第16話. 君のコーヒーを毎日飲みたい

 シアを握っていなくても、翼を出して飛べるはず。少しなら自分の力だけでも、なんとか……


 レクロマは弱々しい2枚の翼を出し、ゆっくりと飛び上がった。手足は力なくだらりと垂れ下がっている。


 これで後は窓を開けて外に出れば……


 魔法でなんとか窓を開き、家から外に出た。シアは壁に寄りかかり、うずくまって嗚咽していた。


「シ……うぉ」


 胸から地面に叩きつけられた。シアを呼ぼうとしたが、翼の魔力を維持しきれなかった。


「レクロマ、大丈──」


 シアは感情を切り替えるように大きく息をつく。シアは一瞬心配したようだが、怒っている振りを続けている。


「何しに来たの。あなたに私はもう必要無いでしょ」


 シアはレクロマを壁に立てかけて座らせた。シアはレクロマに背を向ける。


「まさか、さっきの聞こえてた?」


「聞こえてたよ」


 シアは頭に手を当て、軽く笑いながらため息をついた。


「ごめんシア、勘違いさせて……。実はさっき注文した武器は、シア用の武器なんだ。シアは魔法は得意だけど、武器を持ってないからあった方が便利だと思って……」


 シアは口を開けたまま少しの間動きを止めていた。


「は? え? 何で言わないの……」


「俺の武器だと思わせてサプライズで渡そうかと思ったんだけど、失敗しちゃった」


「じゃあ、私が勝手に勘違いして喚き散らしてただけ……。ははっ……私バカだ。レクロマは私を信頼してくれているのに、私はレクロマのことを信頼できてなかったみたい。ごめんね」


 シアは両手で目を押さえて泣いている。そして呼吸を整えて感情を落ち着かせる。


「ごめんね、レクロマ。いつも一緒にいてくれてありがとう」


 シアは涙を手の甲で拭い、レクロマに笑いかけてきた。


「それはこっちのセリフだよ。シアは俺にとって大切だし、俺だって離れたくない。俺はこんな風に俺はシア無しじゃ何もできないし、生きていけない。こんな弱い俺だけど、背負ってくれませんか」


「もちろん、こちらこそ。私が一生背負い続けるから」


 シアはレクロマを横から強く抱きしめる。レクロマもシアに頭をもたれた。


 あぁ、幸せだ。ずっとこうしていたい。……だめだ、俺が幸せなんて感じちゃいけない。俺にそんな権利は無い。


 シアは少し不安そうにレクロマを見る。そして頭を優しくなでた。


====================


 俺はシアに背負われて鍛冶屋に来た。今日が待ちに待った武器の受け取りの日だ。


「おう来たか、できてるよ。ほら」


 鍛冶屋の主人は黒と淡い赤の木目のような模様がある豪華な指輪を台に置いて差し出してきた。中心には赤い魔硝石が取り付けられている。


「えっ……何これ。武器じゃないの?」


 俺、武器って言ったはずだよな。


 レクロマの疑問を浮かべた表情に、主人は待ってましたと言わんばかりの顔で笑いかけてくる。


「いやいや、これは武器ですよ。持ち運びやすいような形状にしてあります。アルド・ベリオールの鱗と魔力の伝導性が高い金属でできた木目金に、魔力を増幅するための魔硝石を取り付けました」


「木目金に、しかも魔硝石なんて……そんなにお金は無かったはずじゃ」


「気にしなくていいよ。アルド・ベリオールの鱗なんてお宝、最高の出来にしたかったから勝手にやっただけだ。ほらほら、シアちゃんに指輪をつけてあげなよ。シアちゃんも待ってるよ」


 レクロマと主人の話に耳を傾けることもなく、シアは何かを考え込んでるような顔をしている。


「シア、降ろして」


 シアには聞こえていないようで、そのまま何かを考え続けていた。


「シア?」


「あ、あぁ……ごめんなさい」


 シアは俺を降ろして立膝にして座らせた。鍛冶屋の主人も出てきて俺の体をシアの方に向け、俺の両肩を持って支えた。


「シア!」


「は、はい!」


 シアは姿勢を正してレクロマは魔法で指輪を動かしてシアの目の前に持って来た。


「左手を」


 シアはレクロマに促されるまま、左手を差し出した。シアは期待に胸を膨らませながら右手で左胸を押さえている。


「はい……」


「指輪は邪魔にならないように薬指につけるよ」


 ゆっくりとシアの指に指輪を差し込むと、シアはとても嬉しそうに微笑んでいた。


「ありがとう、レクロマ。永遠に大切にするよ」


 シアは指輪を何度も見て、感慨深そうに撫でている。


「気に入ってくれたみたいで良かったよ」


 シアが俺を背負い上げると、鍛冶屋の主人は店の奥から2枚の板を持って出てきた。


「それで、この指輪は少し魔力を込めることでこの剣と盾の複合武器を高速で動かすことができるんだ。それに、この複合武器を媒介にして魔法を放つこともできる。これは、太ももにこのベルトを着けることで、太ももに取り付けることができるから携帯性も高くなる」


 店主はシアに2本のベルトを差し出してきた。シアはそれを受け取り、魔法の異次元へとしまった。


「すごいですね、アルド・ベリオールの鱗がここまで化けるなんて。試してみても良いですか?」


「もちろん良いよ」


 そう言ってシアが左手を振ると、鍛冶屋の主人が持っていた複合武器が浮き上がり、空中で高速に動き回る。そしてシアが人差し指を軽く動かすと氷を纏った。


「すごい扱いやすいです。魔法を発動させるイメージも、自分の体と全く変わりません」


「そうだろ、俺の最高傑作だからな」


 主人は自慢げに腕を組みながら口元を持ち上げて笑う。


「これで、これから村を出ても安心して戦えます」


「村を出るのか?」


「はい、レクロマのやるべきことを果たすために」


「そうか、薄々そんな気はしてたよ。いつも森に出て何かしてるって聞いてたしな。絶対に死ぬなよ。レディンもエレナさんも悲しむからな。頑張れよ」


 鍛冶屋の主人はレクロマとシアの肩に手を置いて鼓舞してくれる。


「ありがとうございます、また必ず帰ってきます」


 シアは鍛冶屋を後にしてレディンさんの家へと向かった。


「レクロマ、この複合武器に名前を付けてよ。名前があった方が使いやすいでしょ」


「分かった」


 それじゃああの単語から取って……。最後の部分を削って……


「フェアロー、っていうのはどう?」


「いいね……凄くいい」

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