第9話. リハビリとその先へ

 レクロマたちは昨日の森に着いた。


「それじゃあ、始めようか」


 シアはゆっくり俺を木の根元に降ろした。そしてレクロマの右手を握ると一瞬の光を発する。シアは姿を消し、レクロマはいつの間にか剣を持っていた。


 おぉ、動ける。昨日はそれどころでわからなかったけど、俺の魔力とシアの魔力が合わさって魔力が溢れそうなくらいな気もする。今日から練習頑張らないと。そういえば、今日は昨日みたいに苦しくない。


「今日は辛くないや」


「昨日は初めてだったから魔力が変質を拒んでいたけど、一回やってしまえば操作しやすくなるから」


 シアは剣の姿のまま話し、頭に声が響いた。


「へぇそうなんだ。まずは体力作りかな」


 どこに話しかければ良いのかわからないけど、とりあえず宝石が中心に付いてるからここに話しかければ良いのか。


「そうだね。とりあえず今日の目標を決めようか」


「この森を一周する。この森は比較的小さそうだから」


「いきなり頑張り過ぎじゃない? 徐々に増やしていかないとすぐに辛くなるよ」


「俺は頑張らないといけないから。早く戦えるようにならないと」


「無茶しないでね」


 レクロマはふらふらしながらなんとか立つが、足がなかなか出ない。


「……どうやって走るんだっけ」


「まずは歩いてみようか。左脚に力を入れて右脚を前に出して、バランスを崩さないように」


 少しずつ前に前に歩みを進めると体が左右に揺れ動く。


 歩くだけでこんなに難しかったっけ。バランスが取りにくい。


「胴体は真っ直ぐにして。右脚を出したら左腕を前に振る。左脚を出したら右腕を振る」


 少しは歩けるようになったかな。


====================


 しばらく歩く練習をしていると次第に走れるようになっていた。


 久しぶりに走る感覚はすごく心地いい。


 進行方向の奥の方で何かが動く音が聞こえた。そして影が動くのが見える。


「シア、何かが近くにいる」


 黒くて二足歩行で歩く魔者だ。


「あれはデリアンだね、あの程度の魔者なら練習にちょうどいい。動きが遅いし攻撃も大したことない。私を振り回していれば倒せる。でも、無茶はしないでね、レクロマ」


 デリアンはゆっくり振り返ってレクロマの方に少しずつ近づいて来た。


 魔者、倒さなくちゃ……戦えるようにならなくちゃいけない。そうしないと復讐なんて……


 レクロマは脚を開いて力を入れて、シアを両手で握って構えた。


「なんだ……体が、おかしい」


 シアをデリアンに向けると、何だか体の中から何かが暴れ回る感覚に襲われた。


「何かが、体の中で……溢れる。体の中が、冷たい、凍えそうだ」


 レクロマは体を縮めながら苦しい息をしている。


「レクロマ、落ち着いて」


 デリアンは遅いながらも走って向かって来た。


「ぐ……あぁ……ああぁぁ」


 俺は立膝になって左手を地につけた。すると、空中に氷柱つららが二本現れた。


「レクロマの魔法か……」


 何かが見える、氷柱を動かせるビジョンが。そう思った時には俺はシアをデリアンに向けて横に振るっていた。


「突き刺され」


 二本の氷柱はデリアンに向かって飛んで行き、突き刺さった。デリアンはその場に倒れて動きを止めた。デリアンの傷口からは不思議な色に輝く魔力が流れ出ている。


「倒した……それに、あれは何なんだったんだ」


 疲れた……。久しぶりにこんなに動いたからな……体が動かない。


 シアは一瞬の光を発して人間の姿に戻った。


「お疲れ、頑張ったね」


 シアはレクロマを背負い上げてレクロマを労う。


「シア、さっきの氷柱は何だったんだろ」


「魔法だね。魔法は魔力の流れを使うことで発現させられる力だよ。魔法は体の動きと思考で操作する力。体を大きく動かせば、魔法の威力も大きくなる。魔法の熟練度が高まれば、もっと小さな動きで強い魔法が出せるようになる」


 もっと練習すれば、四肢を動かさなくても魔法が使えるってことなのか……


「レクロマの元々の魔力量に加えて私の魔力によって魔力が爆発的に大きくなってる。だから、感情の昂りで魔法が暴発してしまう。さっきは十分に戦えてたけど、練習して使いこなせるようにならないと危険。それに、セルナスト王に対抗するためにも、剣技だけで戦うよりも魔法が使えた方が良い。だから、剣技だけじゃなくて魔法もできるようにしよう」


 また、シアの力。何もかもが借り物だ。


「そんな顔しなくても、私が教えるから大丈夫だよ」


「わかってる。俺がもっと強くなって、王に復讐ができればいいんだ。そうすれば……」

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