松木さんは、働かない
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 松木さん、バス旅行を要求する
ある日、町工場の休憩室で、松木さんが声高らかに宣言した。
「やっぱり、みんなでバス旅行に行くべきだと思うんだよね!」
突然の提案に、休憩していた同僚たちは顔を見合わせ、ぽかんと口を開けた。この工場は小さな町工場で、忙しいながらもみんなで力を合わせて何とかやっている。旅行どころか、今月の売上すら気になる状況だ。それなのに松木さんは、そんなこと一切お構いなしだ。
「…いや、松木さん。そんなお金も時間もないんですよ」と、若手の斎藤が気まずそうに言った。
だが、松木さんは全く聞く耳を持たない。「いやいや、そんな細かいこと気にしなくていいって。楽しむことが大事だろ?それに、俺が思いついたんだから、みんな賛成してくれるよね?」
松木さんは自信満々に、まるでリーダーシップを発揮するかのように話を進めた。しかし、誰も賛成する者はいない。それどころか、松木さんの強引さに辟易した表情が広がっていた。
「それに、費用はどうするんですか?」と、斎藤が再び問いかけた。
松木さんはあっさりと、「みんなで出し合えばいいじゃん。俺が企画したんだから、そのくらいの協力はしてもらわないとね」と無邪気に言った。もちろん自分は払うつもりなど毛頭ないらしい。
場が重い空気に包まれる中、ベテランの鈴木がついに口を開いた。「松木さん、その提案はちょっと厳しいと思いますよ。まずは仕事に集中しましょう。」
しかし、松木さんはすぐさま、「なんだよ、みんなつまんないなぁ。こうやってみんなで息抜きしないと、士気が下がるだろ?俺が言ってること、間違ってないだろ?」と、まるで自分が正義であるかのように反論した。
それから数日間、松木さんはことあるごとに「旅行の話、どうなった?」と聞いてくるが、誰も耳を貸さない。次第に松木さんは、周りの冷淡さを自分に向けられた「嫌がらせ」だと考え始め、さらに自己憐憫に浸るようになる。
そして、そんな松木さんの自己中心的な行動は、さらに波紋を呼び、周囲の疲労感を募らせていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます