第26話 レイモンド卿
「本当、便利な鎧よね。貴方が一人居るだけでここの魔族を一掃できるわ」
ヘルは度々、ゲイゼルを盾代わりにして
「では、ああいう場合はどうすればいい?」
ゲイゼルは廊下の先に現れた1体の
「コノ女の命が惜しくば武器を捨テロ!」――そう脅してくる魔族。
ただ、ヘルはつかつかと前へ進む。
「ヘル!」
「恐いのね、恐いのでしょう……じゃあ、もっと恐くしてあげる……
ヘルから流れ出た禍々しい靄に巻き込まれ、カタカタと震えだす
「――貴女は特別にすぐには殺さないでおいてあげる。どこから削いであげましょうか? どうせ死んでも元の世界へ帰るだけでしょう? 冥土への土産に楽しい想い出を作ってあげるわはぁ」
「ヤメロ……ヤメ……ヤメ…………アアアァァァァアアア!」
廊下中に、いや、きっと屋敷中に魔族の悲鳴が響き渡ったことだろう。ヘルの怒りの大きさを示すかのように、悲鳴は長く長く続いた。相手が魔族とは言え、廊下の先で行われている行為に私は怯えた。
「耳を塞いでいろ。アミラまで狂気に飲まれる必要は無い」
ゲイゼルがそっと抱きしめてくれた。
◇◇◇◇◇
「さすが人間を誘惑するだけあって
ケラケラと笑いながらヘルがそう言った。結局、あの魔族はヘルの拷問の最中に塵となって消えてしまったようだ。
その後はレイモンド卿の部屋へ辿り着くまでに、1体の魔族とも遭わなかった。静まり返った屋敷がむしろ不気味だった。
◇◇◇◇◇
ドガッ!――ゲイゼルが扉を破り、レイモンド卿の部屋へと踏み込む。
部屋の中は血と臓物から立ち昇る湯気と異臭で
「やりやがったわね、こいつら……」
ヘルが悪態を吐いて睨んだその先には、間に合わせで張り付けられたような皮膚と、ちぐはぐな細身の腕と足を継がれ、股間にも胴体ほどの大きさの不気味なものを生やしたレイモンド卿が居た。レイモンド卿はヘルの姿を目にして明らかに怯えていた。
「やめ……ろ……儂はここまでする気ではなかったの……だ。奴らが勝手に――」
「だまれ!! 魔族と手を組んだ時点でお前の罪だ!」
「イイエ、コレは貴女たちの罪よ……。貴女タチが我が眷属たちに暴虐の限りを尽くシタ、その報いナノよ……」
レイモンド卿の傍の闇から
「うるさい……魔族が勝手を言ってんじゃないわよ……」
ヘルが
「か、体が、勝手に……」
バタバタと、見苦しいほどに手足をばたつかせながら、レイモンド卿はベッドの上を仰向けのまま逆さまに這ってきた。頭は引き摺られるまま、股間の物がまるで蛇のように長く鎌首をもたげてヘルの前へ立ちはだかったのだ。
ズバッ!――とヘルが一線を描くと、蛇の頭は刎ね飛んだ!
「ギニャァァアアア! 痛い! 痛いィィィ! ヒィィィ!」
レイモンド卿が悲痛な叫びをあげた。
「アッハハハハハ! 愉悦、愉悦。コレだから男を苛めるのはヤメられぬ」
「そこは同感ね! だけどあんたはムカつくから殺す!」
ヘルが踏み込もうとすると、レイモンド卿の蛇の頭が再び動き出した。しかしヘルはその蛇の頭を踏み越え、
「無駄だ、無駄だ。このキスキル様には魔剣など通じぬ……」
ヘルの黒剣はその
「
「私は、聖堂騎士ではありませんので実戦で使えるような祈りは……」
「アミラ、傍に居ろ。何をしてくるかわからん」
私がゲイゼルの傍にいくと、彼は私を胸の前で抱きかかえるようにして2枚の盾で覆う。
こんな場合に何も役に立たない自分が腹立たしかった。
「ええい、うっとおしいわね! 気持ち悪いから近づくな!」
レイモンド卿がヘルに向かって執拗に擦り寄っていく。ヘルはそれを斬り裂くが、レイモンド卿の蛇は内側から湧いて出るように肉が盛り上がり、再生されていくのだ。しかもヘルが真っ向から真っ二つにすると、蛇の頭は二つに増えた。
「ヒィィ、ヒィィ、助けてくれぇ……」
当のレイモンド卿は、意に反して動く体に振り回されていた。が――
ドンッッッ!――轟音と、そしてヘルたちを包むように巨大な火柱が下の階から突き抜け、さらには天井にまで穴を開けて燃え上がったのだ!
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