぶたが切られると、両軍は激しく衝突し、音を立てて血が流れ始めた。琴は、戦場の中で冷静に動きながらも、自分の決断を下す瞬間が近づいていることを感じ取っていた。彼女は一度、瑞山に接近する。


「瑞山、あなたが信じる未来が本当に正しいものなら、私はそれに従う。」琴は冷徹に言い放つが、その目には深い葛藤が見て取れた。「でも、私にはあなたのために命を捧げるわけにはいかない。」


戦いが激化する中、琴は最終的に瑞山を直視する。彼女の心にあるのは、彼の信念ではなく、彼を超えて次の時代へと進むための覚悟だ。彼女は瑞山に決定的な一撃を与えることを決意する。


琴の手に握られた刀は、過去と未来、そしてその全てを象徴するような重みを感じさせるものだった。瑞山と琴の最後の戦いは、どこか宿命的なものを感じさせ、周囲の者たちの心にも深く刻まれることとなった。


戦後の覚悟


瑞山を討ち、幕府軍を打ち破った後、琴は再びその手に力を込める。戦争を超え、無数の命を背負いながら、彼女は新たな未来に向けて歩み出す。しかしその背中には、どこかまだ決して癒されることのない傷が刻まれていた。


篠原の死、そして武市瑞山との戦いを経て、琴はただ一つのことを確信する。戦争の本質は人々の信念のぶつかり合いだが、その中で失われるものは、もはや数えきれないほど多い。しかし、彼女はその過去の傷を背負いながら、次に進むことを決意した。


未来は彼女の手の中にある。その手で、どんな世界を創り上げるかは、琴次第だ。


 


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