第34話 箱館戦争
明治元年(1868年)、日本は大きな転換期を迎えていた。江戸幕府の崩壊と新政府の成立により、長年続いた江戸時代が終わりを告げた。旧幕府艦隊を率いた榎本武揚は、江戸城の無血開城に反発し、徹底抗戦を主張していた。榎本は、江戸を脱藩後、蝦夷地(後の渡島国)に向かい、箱館を占領して一時的に箱館政権を樹立。しかし、その後、艦隊の旗艦「開陽」を暴風雨で失い、海上戦力において新政府軍に対して劣位に立たされていた。
明治2年3月、榎本は重大な情報を手に入れる。新政府軍の艦隊が宮古湾に入港するというもので、その中には「甲鉄」号が含まれていた。甲鉄号は、当時日本唯一の装甲艦であり、圧倒的な戦力を誇っていた。甲鉄はアメリカで建造された、南北戦争時のアメリカ連合国海軍の「ストーンウォール号」であり、戦後はアメリカの中立政策の影響で日本に引き渡されることがなかった。しかし、幕府がその引渡しを交渉していた経緯があり、最終的には新政府に引き渡されていた。
この甲鉄の登場は、榎本にとって大きな障害となる。榎本は、江戸脱藩以前からアメリカとの交渉を進め、甲鉄を手に入れることで、対外的な立場を強化し、また軍事的にも優位に立つことを目論んでいた。しかし、その甲鉄が新政府軍の旗艦として海上に登場したことで、榎本の思惑は大きく外れた。
新政府軍艦隊の艦船「甲鉄」、「春日」、「丁卯」、「陽春」、および徳島藩や久留米藩から派遣された軍用輸送船4隻が、宮古湾に入港しようとしているという情報は、榎本にとって最も危険な知らせだった。この艦隊が箱館を目指すとなれば、旧幕府軍の海上戦力はさらに劣勢に立たされることは明白だった。
しかし、榎本は焦りを見せず、冷静に対策を練り始めた。彼は、艦隊の弱点を突くため、まずは情報戦と戦術的な運用を優先させた。宮古湾への新政府軍艦隊の接近は、榎本にとってまさに最後の決戦の時であり、箱館政権を維持するためには、この艦隊を撃退しなければならない。
そのため、榎本はまず新政府軍の動向を注意深く観察し、艦隊の航路や進軍速度、補給状態を徹底的に調査した。そして、旧幕府艦隊に残されたわずかな戦力を結集し、甲鉄を筆頭に新政府軍の強力な艦隊との決戦に備えるのだった。
戦闘の前夜
3月中旬、榎本は軍の指揮官たちを集め、最後の戦略会議を開いた。会議では、甲鉄を撃退するためにどのように立ち回るか、また、箱館の防衛体制をどう構築するかが議論された。
「甲鉄を正面から相手にするのは愚策だ」と、ある幕府艦隊の将校が言った。「甲鉄の装甲は圧倒的だ。何よりも、その火力は我々の艦船を一瞬で沈める力がある」
榎本は黙ってその言葉を聞いた後、ゆっくりと口を開いた。「確かに甲鉄の火力と装甲は恐ろしい。しかし、我々には他にも力がある。艦隊を上手に動かし、甲鉄の補給線を断つことができれば、戦局は変わるはずだ」
会議は深夜まで続き、最終的には夜襲や機動戦を駆使して、新政府軍艦隊に接近する方法が決まった。榎本は、敵艦隊の動きに合わせて、旧幕府艦隊の艦船を分散させて奇襲をかける計画を立てた。
戦いは数日後、宮古湾で始まった。新政府軍艦隊は、予想通り宮古湾に到達し、箱館に向けて進撃を開始した。しかし、榎本の旧幕府艦隊はその時を待ち、隠れた位置から反撃を仕掛けた。
甲鉄を中心にした新政府軍艦隊は、榎本の巧妙な戦術に苦しみながらも、決して簡単に敗れることはなかった。戦局は長期戦に突入し、双方の艦隊が激しい砲撃戦を繰り広げた。
旧幕府艦隊は、新政府軍の艦隊の補給線を断ち、物資を絶つことに成功する。しかし、甲鉄の強力な火力により、艦隊の戦力差が次第に明らかとなり、榎本は撤退を余儀なくされる。
最終的には、旧幕府艦隊は箱館に戻り、戦局は新政府軍の勝利に終わった。しかし、榎本の指揮と戦術は、当時の日本海軍の戦術に大きな影響を与えることとなり、彼の名は歴史に刻まれることになった。
箱館戦争は、新政府の勝利で終わったが、榎本武揚とその艦隊の勇敢な抵抗は、後世に伝えられることとなる。そして、甲鉄をはじめとする新政府軍の艦船は、日本海軍の近代化への一歩を象徴する存在となった。
ここまでが史実だ。
明治時代、激動の時代を駆け抜ける一人の男、土方歳三。新政府軍との戦いに明け暮れる中、ある日、彼は不可解な出来事に遭遇する。
時は1868年、箱館戦争の激戦が続く中、土方歳三はふと見知らぬ男に出会う。その男は、誰もが信じられないことを告げる——「私は未来から来た、永倉新八だ」
永倉新八は土方にこう告げた。「あなたの未来は悲劇だ。あなたは戦いの中で命を落とし、永遠に戦の中で苦しむことになる」土方はその言葉に驚愕し、恐れを抱く。「未来? そんなことがあるはずがない」
永倉は淡々と続けた。「私はその未来から、あなたに伝えに来た。だが、私は単なる伝達者ではない。あなたの未来を変えるため、協力をお願いする」
土方は一瞬その話に耳を傾けるが、すぐに疑念を抱く。「お前が言う通りなら、未来を変えることができるのか?」
永倉は冷静に答える。「私は、あなたが死ぬ未来を回避する方法を知っている。それは、この戦争を終わらせ、新政府軍を壊滅させることだ」
土方はその言葉に少し動揺したが、すぐに目を鋭くした。「もしそれができるのなら、協力してやろう。ただし、私にとって大事なのは結果だ。あなたが言っていることが本当なら、力を貸す価値がある」
永倉の言葉には一つの裏があった。それは、土方が戦争を終わらせるためには、方法を選ばなければならないということだった。土方は永倉の助言を受け入れ、新政府軍を壊滅させるためにある計画を立てる。
中沢琴という若き女性が、箱館に住んでいた。その兄は新政府軍の重要な将校であり、土方にとっては重要な交渉相手だった。永倉の計画に従い、土方は琴の兄を拉致し、彼を人質にして新政府軍を脅迫することを決意する。
「もし新政府軍が箱館の制圧を続けるなら、琴の兄を殺す」と土方は言った。その言葉は冷酷であり、計画の恐ろしさを物語っていた。
琴は土方の脅しに恐れをなすが、永倉から別の選択肢を提示される。「もしあなたが自分の力で兄を救いたいのなら、私が示す方法に従うべきだ」永倉は自分が持つタイムマシン「虚ろ舟」の存在を明かした。「これを使えば、戦局を変えるために過去や未来を行き来することができる」
琴は迷った。家族のため、兄の命を救いたい気持ちと、未来への好奇心が交錯する中、最終的に琴は虚ろ舟に乗る決断を下す。「私は戦争を止めるために、この世界の未来を変えなければならない。兄を救うために、私は何ができるのか見つけ出す」
琴は永倉の導きで、虚ろ舟に乗り込み、タイムスリップを果たす。目的地は第一次世界大戦の最中、1914年のヨーロッパだ。彼女の目的は、戦争のきっかけを未然に防ぎ、世界の流れを変えることだ。
虚ろ舟の中での時間移動は、初めての経験だった。琴は、過去や未来の違いに圧倒されながらも、必死で自分の任務を果たす決意を固めた。しかし、タイムスリップした先は、彼女が想像していた以上に複雑で危険な世界だった。第一次世界大戦の開戦を阻止するためには、数多くの歴史的な選択を避け、巧妙に介入しなければならない。
琴は最初に、ヨーロッパの諸国が抱えていた政治的対立を解決するため、外交的な手段を駆使して交渉を重ねる。しかし、その一方で、タイムパラドックスや歴史を大きく変えようとする危険が常に迫っていた。
琴の介入により、歴史は次第に不安定になり、彼女が過去を変えることで未来もまた変わっていく。第一次世界大戦が開戦するかどうかは、まさに琴の手に委ねられていた。
だが、琴が戦争を防ぐために動くたびに、予想外の反動が起こる。歴史は容易に改変できるものではなく、琴が触れることで新たな問題が生じ、別の時代の重大な出来事に影響を及ぼす。
琴は次第に、過去を改変しようとする行動が、必ずしも正しいとは限らないことに気づく。歴史の流れには見えない力が働いており、どんなに努力しても完全に歴史を変えることはできないのだ。
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