第21話 無人ドローン
数日間の探索を経ても、新徴組の隊士たちは現代の世界にどう適応すべきか決めかねていた。沼田市の街並みや技術は彼らにとってあまりにも異質で、彼らの心に漠然とした不安を抱かせていた。
その日、隊士たちは駅近くの公園で休息を取っていた。空気はひんやりとし、周囲の騒音が時折耳に入ってくる。どこか遠くで自動車の音が鳴り、近くのカフェからは楽しげな会話が漏れ聞こえていた。時折、無人ドローンが空を飛び交う光景が不気味で、彼らの気分をさらに重くしていた。
「どうしても馴染めんものだな、これが現代というものか」
土方歳三が呟く。彼の目には、目の前の風景がどこか非現実的に映っていた。
「確かにな…」
近藤勇が頷き、遠くに目を向けた。「だが、これからどうするかが重要だ。我々がこの時代で生き抜くためには、まず何かしらの拠点を作り、情報を集めなければ」
その時、目の前に一人の女性が現れた。長い黒髪を束ね、きちんとした制服を着たその人物は、何とも落ち着いた雰囲気を漂わせている。彼女は隊士たちの方に歩み寄り、何かを話しかけるように見えた。
「あなたたち、何かお困りですか?」
その声に、隊士たちは驚きつつも、すぐに警戒心を持った。
「お前は…誰だ?」
土方が鋭く尋ねる。
「すみません、失礼します」
その女性は驚きながらも、冷静に続けた。「私は中沢琴。沼田市に住んでいる者です。あなたたち、少し…異国の方々に見えるので、何かお困りなのかと思いまして」
その言葉に、隊士たちは一瞬戸惑った。現代的な服装をしているが、どこかしら丁寧で礼儀正しい態度が、まるで江戸時代の武士と通じる部分があるように感じられた。
「異国の者だと?」
沖田総司が首を傾げる。確かに、彼らの姿は異常ではないが、まさか現代人が江戸時代の武士のような振る舞いをする者がいるとは予想だにしなかった。
「いや…私たちは、少しばかり迷っているだけだ。だが、君がここで何か手伝えることがあれば、頼みたい」
近藤勇が冷静に言うと、中沢琴は微笑んだ。
「それなら、少し話を聞かせてください。どうしてこんな場所に…?もしよろしければ、私が情報を集める手伝いをしましょう」
中沢琴は、隊士たちが異世界に迷い込んだことに気づいているのかもしれないという直感が彼らにあった。彼女がこれ以上の助けになるのかどうかは分からないが、現代の技術や社会に関する情報を持つ者として、貴重な存在であることは間違いない。
「実は…我々、ある出来事で異なる時代に来てしまったようなのだ」
近藤勇がついに告白した。語りながら、彼の顔にはどこかしらの苦悩が浮かんでいた。
「異世界に?」
中沢琴は驚きながらも、冷静に聞き返した。「それはまた、奇妙な話ですね。でも、もし本当に異なる時代に来てしまったのだとしたら…私にできることがあれば、力になりますよ」
「ありがとう。しかし、まずはこの町で生活していくために、我々の時代に戻る方法を探すのが先決だろう」
土方歳三が言った。
「では、沼田市について詳しく調べる必要がありそうですね。今の時代について、私は少し知っていることがあります。例えば、近くにある企業や団体、交通機関の仕組みなども」
中沢琴は続けた。「私は普段、沼田市の歴史を調べているので、少しでもお力になれるかもしれません」
その言葉に、隊士たちは少し安心したような表情を見せた。もし本当にこの現代社会に生きるための手掛かりがあるならば、まずはその情報を集めることが必要だと判断したのだ。
「そうか、では君の知識を借りるとしよう」
近藤が言うと、土方も頷いた。
「だが、くれぐれも注意しろ。現代の人々の動きや社会には、我々が予想できない部分が多いからな」
土方が鋭い視線を向け、警戒を怠らないようにと伝えた。
「もちろんです。私もあなたたちと同じように、突然この時代に出会ったことが信じられませんから」
中沢琴は微笑みながら答えた。「でも、信じてください。あなたたちがここで生活できるように手助けします」
その後、隊士たちは中沢琴とともに、沼田市で新たな生活を始める決意を固めた。江戸時代から来た武士たちが現代の社会でどのように生き抜くか、そして時空を越えた謎を解くための冒険が、今、ようやく始まろうとしていた。
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