第18話 2024年アニメ映画評17・「リンダはチキンがたべたい!」

 4月ラストはフランスのコメディ。監督はキアラ・マルタとセバスチャン・ローデンバックの二人で、後者は「大人のためのグリム童話」をかつて作っていた。正直、「大人ための~」の方が本作より良かった。スコアは7点くらいか。

 主人公は八歳の少女・リンダで、彼女の父親は幼き日に亡くなっており、現在は母・ポレットと二人暮らし。父との最大の思い出は彼が作ってくれたパプリカ・チキンだが、食べたのが一歳頃だったため記憶は薄れている。ある日、結婚指輪を盗んだと母に勘違いされてしまい、誤解の償いとしてポレットはなんでもすると言う。そこでリンダは「パパのパプリカ・チキンがたべたい!」とリクエスト。翌日、二人はチキンを買いに出かけるが、肉屋もスーパーもストライキで、チキンを手に入らない。ポレットは諦めるようリンダを諭すが、少女は首を横に振る。父との思い出に対する強い想いを知った母は、何としでもパプリカ・チキンを作ることを決める。

 「大人のためのグリム童話」を作った作家だけに画はカラフルで非常に独創的である。絵本の世界に迷い込んだような空間とポップなイラストに心奪われる。また、アクションシーンも芸が巧みで、コミカルな動きがいい。画面構成や色彩設計が上手く、原色を多量につぎ込んでもバランスが崩れない。とにかく絵は個性的で非常に良い。

 コメディと銘打った通り、話は結構クスクス笑えるんだが、こちらが人を小馬鹿にする態度でないと笑えない箇所もある。子供が絡んだギャグシーンは勘違いや注意散漫といった子供特有の微笑ましさが基礎になっているが、大人がメインとなるギャグは、所謂「人を傷つける笑い」なので、人によってはしんどいかもしれない。

 ポレットは不真面目で面倒くさがり屋な上、優しくされることにあまり有難みを感じない、ちょっと関わりたくないタイプで、見ているとイライラする。その上、モテるのだから、なんだかなあって感じ。コミュ力のあるおそ松って感じ。男はこういう女にコロッといってしまうのかね。

 対して姉のアストリッドは生真面目で、融通が利かないタイプ。あと短気。ただ、どうやら子供の頃から妹に振り回されてきたみたいで、それが彼女の人格形成に影を落としているらしい。お局っぽいが、真っ当に生きられたチョロ松って感じかもしれない。

 この二人の絡みは、兄弟姉妹がいる身からするとクるものがあるだろう。作中では、事あるごとに姉が妹の尻拭いをし、面倒事も押し付けられている。主観的には9:1で妹・ポレットが悪いので、真面目なアストリッドが不憫でならない。とはいえ、姉を非難する意見もあるかもしれない。堅苦しいし、若干スピってるしね。

 まあ、それはそれとして、作中では姉の被害がかなり大きい。ポレットはストでチキンが買えないからって、農場から盗み出し、挙句警察に追われており(一応、ラストで金を払って丸く収まる)、姉はその妹を捕まえるため奔走する羽目になるからだ。よく縁を切らないなあ、と思わなくもないが、根が優しいのかな……。オチで全体にハッピーエンドな雰囲気が醸し出されていたが、マジか? とズッコケてしまった。いや、まあ本人達がいいならいいんですけどね。

 姉妹の何とも言えない関係性は本作の見どころの一つだが、主たる展開はリンダが父の記憶を思い出すところである。先述の通り、赤子同然の齢で父を亡くしているため、彼女の胸には言い難い喪失感が付きまとっている。それは悲しみというよりは寂しさに近く、好きだったはずの父を思い出せない辛さなのだが、リンダは子供ゆえ上手く言葉にできないのがもどかしい。そんな彼女がパプリカ・チキンによって父の記憶を取り戻し、家族の幸いを再領有するのが大まかな筋で、父を思い出すシーンは割とグッと来た。

 ただ、間に入るドタバタ(チキン争奪カーチェイスや逃げた鶏の捕獲作戦など)のインパクトが強いので、エモーショナルな筋も何だかパンチ不足で、ちょっとフワフワしている。それゆえ最後の父を思い出すシーンも涙ちょちょ切れるほど感動できるわけではなかった。

 ストライキやお菓子を求める子供のデモなど、随所にフランス革命を意識させる演出があり、全体に狂乱・祝祭的空気が立ち込める。

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