第5話. 料理の村ビレン村

 森を二十分ほど歩くと、赤いレンガの家が集まった村が見えた。


「あれがビレン村だと思うよ。レンガが特産品で、窯があって料理で栄えてるらしい」


 シアはビレン村の入り口の門を通って入ろうとすると門番が話しかけてきた。


「こんにちは、今日はどんな用で?」


「料理が有名だって聞いたので食べに来たんです」


「背負っていらっしゃるのは弟さんですか?」


 門番は俺を手で指して言った。


「……そうです。病気で動けないんですけど、美味しい物を食べさせてあげたくて」


「優しいお姉さんですね」


「はい、優しくてかっこ良くて、俺の道を照らしてくれます」


 今日会ったばかりだけどこれは言い切れる。


「お姉さんのことが大好きなんですね」


「はい。大好きです」


 俺がそう言うと、シアは照れくさそうに俯いた。


「では、良い出会いを」


 門番はそう言って会釈をして、シアも軽い会釈を返した。


 料理を出してくれそうなところを探しながら歩いていると、シアが口を開いた。


「さっきのはどういうこと? 私が大好きって」


「そのままの意味だよ。シアがいれば動けるから、とかそういうことじゃなくて俺はシアと一緒にいたい」


「財布代わりってこと?」


「違うよ……」


 俺は何て言って良いのかわからなくてただ顔を赤らめるだけだった。


「出会ってから一日も経ってないのに、もう好きになっちゃったの? やぁらしぃ」


「っ……ち、違くはないけど」


 自分でわかってても言われると恥ずかしい。まさか1日でシアのことが復讐くらい大切な物になってしまうなんて。でも、復讐が最優先だ。


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「どの店が良い? 色々あるよ。温かそうな物だと、パン、グラタン、ローストチキン……」


「グラタンが良いな」


「よし、わかった」


 グラタン屋に入るとにやついた顔の店主と思われる女性が出てきた。


「あらあらおんぶされちゃって。甘えん坊な子ねぇ。子供用の椅子用意しなきゃかな」


 店主はレクロマの目線に合わせてしゃがみ、まるで子供に話しかけるかのような声を出した。明らかに馬鹿にした声だ。


 悔しいけどここで病気だって言っても負け惜しみになってしまう。確かに俺くらいの歳じゃおんぶなんてされないし、恥ずかしいことだと思う。これからもこうした目で見られることはあるだろう。そう思って飲み込もうとした。しかし、シアは顔を歪めた。


「レクロマは病気なんだよ。何も知らないくせにどうして馬鹿にできる」


 シアが店主の前にずいと乗り出した。


「えっ……ごめんなさい」


 店主は面を食らったような顔をして謝った。


「よりによってレクロマが一番気にしてるところを突いて悲しませて」


「ごめんなさい。私、知らなくて」


「関係ないよ、そんなこと。表面上の情報しか持っていないくせに相手を全て知った気になって、非難する。あなたはそれが正しいことだと思っているの? レクロマからはさっきまで黄色い色が見えたのに緑色になってしまった。レクロマは久しぶりに食事を楽しもうと思っているのに、楽しい気分が台無しだよ」


「もういいよ、シア」


「だめ、私が悔しいから。レクロマは動けなくなっても必死に運命に抗って、他人のために戦おうとしているのに」


「すいませんでした……お代は結構ですので。お許しください」


「あなたの店で食べるわけないでしょ。他の店で食べるから。行こう、レクロマ」


 シアは不機嫌なまま店の出入り口から外に出た。


「ありがとう、シア。シアがああ言ってくれなかったら俺はずっと負けたままだった」


「私のためだって言ったでしょ」


 シアは自分のためだって言うけど、それは俺のための怒りなんだろうな。とてもかっこよかった。俺、シアがいないとだめかもしれない。


「ごめんね、グラタン食べられなくなっちゃった」


「いいよ、別に」

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