第5話 新しい婚約者選び

オデットに絡まれながら準備を終え、王宮へと向かう。

馬車にはバシュロ侯爵も同車していた。

国王から私を連れて謁見するように言われたらしい。


「急に謁見だとは……ニネットは心当たりあるのか?」


「オデットから聞いていないのですか?」


「オデット?オデットが何かしたのか?」


「……聞いていないのであればいいです」


オデットが説明していると思っていたのに、何も言っていないとは。

ここで説明して騒がれても困るので、黙っておく。

侯爵は私から聞きたそうだったが、私が窓の外を見ていたせいか、

それ以上は話しかけられなかった。


近衛騎士に案内されて謁見室に入ると、

国王と王妃の他に、カミーユ様と何人かの男性がいた。

想像通りだなと思ったけれど、侯爵は違ったようだ。

こんなにも人がいることに驚いている。


「ああ、来たか」


「陛下、急に何かあったのでしょうか?」


「バシュロ侯爵は娘から何も聞いていないのだな」


「ええ、聞いておりません。何があったのですか?」


ふぅぅと国王がわざとらしくため息をついた。

どうやら機嫌が悪いらしい。

まぁ、カミーユ様が勝手に婚約解消したのだと思っていたけど。

よほどお怒りのようだ。


「一週間ほど前、カミーユとニネットの婚約が解消された」


「はぁ!?」


「原因はオデットだ」


「娘が何をしたというのですか!?」


婚約解消の原因がオデットだと国王がわかっていたことに驚いた。

もしかしてカミーユ様が報告したのかな。


「ニネット、侯爵家での生活は快適だったか?」


「いえ。苦痛でした」


「そのようだな」


「ニネット!どうしてだ!

 お前のわがままを全部叶えていただろう!?」


「私はドレスや装飾品なんて買っていませんし、

 使用人にわがままを言ったこともありません。

 侍女はつかず、昼食も抜かれていました。

 実際に買っていたのは侯爵夫人とオデットです。

 黙っていたのは、侯爵夫人からの命令でした」


「はぁ?……まさか、本当なのか」


呆然としている侯爵に国王が報告書を渡す。

それを見て、侯爵は真っ赤な顔で震えだした。


「な、なんていうことをしでかしたんだ……あいつらは」


「それだけではない。オデットはニネットの悪評を広めていた。

 オデットの物を奪う、傷つける、使用人にわがままを言う、

 カミーユの婚約者だと威張るなんてものもあったな。

 ニネット、身に覚えがあるか?」


「いいえ、ありません」


「そうだろうな。むしろ報告書を見る限り、

 虐げられていたのはニネットのほうだ」


「そんな!ニネットが虐げられていたなんて!」


初めて知ったのか、少し離れた場所でカミーユ様が叫んだ。

国王はそんなカミーユ様を冷たい目で見ると、吐き捨てるように言った。


「カミーユ、お前には失望した。

 ニネットとはうまくいっていると嘘をついていたな?」


「……嘘などでは」


「お前が仲良くしていたのは、ニネットではなくオデットだろう」


「それはオデットがいじめられていると言うので……」


「それを調べたのか?」


「……いえ」


私とカミーユ様が婚約解消してから国王が調べてわかったというのなら、

カミーユ様が調べればすぐに本当のことがわかっただろう。

なのに、カミーユ様は調べもしなかった。


隣にいる王妃も黙っていられなくなったのか、

カミーユ様に諭すように問いかけた。


「今回のことはわたくしも庇えませんわ。

 カミーユ、勝手に婚約を解消するなんてありえません。

 どうしてその前に相談してこなかったのですか?」


「あれは!本気で解消するつもりなんてなく!」


「本気ではなかった?

 ニネットと結婚するつもりなら、どうしてオデットをそばに置いたのです!

 結果として、オデットにも傷をつけたとわからないのですか!」


カミーユ様は側妃の子だが、側妃が亡くなったために、

幼いころから王妃に育てられている。

自分の子と分け隔てなく育てられたことで、

カミーユ様はまっすぐに育ったと言われていたのに。


今回のことで一番悲しんでいるのは王妃かもしれない。

感情的になって、涙をこぼしかけている。

それを見たカミーユ様は反省することもなく、これからのことを提案をする。


「婚約者をオデットに変えるのではダメなのですか?

 同じ侯爵家ですし。侯爵がニネットを気に入っているのなら、

 ニネットに侯爵家を継がせれば……」


「そんな簡単なことではないでしょう。

 正妻の子がいるというのに、婚外子に継がせるなんて」


婚外子と言ってしまったからか、王妃は私が見ているのに気がついて、

はっとした顔をして恥ずかしそうに黙り込んでしまう。

国王と違って聡明な王妃でも今回のことで動揺しているのかも。

普段ならそんな失敗はしないはずだ。


ただ、この一言でわかった。王妃は私のことを知らない。

私が侯爵の愛人の子だと思わされているらしい。

本当のことを知っているのは、国王と精霊教会とバシュロ侯爵だけ?

他にも協力者がいるのだろうか。


カミーユ様と王妃の会話が途切れたことで、

国王が私へと視線を向ける。

少しだけ私の機嫌を取るような微笑み。

私の機嫌を損ねたらまずいとでも思っているような。


「ニネット、カミーユと婚約をし直す気はあるか?」


「……断ってもいいのなら、断りたいです」


「そうか」


さすがにカミーユ様ともう一度婚約するのは避けたい。

またオデットに何を言われるかわからないし、

カミーユ様にその気があるとも思えない。


国王はわざとらしく大きなため息をついてから、カミーユ様と侯爵に命じた。


「カミーユとオデットには責任を取らせ、婚約を命じる。

 侯爵もそれでいいな?」


「に、ニネットは!」


「ニネットには新しい婚約者を用意する。

 ここにいる候補者から、好きな者を選ぶがいい」


好きな者……ここにいる男性たちが。

先ほどから会話を楽しそうに聞いている男性たちは候補者だったのか。


出番が来たと思ったのか、私の方に近づいてくる。

どこかで見たことがあるのは、王族に近いものだからか。


「王弟のブルーノ、第二王子のランゲル、オスーフ侯爵家のカルロだ」


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