第6話 曽呂門町の神様 その6
リリスに初めて出会ってからもう3年目のハロウィンが来た。
僕は仮面ライダーBLACKのコスプレをして橋の上にいる。
リリスの人気は曽呂門町に留まらず、YouTubeやTikTokでの活動がテレビ出演につながり、今や全国的に有名なカリスマアイドルとしてメディアの中にいる。
BARやライヴハウスでの活動をやめてから、メディア以外で彼女を直接目にする機会はすっかりなくなった。
プロとして本格的に音楽活動をしているリリスに直接会えるのはキャパ5000人を超えるコンサート会場くらいで、遠目からしか眺める事が出来なかった。
そんな彼女が今日この橋の上でゲリラライヴを行うという噂を聞いた。
原点回帰したい。
そんな意味で彼女が独断したイベントらしい。
ステージもセキュリティもない路上ライヴ。
彼女一人でアコースティックギターを持ち込み、曽呂門町の橋の上でハロウィンを熱狂させる。
このライヴの配信予定はなく、スマホを持ったファンたちが同時多発でネットに配信する事を見込んでいた。
だから今日は何が起こるかわからない。
橋の上は噂を聞いて待ち構えているリリスファンで溢れている。
僕も2時間前から橋の上にいるがリリスらしき姿は今のところない。
リリスはいつ来る?
リリスはどこから来る?
みんな辺りをキョロキョロして、リリスの登場を待ちわびていた。
「あ、リリスだっ! あそこにリリスがいるっ!」
橋の上で誰かがそう叫んだ。
その声に反応した人たちがザワザワと動き、人の列に大きなうねりが起こる。
そして通行も出来ないほど混雑していた橋の上の群衆が突然二つに割れた。
僕はその群れの動きに押され、耐え難い圧迫感を受けながら、群れを割って通りを歩いて来るリリスを見た。
リリスは真っ黒なワンピースに身を包み、同じく真っ黒な三角帽子を被って、まるで魔女のような姿だった。
「リリスっ! リリスっ!」
人々がリリスの姿を見て熱狂する。
「押すなっ! 苦しい!」
「危ないだろっ!」
「人が倒れてるっ! お願い、押さないでっ!」
リリスを中心に群れが割れ、リリスが橋の中央に登場すると、割れた人混みが再び閉じた。
橋が異様に揺れ、人の波に押されて橋からはみ出した人たちがどんどん川に落下する。
「アタシADHD+ASD🎵」
リリスの歌声が響いた。
その歌声にファンの歓声と悲鳴と怒号も入り混じり、橋が地震のように揺れる。
生まれて来ないデメリットは0だけど🎵
生まれて来たデメリットは無限大🎵
どっちがいいかは決まってるよね🎵
虚無、虚無、虚無、虚無ドットCOM🎵
とにかく子宮に帰りたい❗️
リリスの歌声と共に橋が異様に軋む音が聞こえ、僕たちはもみくちゃになりながら落下して意識を失った。
ドブ川の奈落の水は凍るように冷たかった。
このどうしようもない人生の最後で、リリスと心中する夢が叶った。
だから何の悔いもない。
……曽呂門町の神様、ありがとう。
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